貴方の出汁巻き玉子をもう一度
竹宮千秋
私のあるべき結末
「さよなら……」
地獄の釜の如く燃える炎に飲み込まれる繁華街の一角のビル。そのテナントの一つ。まさに発火元となったクラブで私は、足元に横たわる人影に向けて1人呟く。
やった。私はついにやったんだ。そしてわたしもろともこの事実を消し去るように、部屋の入り口から火をつけた。
宿敵を葬ったというのにわたしの心は晴れない。あれほど憎い黒幕を無残な姿にしたのに。強い解放感と達成感を味わってもいいはずなのに、わたしは渇き、苦しんでいる。
きっと、私は、私は生きたかったんだ。生きて、人並みの幸せとやらを感じたかったんだ。けれど、復讐という地獄の業火を灯した私は。止まらない暴走列車。
人でも妖怪でもない。悪意そのものだったのだ。
「馬鹿だなぁ、私……」
せめて来世では、普通の幸せとやらを味わいたかっいものだ。とそう強く願った時。
四方を迫りくる炎の壁に挟まれ、記憶は途切れた。
これは、わたしのもう一つの未来。
間違いなく起こった未来。そこにあの人が。あの殺人鬼とも呼べる人が居なければ、わたし間違いなく、死んでいた。復讐の業火に自らの身も焦がしていただろう。
これは、わたしの、もう一つの結末だった。
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