2.束縛
夢を見た。
彼女には、それが夢だとはっきり分かった。
「
◇◇◇
見えたものは光。白い光だ。
まだ弱く、何かを照らすには足りないが、影を作り出すのには十分な光。
目の前に物体があるわけでも、何かしらの光源があるわけでもなく、ただ光だけがそこにあった。
それを見ても、彼女は驚くことはない。ただ「あぁ、またか」と軽く息を吐くだけ。酷く冷めた目でそれを見つめる。
暗い影が顔に落ちる。
◇◇◇
目覚めは唐突だった。
良いとも悪いともつかない眠りから浮き上がった彼女が目を開くと、そこには白い光があった。
ただ、そこは夢の中ではない。天井に設けられた蛍光灯が見える。
「……ん」
純白のベッドから起き上がり手元を見ると、読みかけの本が一冊放り投げられていた。その隣にはレトロゲームのコントローラー。
眠気を引きずって大きく欠伸をしながら床に素足を下ろす。白一色の簡素なワンピースのスカートが膝下まで垂れる。
ふと、部屋の隅に設置された自分の机の上にある、写真立てが目に入った。花瓶の中の、まだ色褪せないシロツメクサも。
「……また、ね」
彼女は思い出す。何度目かもわからないため息が漏れる。
立ち上がって、
そこに、これといって特徴のない、長い黒髪の少女の顔が映る。髪はボサボサで、垂れた黒い目はまだ眠気を孕んでいる。
洗面台に手をついて、しばらくの間それを眺めていた。何かが変わるのではと思って。
彼女が我に帰ったのは、実に数分してからだった。
部屋に一つだけの出入り口、分厚い金属で出来た隔壁扉が、重く大きい音でもって解錠を告げたのだ。
少しもせずに扉は開き、数人の男たちが部屋に足を踏み入れたのが鏡越しに見えた。
「何か御用?」
振り向いて彼女がそう尋ねると、男たちは奇妙な行動に出た。
一斉に、持っていたアサルトライフルの銃口を彼女に向けたのだ。その動作は滑らかで、迷いがない。
だが、そうしている間にも、男たちの顔には脂汗が浮かぶ。呼吸は浅く、視野は狭く、その目には彼女しか映っていない。
「……何か言って頂戴」
逆に、銃を向けられ、明らかに命の危険に晒されているはずの彼女は、何事もないかのように澄ました顔で重ねて尋ねる。
張り詰めた恐怖に押されるように、男たちは一歩下がった。
「やめろ」
すると、彼女のものでない、低く張りのある声が響いた。
間もなく、銃を構える男たちをかき分けて、スーツ姿の別の男が現れた。大きな図体と体格から、肉体的にかなり鍛えられた人間だとわかる。
「私は何もしていないのだけど」
「恐怖の対象だと自覚してほしいものだ」
「勝手に怖がってるのはそっちでしょ。で、何か用?」
跳ねた毛先を弄りながら、興味の欠片もなさげに尋ねた。
「今日はいつもの”検診”の日だ」
「……そうだったっけ」
「ああそうだ。支度をしろ」
「はいはい」
投げやりに、肩を竦めて返事をした彼女は、昨晩に風呂に入っていないことを思い出し、髪をかき上げながらシャワールームに入っていった。
それを確認し、銃を下ろした男たちの顔には、あからさまなほどわかりやすい安堵が浮かんでいた。
「気を抜くな」
全身から力を抜いた彼らを、スーツ姿の男が
男の瞳は、漲る自信と警戒心、そして、それらを持ってしても打ち消せないほどの途方もない恐怖心で溢れ、輝いていた。
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