第3話 文字が読めない世界でウチは模索する
ウチは小学3年生になった。教科書は分厚くなり、読む話は文章量が増え、難しくなるだけでなく、行間も詰まってきた。
新クラスは担任が変わり、いじめっ子ともクラスが別になり、ウチには少し平穏が訪れた……かに思えた。
ここで国語の授業で始まったのはリレー音読。1人1文ずつ読んでいき、交代していくというものだった。
つまり、他の人が今どこを読んでいるかを教科書を見て特定し、追わなければならないのだ。
ウチにはかなりの地獄だった。今どこを読んでいるのか分からない。なのにもうそろそろウチの番が……焦れば焦るほど、ますます分からなくなった。
そんな状態で読める訳もなく、ウチは「えーっと…」を繰り返すだけだった。
先生は呆れながら言う。
「ボーっとしてないでしっかり追って」
読む場所をしっかり教えてくれた。だが、それでもウチには読むのがしんどかった。
文字が歪む。動く。一部が消える。
1単語として読んでいくのが精一杯だった。
クラスメイトからはクスクスと笑い声が聞こえた。
その声は、ウチ自身に静かに、そして確実に劣等感を積んでいった。
更には、文章題も増えていき、問題内容を理解するのにも時間がかかった。
そこからウチは様々なアイデアを考える事になる。
算数は比較的簡単だった。数字は10種類なので、歪み方を記憶すれば、どうにか内容は理解出来た。
文章題も、数字だけを読み取り、テストでは最近習っていた範囲から、かけ算なのか割り算なのかなどを判断して、どうにか乗り切っていた。
理科や社会はマンガやイラストが書かれた資料集などを見て、内容を覚えた。
1番しんどかったのは国語だった。漢字の読み書き、長文読解、そしてリレー音読。
漢字の読み書きは、合体漢字のように、3〜4の組み合わせでパズルのように考えると、IQテストのようで楽しかった。
長文読解は始めに文章を読まず、問題文を読み、そこに出てくる文章を見て、本文に目を移し、同じ歪み方をしている部分を探して解いた。
この頃からウチは歪まないように読むのを諦め、直前の歪み方を風景として記憶し、文章を判断していた。
日によって文字の歪み方は違うが、直前の歪み方は文字が同じなら形は基本的に同じだったので、それに気付いてからは、文章把握が格段に早くなった。
1番頭をフル回転させていたのはリレー音読だ。
どうしても瞬時に文章を捕まえるのは無理だったので、新しいお話に入った時、先生がまず文章を全て読んでくれたり、CDで音源を流してくれた。
なのでウチは必死に暗記した。1文1文逃さず、聞きこらした。頭の中で何度も何度も復唱し、どこから始めても言えるようにスタンバっていた。
その成果が得られ、ウチはリレー音読に自然に馴染めるようになってきた。
浮いた世界でウチは必死にもがき、気の遠くなる努力をして、ようやく普通と言われてる人にやや解けこみ始めたのだった。
ウチ自身が見ている世界は、皆とは全く違うということに気付くのは、まだまだ先の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます