第2話 ラーメン

 「めん! めん!」


 「らーめん! めんらー!」


 「魚介豚骨こってり野菜マシマシ!」


 人間のリツ、エルフのメヒア、人型アリゲーターのロドリゲス。


 彼らはこの日の最終講義を終え、筆記用具と講義資料を片付けつつ呪術者のように呪文を唱えていた。


 「原始人かね君たちは」


 先ほどまで『先進的ニンジン作戦』の講義の教壇に立っていた馬頭で白衣姿のオニオン教授が腕を組んであきれて声をかける。


 毎週講義の後はお決まりのような呪文を聞くので教授もなれた風である。


 しかし、ラーメンで脳内を埋め尽くしている彼らは教授の罵倒で足を止めることはない、笑顔で一礼、教室から出ていく。


 「ラーメン食べ行く俺達を何物もとめることはできないな」


 「ああ、愛しの極厚チャーシューがワイを呼んでるぜ」


 長身で短めの金髪に長い耳、中性的な顔立ちのメヒアの表情は普段の爽やかな雰囲気とかけ離れ虚ろな目で口の端を垂らして、まるでご褒美を前にした子供のようだ。


 ワニ顔をした太い眉の中肉中背のロドリゲスもこれから行く『ラーメン一鉄』の名物極厚チャーシューのことを想像してよだれを垂らしている。


 リツもまた二人同様ラーメンに心躍らせると共に、元の世界と似た料理を食べに行く懐かしさを感じている。


 「メッヒ、ロドリゲス、二人とも今日は僕の家に泊まるんだからニンニクは勘弁してくれよな」


 リツはメヒアを愛称のメッヒと呼び、ロドリゲスの二人へニンニク禁止の確認をする。


 「おー、わかってるさ」


 「リツー、ちょっとだけダメかー? ちょっとだけ、な?」


 「ダメ! 部屋臭いつくんだって、寝れなくなるからほんと勘弁!」


 「くそー、まあ家主が言うならな、ちぇー」


 「ロドリゲス、ちょっとだけちょっとだけってなんかエロいな」


 「メッヒその発想は変態っぽく聞こえるぞ、ほらリツもドン引きしてるー」


 「いや、同じこと考えてた自分にショック受けてる」


 「「変態」」


 「なんでー!」


 ニンニクを所望するロドリゲスの話をきっかけに、三人はくだらない会話をしながら目的地へ歩を進める。


 『ラーメン一鉄』はエーテルエール魔術院から徒歩十分の商店街に店を構えて二年目というまだ新しいラーメン屋だ。


 メールメイという体毛が全て繊維状の小麦という羊から採取、製粉した小麦粉から作られた自家製麺は太麺のもっちりとした食感ながらスープとよく絡む。


 スープは醤油ベース、魚介豚骨ベースの二種類。リツやメヒアはさっぱりした醤油ベースを好むが、ロドリゲスは魔獣の魚類と豚からとった濃厚で香り豊かな魚介豚骨ベースのスープを好む。


 そして、名物極厚チャーシューはステーキのような厚みでたった一枚で器の二分の一を覆ってしまうボリュームだ。口に含んだ時に溶けるような食感はよく煮込んであるのがわかる。


 「お、見えてきた!」


 「うげ、並んでるな、どする?」


 リツが店の看板を見つけるのと共に、メヒアが十数人の列を見て問いかる。


 「並ぼ! 並ぼ!」


 「リツはラーメンのことになると一番行動的だなー」


 リツが質問に答えながら最後尾へ駆けて行くとロドリゲスも笑顔で付いて行き、メヒアがやれやれと後を追う。


 講義の後に友人とラーメンを食べに行く。


 その習慣がリツにはたまらなく嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る