第12話 まるでアナタは息を潜める獣のように−EX

「この私が負けるなんて……」


 私の目の前で血塗れになって倒れるユラギが悔しさに表情を歪ませながら言った。


「触れたものを破壊する炎を操る告白魔法使いですか。強敵でしたが、私の敵ではなかったですね。即死級の威力があろうと触れられなければ私の方が有利です」


 私は雷の槍を右手に握り、ユラギにゆっくりと近づいていく。


「激怒の炎……単純な攻撃力や射程だけなら最強の告白魔法ね。私との戦いで傷一つ負わなかった相手はあなたが初めてだわ」

「答えなさい。アナタは誰の差し金でツヅリ先輩を狙っていたのですか?」

「それを私に答えろと言うのかしら? まだ気づかないの? ……いえ、まだ思い出せていないのかしら?」


 次の瞬間、私の頭に鋭い痛みが奔る。


「うぐっ!?」


 私の脳裏に見たことがないはずの、しかし、確かに見覚えがある思い出が蘇ってきた。


「文化祭……修学旅行……こんな記憶、いつの経験して……いえ、私は本当にこの記憶の通りに二年間を生きてきて……」

「そうよ。あなたは二年間、私たちと青春の日々を過ごしてきたの。思い出せるでしょう? あの輝かしい毎日を」


 蘇った記憶は楽しいものばかりだった。

 先輩と毎朝一緒に登校して、フィラやユラギと友達になり、学校の様々な行事を四人で楽しんだ。

 どれも私が前世で得られなかったものばかりだった。


「どうしてこんな思い出があるのに……私たちは戦っているんですか?」

「それはね、私たちが今の今まで忘れさせられていたからよ。黙示の魔獣についての情報を何もかも。だから、私たちはこれまで戦うこともなく済んできた。これはあなたの父ダーインが仕組んでいたことよ」

「お父様が……なんで……」

「まだわからないのかしら? それとも自覚がないのかしら? あなた、黙示の魔獣に取り憑かれているのよ。黙示の魔獣は知っているわよね? この世界を滅ぼすとされる災厄の存在。告白魔法使いの天敵。黙示録の所有者。それがあなたの正体なのよ」

「私が世界を滅ぼす? なんで……どうして……」


 私は動揺していた。

 黙示の魔獣はこの世界の神々と戦った伝説の魔物として言い伝えられており、私もその存在は知っていたが、自分がその魔獣だとはちっとも考えたことはなかった。

 マニアからも黙示の魔獣について詳しく教えてもらったことはない。

 そもそも、マニアは私をこの世界に連れてきた時点で既に神としては死んでいたのだから仕方がないが。


「そこまでにしておきなさい、ルミナちゃん」


 だが、そんな時、私は急に全身から気だるさを感じて床に膝を突く。


「警戒の炎による精神掌握。あまり使いたくはないけど、相手がルミナちゃんだと手加減出来そうにないから、一発で決着をさせてもらうわ」

「その声は……マミヤですね。アナタまでお父様の仲間なのですか?」


 重くなる瞼を必死に堪えて現れたマミヤに私は手を伸ばす。


「ここで負ける訳には……」


 告白魔法を使おうとして、私は気を失ってしまった。

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