第16話 まるでアナタは神話に抗う羽虫のように−1
「私が七人目の告白魔法使いです」
プシュケーの左手に橙色の炎が灯された。
「七人目……告白魔法使いは六人しかいないはずじゃあ……」
「私は大昔にエロス様から選ばれたあなたの先代です。黙示の魔獣と戦い、当時の六人で唯一生き残りました。私も元はあなたたちが前世と呼ぶ世界の生まれなんですよ」
「黙示の魔獣と戦っていたんだろ? なんで生まれ故郷の世界を滅ぼそうとするんだよ」
「それは私がこの世界の方を好きになってしまったからです。この世界はエロス様たち神々が人間の文明を保護するために作った第二の世界。しかし、この世界の文明は私の生まれ育った世界の現在と比べて将来性がある。黙示の魔獣が世界を一つ破壊するまで止まらないのなら、前世の世界に放り出してしまえばいいと考えたのです」
「ふざけるな! もう自分が住人じゃないからって故郷の世界を滅ぼしていい訳ないだろ!」
「では、あなたは命を賭してまであの世界を救いたいと思うのですか?」
俺はその言葉に反論出来なかった。
前世の世界に未練はもうない。
俺にはルミナがいて、わざわざ帰る必要はないからだ。
例えルミナと一緒に帰ったとしてもルミナの罪が俺たちには待ち受けている。
「……いいえ、先輩は帰るべきです」
その時、ルミナがプシュケーの背後でふらふらと立ち上がって現れた。
「ルミナ! 無事だったんだな!」
「ツヅリの声に反応して目覚めたのですか? あなたは相当この男を好いているのですね」
「ふふふ、女の姿でもその冷たい目は変わりませんね、お父様」
ルミナは懐から一冊の本を取り出す。
それはルミナが毎日つけている告白魔法の日誌だった。
「黙示の魔獣の復活を止めるには黙示録を処分すればいい。確か、お父様のレポートにはそう書かれていたはずです」
「それが黙示録だったのか!」
何の変哲もない一冊の日記帳が黙示録だったなどと誰が気づいただろうか。
ルミナの手の中で日記帳は燃え始める。
だが、プシュケーは険しい顔をしていた。
「黙示録を燃やせば、あなたたちは元の世界に帰れなくなりますよ」
「えっ?」
ルミナは情炎を消し、日記帳の燃焼を止めた。
「あなたたちが世界を渡るには黙示の魔獣の力が必要不可欠です」
「だけど、エロスは俺たちが黙示の魔獣を倒せたら元の世界に返してくれるって言っていたぞ!」
「倒せたら、の話ですがね。私は一度、黙示の魔獣と戦って敗北を経験している。だから、言えるのです。黙示の魔獣を倒すのは容易ではないと」
「ああ! だったら、帰れなくてもいい! ルミナ! その日記帳を燃やせ!」
「で、でも……」
ルミナは迷っている様子だった。
次の瞬間、日記帳からドス黒いオーラが生じ始めた。
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