第18話 まるでアナタは神話に抗う羽虫のように−3

「し、椎名さん……」


 俺は偶然の再会に驚き、椎名さんも俺の姿を見て驚いていた。


「神矢君……」


 椎名さんは異世界から帰ってきた俺の姿に困惑している。


「えっと、これはその……」


 向こうの世界では勇ましく啖呵を切れていた俺だったが、いざ椎名さんを前にするとこれまでの成長が水の泡だったかのように言葉が詰まってしまう。


「ここは危ないよ。一緒に逃げよう」


 椎名さんは何かから逃げている最中のようだった。


「今、駅の方でよくわからない地震みたいなことが起きているの」


 椎名さんが言う「地震のようなこと」とは黙示の魔獣による災害のことだろう。

 椎名さんたちには黙示の魔獣が見えていないのかもしれない。


「……ところで、今は何月何日の何時何分なんだ?」


 俺は重要なことを思い出し、椎名さんに尋ねる。


「ど、どうしたの? 今は✕月✕日だよ」


 椎名さんは首を傾げながら俺にスマホの画面を見せて疑問に答え、俺は衝撃を受けた。

 今の日付はちょうど俺が死んだ日。

 時刻は俺が告白する前になっている。


 ――つまり、今なら、もう一度告白をやり直せる。

 未練は捨てたはずなのに、俺はまだそんなことを考えてしまっていた。


「椎名さんっ!」

「えっ、はいっ!?」


 俺は驚いた表情をする椎名さんの手を握ろうとして――、


「……俺にはやらなくちゃいけないことがある。だから、君は逃げてくれ」


 彼女にそう言って背を向けた。


「先輩! ツヅリ先輩! ご無事ですか!」


 その時、空からルミナが舞い降りてくる。


「ああ。大丈夫だ。行こう、ルミナ」


 ルミナは椎名さんに気づき、不穏な雰囲気を醸し出す。


「ア、アナタは……」

「もういいんだルミナ。全て終わった」

「えっ、終わったって、先輩はこの人のことが……」

「俺が今、するべきことは魔獣の討伐で、隣にいるのはお前じゃないといけないんだ」


 俺はルミナの手を掴む。

 ルミナは俺の思惑を理解したのか、嬉しいような悲しいような表情を浮かべる。


『ルミナ、俺はお前と一緒に戦いたい』


 告白魔法が発動して俺たち二人の身体を浮かべる。

 そして、空に飛び上がった俺とルミナは再び黙示の魔獣に接近する。


「先輩……ありがとうございます」


 その最中、ルミナは俺に微笑んでそう言った。

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