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とまぁ、そんなこんなで、行き先を告げられぬままにやってきた先は予想通り立川市街地であった。予想通りであったのだが、この場所は実に私とっては意外であった。

「あの〜、なんでここに?」

少し困惑しながらも聞いた私の問いに、少し年季の入ったヘルメットとゴーグルを外した冬馬さんは悪戯っ子のような笑顔を浮かべて私を見るのだ。

「そりゃあ、あんななんもねぇ部屋は味気ないだろ?」

そう、私達は、立川市街地の外れの壮大な大きさを誇る家のものなら小物から大きな物までなんでも揃う外国資本の家具販売店にやって来たのだった。


「で、何買うんですか?」

建屋相応の広大な売り場面積の中程で、歩き疲れたオフモードの無気力な私は拉致同然でここまで連れてきた人にお伺いを立てる。

「あ?……とりあえず、皿だろ?あとは包丁、後は、その置き場になる物だろ、あとは、テーブル、そんで……」

「も、もういいです!」

あまりに多くの情報量に焼き切れた回線のように思考停止しそうな私は彼の言葉を遮った。

仮にもあの夜、私を殺そうと本物の殺気を放ち、私の口に実弾入りの拳銃を突っ込んだ男であるはずなのに、ここまでお節介で家庭的だとなんだか拍子抜けしてしまう。

「これ、どうしようかな……」

私に興味なさげに、どこで使うか分からない雑貨を手に取って楽しそうに、しかし悩ましげに、なにやらブツブツと呟きながら買うかどうかを吟味する冬馬さんの横顔は、どこかおもちゃ屋さんで好きなおもちゃを選ぶ子供のような、そんな横顔だった。


「ふぅ、買った買った」

「買いすぎなんですよ……色々と」

結局あの後、どこに使うの変わらないマスキングテープを買って満足げな冬馬さんは、隣でさらに不機嫌が加速した私を見て、真意が分からぬような顔をする。

「お前、機嫌悪そうだな?」

まぁ、そりゃあ、突然引きずり出されたり、必要ない買い物に付き合わされたらこうなりますよ。なんて、言葉は言っても得はない。冬馬さんだけでなく、人の喜びの黄緑を帯びた新芽色の感情を抱えている時にそれを摘み取ろうなんてナンセンスな事はする気はない。だから私は、

「別に、いつもですよ」

と釣れない態度を取るしかないのです。


「お前、わかんねぇけど、つまんねぇだろ」

そんな私を、いや私の中をまっすぐ見るようなボサボサのしだれのような髪の隙間から射抜く綺麗な瞳。

そして、的確な、遠慮のかけらもない言葉の刃。

「だから、別に面白くないとか思ってませんから」

少し、平穏な私の声のトーンとピッチが早くなる。四分が六分になるくらいの変化。それを冬馬さんは見逃さない。

「いや、悪かったよ。なんか、飯食うか?奢るよ」

「私そもそも財布持ってないんですけど。誰かさんが、急に引きずり出すから、化粧だってしてないし」

少しおちゃらけて謝る冬馬さんの表情が曇るのが分かる。しまった。と思うけど遅かった。

もうあの無垢な新芽の感情は消えて、少し暗雲が見える。

「いや、別に!本当に嫌なら家具にしがみついてでも出ませんでしたよ!」

まくし立てる様に弁明するが既に遅いことは分かりきっていて、いかに自分が、心を覗いて後出しジャンケンの様に正解の反応することに慣れていたかがよく分かる。そんな私まで少しやるせなくて暗くなっていると隣から笑い声が聞こえてくる。

「家具って、お前んち家具ねぇから買いに来てんだろ」

「確かに、そうですねっ」

二人して笑い合う時、私の感情が凝固して雲の様に確かな形を帯びるのが分かる。

もう、後出しジャンケンはダメだ。ちゃんと正々堂々向き合って、この隣で笑ってる人にぶつかって、人の付き合い方を覚えようと。そう思う。

春の陽気に包まれて、私達は立川の駅前を歩くのだ。


「飯、食うか?昼ってかおやつかも知れねぇけどな」

「ですね、なんか食べますか、冬馬さんの奢りで!」

「ったく、しゃあねぇな、分かったよ。じゃあ俺が食いたいもんにするぞ?」

「はいはい。分かりましたよ」

「よし、なら行くぞ!」

「うわっ、え、ちょっ!」

私達の手を握り、突然走り出す冬馬さんは、やっぱり

触れると斬れそうな殺気なんかより、純粋な子供の様な新芽の感情がよく似合う。

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