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「ったく、なんで、煙草置いてねぇんだよ、ハイライトくらい置いとけや」

近くのコンビニでお目当てのものを買おうと意気揚々と入ると煙草自体置いていなかったのだ。色々と利権や、販売資格なんかのしがらみがあるのかもしれないが、結局三軒回ってようやく見つけることが出来たのだった。


「やめてくださいよ〜……」

「……咲良ちゃんの……がいいと……」

俺が煙草を求めて出て行ってからまだ15分ほどであるのに、部屋の中からいかにも出来上がったような声が漏れ出ている。全く……酒ってのは人間の本性を暴くウソ発見機みたいなもんなのかな。

「よう、お楽しみのようだな」

と、裏口の重たい鉄扉をギシッと開けてただいま代わりの小言を進呈する。

「いやぁ、この前の契約大変でしたよ〜、急に工期変更ですからね」

「いやいや高城君も苦労してるんだな、なら尚更今回の件、私が頑張らなくてはね……」

「河本さんには僕が若いときからお世話になってますから」

「僕はないとしてないさ、ただ未来ある若者には協力したいものだからね。お節介かも知れないが……」

などと、雇い主である河本と、今回の取引相手であろう高城という男の媚のタイムセールのような応酬に辟易へきえきして、角の奥まったところにあるビリヤード台で腰掛け、様子を伺う。

「咲良ちゃんは今回の件どう思う?」

「わ、私ですか?……いやぁ、わたしは高城さんの対応は間違ってないと思いますよ?ただ、相手が悪かったのかなっ……て」

なかなかに世渡りが上手そうな子である。俺もこんくらいの能力があれば人殺しなんてちゃちな真似はしてなかっただろうと自嘲して、担いだキューケースから上下に分かれたビリヤードキューを取り出して、ねじり合わせて一つに戻す。

この隠れ家で河本が密会するときのルーティン。

手玉の白球と、1〜9までの玉を取り出して、並べる。

「……あの人、ビリヤード上手なんですか?」

「あぁ、上手いよ、とびきりね」

外野の少女と雇い主の声を無視して、先程買ってきたタバコに火をつけて、一服、――そしてキューを軽く握る。

約30度ほど角度の付けた位置から1番ボールを狙う姿勢に入る。

数回のストローク、しっかりと白の手玉と黄色の一番を台の真上から見て、斜め一直線に捉えてブレイクショットに入る。

小さく息を吐いて、キューを思い切り突き出して手玉と一番球がぶつかり合う瞬間。


パンっ!という乾いた音が部屋に響いたのだった。


一瞬の静寂の後、慌てて振り返ると、そこには口紅の様な物を持って地面に伏す俺の雇い主を見下す少女。そして、状況を飲み込めず固まる高城と、数人の護衛の姿があった。


「……悪運強い男ですね。国土保全協会 河川局 水害対策班 専任長官 河本隆志。わたしは貴方を殺す。それが、――私の生きる意味だから」

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