ぼくが〇〇になるまで
塔
ぼくが〇〇になるまで
突然だけど異世界転生って知ってる?
そうそう、今よくあるアレ。アレアレ。
もう数が多すぎて把握できないよね。わかるわかるぅー。
自分もそんな転生者の一人だった。
なんでこっちに来たのかはもう全然覚えてない。なんせかなり昔の話だからさ。やっぱあれじゃない?トラックに轢かれたんじゃない?
でまぁ、めでたいんだかめでたくないんだかわかんないけど、自分はこの世界に転生した。なんか村人Aみたいな感じで。
いやチートとかないの?それともいきなり覚醒するやつ?と最初は戸惑った。それぐらい自分はその他大勢のうちの一人だった。
でもまぁ夢は見るじゃん?せっかく前世の記憶持ったままこっち来たんだし。
なんかかっこよく活躍する的な。なんかドラマチックな出来事とかさ。
いやもうね。
なんにもなかった。
挙げ句の果てには流行り病にかかってさ、「嘘だろー?!」ってマジ思った。なんのためにこっち来たんだ?!って。
で、奇跡のキの字も全く無くそのままおっ死んだ。
んで、だ。
次の自分はエルフだった。
そう。最近は何度も転生するタイプの転生者っているよね。アレアレ。自分アレだった。びっくり。よくあるよくあるぅー。
どうやら一度目と世界は同じっぽい。仕組みがわかってきた自分はこれを楽しむことにした。二度目の転生人生はエルフでーす!
エルフってさ、なんかめちゃくちゃしきたり多い。
最初はすんげー息苦しくて馬鹿馬鹿しいなって思ってたんだけど、後から彼らの歴史を知ると無理もねーなって感じもする。
要は自分たちを守るために作られた仕組みだったわけ。
エルフって人間から見れば魔力とか寿命とかアホみたいに多いんだけど、その代わりに負荷もすごくて。
他の種族とあんまり関わらないのもそこら辺。変に利用しようとする良くない輩も多いしさ。
一つ前の人生より長く生きたせいか、この世界の仕組みみたいなのもだいたいこのとき把握した。予備知識があったせいもある。
そんなわけで二度目の生は、エルフとして普通に幕を閉じた。
んでその次はドワーフだった。
なるほどな、これ全種族転生するんじゃね?とぼんやり考え始めた。そしてこれは当たる。
一度目も二度目もその種族としては普通の生活をしてきたんだけど、このときもそうだった。
ドワーフなぁ、見かけによらずかなり器用だよ。あのぶっとい指でちまちま細工するんだけど、それがあまり苦にならない。むしろ弓矢ぶっ放すエルフの方が力持ちかもしれない。あれ思ってるより筋肉が必要。
かと思えば鉄を打つのに力は必要で、でもアレ慣れっていうかテクニックの方が必要な気もする。
旅人から木こりまで幅広く愛される斧製造に携わって、この人生は幕を閉じた。
で、次。
ドラゴンになった。
えっ、どゆこと???ってなるよね、わかるわかるぅー。
つまりさ、本当の意味で全種族転生しちゃうわけよ。マジで。
いや意味分かんねーわ。マジどゆこと?ってなるよね。なるなるぅー。
んで、以前と同じく、ドラゴンになった自分も種族の中では平凡。
とはいえ人の形に近い連中と違って、そもそも価値観が結構違うのな。自分もちょっと変なやつみたいな扱われ方した。「お前人間みたいだな」って。
そりゃそうだよねー。だって元は人間なんだもん。
その後はまぁ、色々。とにかくなんにでも転生した。
まさかなー、と思ってたけどモンスターにも容赦なく転生したよ。でもよく考えたらそれも転生モノではよくあるやつだった。バリエーションがあり過ぎでもうよくわかんないよねー!なるなるぅー!
でさぁ。
何回目の転生かもうよくわかんなくなった頃に気づいたんだけどさ、どうも自分、同じ世界に転生しまくってはいるけど、時系列はバラバラっぽい。
かなり発展した街の次にものすごく昔っぽい生活様式の街に生まれたりさ、前回との共通点が無いわけ。
国によって発展の仕方が違うにしたってあまりにも差がありすぎて、ある時貴族の坊っちゃんに生まれて歴史の勉強するまでは確信が持てなかった。
そこから先はさぁ、この世界の年表作るのにハマっちゃってさぁ。
どこぞの国が滅んだ理由とか、目の前で見てきて知ってるわけだからさ。
塗り替えられた本当の歴史を知ってるっていうあの高揚感。何に例えたらいいんだかね。
この頃になると、いろんな種族の礼儀作法や事情がまるっと頭に入ってる状態なので、すごく立ち回りがうまくなった。
世渡り上手になってたわけね。
何度か昔見たことのある問題にも出くわして、過去の経験から解決策を提案したらめちゃくちゃ感謝され、尊敬されるようになることもしばしば。
でもさ、これあんまり良くないよ。
最初はいいさ、感謝されて、いい気分になれる。
でもそのうち、厄介事とか面倒なこと全部押し付けられて、しまいには解決できなきゃこっちが悪者扱いされる。
何度かそんな目にあって、すっかりアドバイスとやらからは遠のくことになった。
そして。
何度も何度も転生していると、だんだん飽きが来る。たまに転生先に恵まれて、有名な演奏家になったり魔道士になったりもしたけど、「アドバイス」と一緒で、顔が知られるのはいいこともあるけど厄介なことも多い。
そんなわけで、自分はだんだん他人と関わるのが面倒になっていった。
で、ね。
ある日突然、本当になんとなく、人を殺した。
そういやこれはしたことなかったなーって。本当に。何気なく。ふと思い立って。
まぁ当然騒ぎになるよね。殺した相手は何だったかな、友人だったと思うけど思い出せない。
色々質問責めにされたし痛めつけられたりもして、最終的に悪魔憑きみたいな扱いになって、死刑になった。
そっから先はもうアレよ。アレアレ。
思えばその頃はもう精神がおかしくなってたんだろなー。
誰に向けた怒りなのか、自分でもよくわからずに、転生するたび激しい憎悪で無差別に生き物を殺しまくってたと思う。思うっていうのはよく覚えていないからで、完全に正気を失っていた時期もあると思う。
それから。
わけがわからなくなってからどれぐらい転生したのか、全くわからないけど、突然何もかもどうでもよくなった。
なんだろうね、憑き物が落ちたってよく言うけど、そんな感じ。
すっかりおとなしくなった自分は、自然を愛でて暮らした。春の訪れを、夏の萌える緑を、秋の実りを、冬の静寂を。
周りの人々や街がどんなに様変わりしても、それらは必ず巡ってきてくれる。変わらぬ姿で。
次第に自分は、ゆっくりと休みたいと思うようになった。たくさんのことに、疲れていた。
そうして。
誰も寄り付かない森の奥深くで、自分は眠ることにした。もう転生しないように、今の肉体に魔法をかけて。死ななければ次もないから。これで好きなだけ眠ることができる。
でも時々、ここを訪ねてくる人がいる。大体は血の気の多い、夢一杯の連中だ。
ああ、元気だね。自分には眩しい。羨ましいと思うと同時に、うんざりもする。
そっかあ。巨悪の根源と思われてるのかぁ。まぁ、共通の敵がいると他種族間でも結託するよね。あるあるぅー。
じゃ、とりあえず死んでくれ。起こしてくれるな。
ぼくが魔王になるまでの話。
ぼくが〇〇になるまで 塔 @soundfish
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