シャワー

 シャワーの音が聞こえてくる。


 バスルームでは、雄太が体を洗っている最中だった。


 その隣の部屋。


 彩香は、ベッドでくつろぎながら漫画を読んでいた。


 うつ伏せで寝ころび、枕元に置いた漫画のページをめくる。左右の足がリズム良く揺れていた。


「うー、暑いよー」


 外を見る。雲一つない、日が強く降り注ぐ空模様。


 段々と読むペースが落ちていき、遂にぱたんと漫画を閉じてしまう。


 彩香は、バスルームのほうを見やった。依然として、シャワーのサーッという音が聞こえてくる。


 彼女は、勢いよくベッドから立ち上がると、とてとてとバスルームへ向かった。そしておもむろに身にまとった衣服を脱ぎ始めた。


 白いTシャツ、デニムのショート、桜色のパンツとブラジャー。それらを、バスルーム前に置かれたかごに、ポイっと投げ入れる。既にかごに入っていた雄太の服と、彩香の服が混ざり合った。


「ゆーたー!」


 ガラガラっと勢いよく扉を開く。


 体を洗っている雄太と目が合った。


 もちろん二人とも全裸で。


「えっと、何してんの」


「彩香も一緒に入るー」


「うん、だから何してんの」


「今日ね、暑いの。汗いっぱい掻いちゃった」


「いや、だから——」


 お互いに話がかみ合ってない、といった具合に、笑顔でバスルームに入る彩香と、それを呆然と見ている雄太。


 そのうち雄太はあきらめたように、「誰かに見られたら、即逮捕だなあ」と溜息をついた。


 そんな彼の胸中のつぶやきを知らずに、彩香は雄太の膝の上に座った。二人の肌がぴったりと密着する。


 随分と軽い。しかし、雄太は、確かな質量を少女の臀部から感じ取った。


 彩香の艶やかな髪が、水にぬれて雄太の腹にくっつく。


「あれ? これって、割とかなりまずい状況じゃないか」


「ゆーたー、体にかけてー」


「おっと、その台詞は色々とアウトな気がするぞ」


「そこ、くすぐったいよう」


「おいおい、どこにも触ってないぞ」


 雄太は耐えかねて、その場の離脱を試みた。


 しかし、膝の上に彩香が乗っているため、立ち上がることすらままならない。彼女をどかすためには、体に触れる必要があり、これ以上の肌の接触は絶対に避けるべきだと、彼の脳が警鐘を鳴らしていた。


「なあ。俺、そろそろ出たいんだけど」


「彩香はまだ入っていたいよー?」


 首をかしげる彩香。見上げるように、雄太の顔を覗く。


 ——ああ、そうか。仕方ない、潔くあきらめよう。


 雄太は考えることを放棄した。


 シャワーノズルを彩香に渡し、彩香の裸体を見ないように、天井を見上げて過ごす。


 その後、第三者が入ってくるというハプニングはなく、逮捕されずに済んだ雄太。


 しかし彼は、少女の警戒心のなさに、ただただ憂慮に絶えなかった。

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