第10話 まるでアナタは息を潜める獣のように−4

「おいおい、冗談だろ。フィラがハクマだったなんて……」

「肉体を具現化出来るんだ。入れ物の見た目を好きなように変えることが出来ても不思議じゃないよ。ツヅリン、アタシはずっとこうして姿を変えながら君やルミナを見守っていた。こんな姿やこんな姿でね」


 フィラが老若男女の様々な姿に変身する。

 その中には猫屋敷の女将さんや俺がアンコールに来る途中でゴブリンから助けた少女の姿もあった。


「まさかお前、今まで俺たちが出会ってきた人間のほとんどに化けていたってのか!?」

「その通り。ツヅリンが野垂れ死にしないようにルミナから縛られてまで家を貸してあげたのも、アンコールまでの道を間違えないようにわざと魔物に襲われるフリをしていたのも、全て君たちをこの学園に導くためだったんだよ。何故ならこの学園は告白魔法使いを集める目的で作られた実験施設だからね。アタシは君をたった二人の生徒と一人の教師しかいないこの学園に入学させるために色々と駆けずり回っていたのさ」

「ちょっと待って!? この学園には生徒や教師が三人しかいなかったですって!? じゃあ、他の生徒たちは一体――」

「あれは全部、アタシの作り出した偽物だよ。この学園が実験施設だとバレないようにするための……更に言えば、君たちの学園生活を観察するための舞台を彩るエキストラだ」

「うっ……」


 俺の頭に突然頭痛が走る。

 その瞬間、俺は経験したことがないはずの思い出をいくつも思い出す。

 俺が告白魔法で学園の実力者たちを倒して注目される日々、ルミナと学園までの通学路を歩き続けた毎日、文化祭や修学旅行の思い出もある。


「な……んだ……これは……」

「君が忘れていた学園生活の記憶だよ。ユラギは一足先に思い出している。ルミナもいずれ思い出すだろうね」

「どうしちゃったのよツヅリ!」


 頭痛に悶える俺とは対照的にラビィはどこも異常がない様子で心配そうな表情で俺を見ていた。


「そっちのキューピットは何も思い出すものがないようだね。そもそもこの学園に対してあまり思い出がないからそれも仕方なしかな。記憶消去の影響は受けているみたいだけど」

「記憶……消去……?」

「ツヅリン、今がいつかわかるかな?」

「いつって、まだ俺がこの学園に来て一日も経ってないだろ」

「いいえ、違うよ。今はもうあと一日しか残されていないんだ。君がこの学園を卒業するまでね」

「……卒業だと?」


 俺は疑問のようにその言葉を口に出すが、思い出される記憶の数々に妙な実感を懐いていた。


「君たちは今日の夕暮れの一瞬で二年間の月日を過ごしていたんだ」


 

 

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