5
少しばかり鬱陶しいと思っていた日差しも西に傾いて、今は僅かな残光のみが残っている街を私は駅に向かって歩く。約束の時間まで1時間半ほど、指定された駅まで向かうために、黄色のラインが特徴の電車を待つ。
待つこと数分、何して時間を潰そうか考える間もなく眩いライトを照らした電車がホームに滑り込んでくる。
仕事終わりのサラリーマンや、学校終わりの学生達が降りてくるのを待ってから、電車に乗り込み、近くにあるつり革に体を預ける。西日が沈む住宅地をぼーっと見つめていると、私を揺り起こすように電車がゆっくり動き出した。
「おっと……」
動き出しの揺れに思わず足を一歩前に出してバランスを保とうした時、前に座っている人の足を踏んでしまったのだ。
「あ、ごめんなさい!」
私は
(っ、新しい靴だったんだけど、汚れたし……最悪)
その女性の表情に変化はない、しかし私には平然とこの場所にとどまるのを憚られる程のプレッシャーを感じる。結局私は二つ先の乗り換え駅までの5分間をその圧力に耐えつつ、心を殺して乗っていた。
『気持ち悪い……』
先程の圧力から解放された乗換後の別の電車の車内。
私は耳をイヤホンで塞いで、新宿までの四十分を過ごしていると、かつて、通っていた学校で言われた心無い一言が私の奥底から浮かび上がってくる。私の奥の奥に鍵を掛けて沈み込めていたつもりだったのに、ふとした拍子に浮かび上がる私を締める
人はみんな本音と建前で生きている。本音と言うのは親しい人にも簡単には見せないものなのに、私には本音も建前も見えてしまう。口では『気にしていない』などと言っていても、心の中には強い感情が渦巻いていることがほとんどだ。だから私は耳を塞ぐ、どうせ本音が見えるなら、せめて偽りの言葉を聞きたくなくて、そして、私自身が他人を傷つけないように。
住宅地を抜ける準特急電車の中で一人、目を瞑る。
『気持ち悪い……』
かつて、私が唯一仲の良かった子に、私の秘密を教えたのだ、私だけが機密事項と言える心の中が見えるのは不公平だと思ったから。彼女だけには私の味方にぬってくれると思っていた。なのに、彼女とはそれっきりだった。
一人、瞳を濡らす私とそれに興味も示さない人々を乗せた電車は、次の乗り換え駅である終点・新宿駅に向けてひた走る。
住宅地が多かった車窓の外は居酒屋やコンビニ、パチンコ屋のネオンや照明が占領していた。
次の乗り換え電車をスマホで検索しながら私は電車に揺られるのだ。
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