第9話 まるでアナタは息を潜める獣のように-3
俺は恍惚の大聖堂から現実に戻ってきた。
「ツヅリ! しっかりしなさい!」
ラビィが俺の顔を覗き込んで呼びかけていた。
「目が覚めたのね! 良かったわ!」
俺はラビィに射抜かれた時と同じ教室で目覚めたが、そこにはルミナの姿がなかった。
「ルミナはどこだ?」
「……あいつなら、時間稼ぎとか言ってユラギと戦いに行ったわ」
俺の脳裏にルミナとユラギが戦い、ユラギの告白魔法で身体をバラバラにされるルミナの姿がよぎる。
「駄目だ! ルミナが危険だ!」
ユラギの告白魔法は俺の爆破でも倒せなかったクリスタルゴーレムをいとも容易く瞬殺した恐るべき力を持っている。
「待ちなさい! どこに行く気よ!」
「ルミナを助けに行くに決まってるだろ!」
俺は慌てて立ち上がるが、ラビィが俺の前に立ち塞がる。
「何をしているんだ!」
「落ち着きなさいツヅリ! アンタが行ってどうするのよ! ルミナはアンタを逃がすためにユラギの足止めをしているのよ! ユラギはルミナに任せて、今のアンタは私と出来るだけ安全な場所に身を隠すことが最優先!」
「……くっ、俺はどうすれば」
ルミナの身が心配な俺は迫られた選択に葛藤する。
「なんで悩んでいるんだよ。ちっとはテメェの女を信用しやがれ」
だが、そこにどこかで聞いた覚えがあるような少年の声がした。
「ハクマ!?」
教室の窓枠にいつの間にかハクマがヤンキー座りで現れていたことに俺は驚いて声を上げる。
「誰よこいつ!」
ラビィは弓を構えるが、ハクマからは以前のような攻撃的な態度は見られなかった。
「おっと、撃つんじゃねーぞ。俺様は別にテメェらと敵対をしにきた訳じゃねえ。寧ろ味方だと思って欲しいがな。俺様の名はハクマ。友愛の神ストルゲの使徒だ。トモダチになろうぜ」
「友愛の使徒……私にはとてもそんな穏やかな異名の似合う人に見えないけど」
「言ってくれるじゃねーか」
くっくっくっ、と笑ったハクマは俺たちに右手を差し出す。
「まあ、あの試験の時は立場上敵対せざるを得なかったが、テメェの実力は認めているんだぜ、ツヅリ・ランダース。アガペの使徒を倒したんだってな。昨日の敵は今日の友って言葉があるだろ? 俺様は同じ告白魔法使いで実力のあるテメェに興味を持ってるんだ」
「アガペの使徒……シンクのことか!」
「あの女の告白魔法はヤバかった。ギリギリで逃げたが、肉体のない俺様は呑まれていたら一瞬で消化されていただろうな」
「肉体がないってどういう意味よ。アンタはそこにいるじゃない」
「ん? ああ、俺様、もうとっくに死んでいるんだぜ」
刹那、ハクマの腕は緑色の炎と化して、服ごと腕が解けていく。
「「…………」」
「なんだァ? びっくりして言葉も出ないか? しょうがねえよな。幽霊なんてこの世界でも俺様くらいだからな」
「ほ、本当に死んでいるのアンタ!?」
「そうだぜ。俺様は一度死んで、肉体から抜け出た魂が霧散してしまわないように情炎から生み出した子供の肉体で包み込んでいるんだ。俺様の傲慢の炎は『具現』の性質を持っているからな」
「なんでもアリだな告白魔法」
「俺様も結構無理をしているんだぜ。今から本当の姿を見せてやるから、腰抜かすんじゃねーぞ」
ハクマがそう言うと、彼の身体は不定形な炎に変わり、別の姿へと再構築される。
「…………嘘だろ」
「こんなことって」
「これが俺様――いや、アタシの真なる姿だよっ☆」
ハクマの姿はなくなり、そこにはルミナの親友フィラが顕現していた。
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