パパ活少女、春を売る。狼は、不条理に吠える。

春野咲良と染井由乃

1

平年より少し早くに熱を帯びて咲いた桜の花びらを、冷ますような穏やかな雨が降る。


まだ、肌寒い空気に思わず身体を震わせて、傘の裾野からはみ出したスプリングコートの裾がわずかに濡れる。私は今日も今日とても人を待つ。私のお客様になる男。名は高城たかしろという。私が一年かけてたどり着いた。天から伸びる蜘蛛の糸。私はこの時を待っていた。十年前突然故郷が無くなったあの日から、台風というどうしようもない天災のせいだと思っていたのに、それだけではなかったようだった。

話もそこそこに、わたしの方へ歩みを寄せる人影が一つ。綺麗に高そうなスーツと雨の水を寄せ付けないレインシューズを見に纏い、少しカッチリし過ぎなビジネスマンという出で立ち。どうやら高城という男のようだ。なるほど、たしかに切れ者のような雰囲気を持っている。

「君が、咲良さくらちゃん?」

「あ、はい!今日はよろしくお願いします。」

わたしができるうちの最大限の微笑みを男に注ぐ。

これが今のわたしの商売道具の一つ。今までどんな男でも一瞬で手玉にとってきた商売道具の効果なのか、高城も少し雰囲気が柔らかくなる。そして、緩んだ心の隙を突く。私の左目はその為にあるのだから。

(評価に違わぬ、あざとさだな……)

すうっと、見開いたその目で、わたしはその心の中を覗く。この人には合わないのかこのキャラ。

ならばと私は違うキャラになりきる。

「突然、でしたね。ごめんなさい。いい人みたいで良かったと思ってつい……」

「いや、そんなんじゃ無いんだ。ただ、あまり男を信じるものじゃ無いよ。俺みたいな人ばっかりじゃないし。」

(頑張って、元気な子を演じてるのか。難儀だな)


よし、掛かった!

押してダメなら引いてみろとはよく言ったものだ。ちょろいな〜男って。それに、私は知っている男なんてみんなロクなもんじゃないくらいよく知っている。


心の隙間を縫って、その深淵に取り憑くわたしの力。

私は、男の腕に自らの腕を絡めてしだれ掛かる。

「それじゃ、行きましょっか!高城さん!」

「そうだね、今日はいいお店取ってあるんだ。」

その力を振りかざし、かならず復讐すべき相手に繋がると信じて。わたしは今日も”若さ”を売って、生きていくのだ。

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