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自身の部屋でのやりとりから、3時間ほど。

先程の自分とは見違えるほど装いを纏い、

ほぼ唯一彼が来る前から我が部屋にあった鏡の前で自身の姿を整える。


「おい、いつまで時間かけてんだよ……」

とっくに準備を終えて、相変わらず網戸を閉めずに煙草の煙をまき散らしていた冬馬さんは帰ってきていきなり不満をぶつけられる。これでかれこれ3回目だ。

仕方ないじゃないかと、心の中で思うが、いつも通り少し傷んだボサボサの頭をしているような人に言ったところで時間の無駄になるだけだとわかっている。だからこそ、女の子は準備が必要だとか、そんな一般論はグッと飲み込んで、違った角度から反撃する。

「もうちょっと、待ってくださいよ……。それに私とのデート高いんですよ?」

「あぁ、そいや、出会った時も同伴で来たんだもんな」

「その言い方、やめてくださいよ」

どこかトゲのある言い回しで私を急かす冬馬さんを、ふんわりと交わしているうちに、最後にだらりと眼前を覆うように崩れてくる前髪をアメピンで留めて、準備が終わる。

「お待たせしました。すいませんね。たっっくさん時間取っちゃってっ!」

「お、おう……。まぁいいか、行こうぜ、どこ行くのか知らんが」

「秘密ですっ」

どこか様子が変な、急に私に目を合わせなくなった冬馬さんの事は捨て置いて、靴を履き、扉を開く。

心は読めなくても、どこかこちらを見づらそうに目線を迷わせる男の目線の意図は分かる。

「早く行きますよ。遅いですよ!冬馬さん」

だからこそ、私は、さっきのお返しとばかりに冬馬さんを急かすのだ。

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