パパ活少女、春を売る。狼は、不条理に吠える。
春野咲良と染井由乃
1
平年より少し早くに熱を帯びて咲いた桜の花びらを、冷ますような穏やかな雨が降る。
まだ、肌寒い空気に思わず身体を震わせて、傘の裾野からはみ出したスプリングコートの裾がわずかに濡れる。私は今日も今日とても人を待つ。私のお客様になる男。名は
話もそこそこに、わたしの方へ歩みを寄せる人影が一つ。綺麗に高そうなスーツと雨の水を寄せ付けないレインシューズを見に纏い、少しカッチリし過ぎなビジネスマンという出で立ち。どうやら高城という男のようだ。なるほど、たしかに切れ者のような雰囲気を持っている。
「君が、
「あ、はい!今日はよろしくお願いします。」
わたしができるうちの最大限の微笑みを男に注ぐ。
これが今のわたしの商売道具の一つ。今までどんな男でも一瞬で手玉にとってきた商売道具の効果なのか、高城も少し雰囲気が柔らかくなる。そして、緩んだ心の隙を突く。私の左目はその為にあるのだから。
(評価に違わぬ、あざとさだな……)
すうっと、見開いたその目で、わたしはその心の中を覗く。この人には合わないのかこのキャラ。
ならばと私は違うキャラになりきる。
「突然、でしたね。ごめんなさい。いい人みたいで良かったと思ってつい……」
「いや、そんなんじゃ無いんだ。ただ、あまり男を信じるものじゃ無いよ。俺みたいな人ばっかりじゃないし。」
(頑張って、元気な子を演じてるのか。難儀だな)
よし、掛かった!
押してダメなら引いてみろとはよく言ったものだ。ちょろいな〜男って。それに、私は知っている男なんてみんなロクなもんじゃないくらいよく知っている。
心の隙間を縫って、その深淵に取り憑くわたしの力。
私は、男の腕に自らの腕を絡めてしだれ掛かる。
「それじゃ、行きましょっか!高城さん!」
「そうだね、今日はいいお店取ってあるんだ。」
その力を振りかざし、かならず復讐すべき相手に繋がると信じて。わたしは今日も”若さ”を売って、生きていくのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます