第17話 まるでアナタは神話に抗う羽虫のように−2

 黙示録から口のない怪物が現れる。


「これが……黙示の魔獣!?」


 黙示の魔獣は狼と猿と山羊を組み合わせたような奇妙な姿をしていた。

 大きさは大型犬くらいでとても世界を滅ぼすようなものには見えない。


「――――!」


 そう思った矢先、黙示の魔獣は声にならない雄叫びを上げ、ぐんぐんと身体を巨大化させ始めた。


「ああ、ついに顕現したのですね」


 プシュケーは両手を天に掲げ、歓喜の声を上げる。


 実験棟の天井を突き破る程の巨体となった黙示の魔獣。

 その巨体の頭上に魔法陣が出現する。


「あれは転送用魔法陣です! でも、少し違うような……」

「わかりますか? この魔法陣は私がこの時のために組んだ特別なもの。黙示の魔獣を異世界に送るためのものなのです」

「まずいぞルミナ! この女、俺たちの世界に転送するつもりだ!」

「……もうあなたたちの世界ではないでしょう?」


 プシュケーと黙示の魔獣は時空に穴を開け、穴の向こうに消えてしまった。


「先輩、どうしましょう……」

「決まっているだろ。止めに行く」


 俺がそう言うと、ルミナは迷った表情をしながらも俺と手を繋いで頷いた。


『まるでアナタは空に揺蕩う雲のように――』


 ルミナが告白魔法を発動した瞬間、俺とルミナの身体は宙に浮かぶ。


「『浮遊』の性質を持つ告白魔法です。これであの穴までたどり着けます」

「一緒に来てくれるのか?」

「これが最後の戦いになるかもしれないじゃないですか」


 ルミナの手は俺を絶対に放さないという強い意志を握る力にこめていた。


「わかったよ。行こうぜ、ルミナ」


 俺たちは穴に飛び込み、時空を超える。


 そして、次の瞬間、眼下にコンクリートとアスファルトの世界が広がった。


「帰ってきたな」

「……ただいま、ですね」


 一瞬、感傷にふけっていた俺たち二人だったが、黙示の魔獣が侵攻している光景を見て、我に返る。

 黙示の魔獣は怪獣映画のように民家を潰し、ビルをなぎ倒し、街を破壊していた。


「ここまで追ってくるとはしつこいですね」


 俺たちが来たことに気づいたプシュケーがこちらに炎の砲弾を浴びせてきた。


「ぐあっ!」


 俺は砲弾を受け、地上に落下する。


「先輩!」


 繋いでいた手を放してしまい、ルミナが俺を呼ぶ。


『落ちてたまるか!』


 地面に激突する直前で告白魔法を発動させた俺の身体は浮遊しながらゆっくりと地面に降りた。


「ギリギリ間に合ったか」


 俺はプシュケーや黙示の魔獣を再び追いかけようとする。


 しかし、住宅街の角で思わぬ人物と遭遇する。

 それは、俺がこの世界に来る直前に告白した女の子、椎名さんだった。

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