第2話 文字が書けない世界で皆は突き刺す

ウチは小学2年生になった。教科書の文章量は増え、難しい漢字が多くなってきた。幼なじみとはクラスが別になってしまい、知り合いはいなくなってしまった。


ある日の漢字の書き取り小テスト。提出し、次の日に結果が返ってきた後、間違えた所はその場で書き直し、先生に提出し、丸をもらって、そこで初めて終了する。


ウチの答案は「谷」という漢字にバツがついていた。


なのですぐにお手本を見て書き直し、提出した。


しかし先生からは


「直ってない」


と言われた。ウチの頭にはクエスチョンマークが踊った。


どこが間違っているのか分からなかったので、お手本を見て、もう1度丁寧に書いた。


「直ってないでしょ。ちゃんと見て書いて」


より分からなくなった。ウチはお手本を見て書いているはずなのに、どうしてそんなことを言われるのか。


字を消し、もう1度しっかり見て書く。間違えないように。


「何回やるんだ!!だから直ってないだろ!!」


女性教師とは思えない罵声が飛んだ。

50代ベテランの経験を持ってしてでも、ウチには相当イラついたのだろう。


ウチは怒られる理由が分からなかった。どうしてちゃんとやっているのに、ウチは怒鳴られなきゃいけない。それでも書き直した。そうしないと終わらないから。すでに半泣きだった。涙を浮かべながら恐る恐る出した。


「いい加減にしろ!!同じ字を書いてるだけじゃないか!!!」


教壇を強く叩き、先生はその言葉を吐いた。


クラスメイト約30人の視線が集まった。恐怖やパニックに耐えられなくなり、ついにウチの目からは涙がこぼれた。


「お前が出来てないからだろ!!この泣き虫が!!」


追い討ちとは正にこの事だ。最早答案用紙は消しゴムで擦り続けた痕と、落ちた涙で最早原型を留めていなかった。


そしてここからウチは浮いた世界を永遠に漂い、彷徨うこととなってしまった。


クラスメイトからはいじめに遭い、登校する事も辛くなってきた。


ある日、母親に思い切っていじめを相談する事にした。少し先生に掛け合ってくれた。


だが、先生からの返事は、「他の子も何人かいじめているので、1人がターゲットになっている訳ではない」というものだった。


特に止める気は無いのだろう。小2ながらにウチは察した。当然いじめが止むわけが無いので、父親と、母方の祖父にも相談した。


だが、返ってきた回答は、


「何クソという気持ちを持て、屈しなければ良いだけだ」



そんなアドバイスは、ウチには全くもって響かなかった。

「それは強者(きょうしゃ)の理論だ」

と、ウチは心の中で言い返した。




理解者がいない。辛さを分かってくれない。




そんな絶望から、ウチはこの時、全ての人間に心を閉ざすようになった。








※ちなみに、「谷」という字は、「口」の上に1本線を入れて、「合」という感じで書いていました。


あまりのトラウマの強さから今では間違えず書けますが、「谷」という漢字が好きではなくなり、名字に「谷」が 入る人には勝手に苦手意識を抱いてしまう程です。


名字に「谷」がつく方ごめんなさい。

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