閑話

 俺は目が覚めると、見覚えのある大聖堂に立っていた。


「やあ、今回は大変だったね」


 大聖堂の玉座にはエロスが座っており、彼は俺を労ってくれるのだった。


「お前がアドバイスをくれたおかげでルミナの偽物を倒すことが出来たよ。ありがとな」

「ふむ。礼を言うつもりが逆に感謝をされるとはなんともこそばゆい気分だ」


 エロスが機嫌の良さそうな様子で微笑む。

 礼を言われただけで喜ぶなんてなんともチョロ……神様らしくない人物だ。


「ところで、礼ってなんの礼だ? シンクの事件なんてお前には関係ないだろ」

「ところがどっこい、関係があるんだな。仮にあの場で君がシンクかルミナ、あるいはその両方を助けられなければ、その時点でこの世界は滅びていた」


 俺は軽い口調で言われたその一言に目を見開いた。


「待て待て! 告白魔法使いが死んだらそれだけで世界が滅亡するって言うのか!?」

「そうだよ。ついでに言えば、君が死んでいても世界は滅びる。告白魔法使いは誰も欠けてはいけないんだ」

「だったら教えてくれエロス! 一体俺たちは何と戦うために転生したんだ!」

「それを答えるのはまだ早い。僕の口から語れることは今の段階だとここまでだ。それに僕も全てを知っている訳じゃない。君に色々教えて事態が複雑になってしまうのは避けたいんだよ」

「俺にお前を信じろって言うんだな?」


 睨みつけてくる俺にエロスは黙って頷く。


「……わかったよ。今は何も言わなくても俺はお前の使徒とやらを務めてやるよ」

「ありがとう。……おっと、そうだ! 君に伝えておきたいことが今日はあったんだった!」


 わざとらしく声を張り上げたエロスを怪訝な表情で見つめながらも俺はエロスから目を逸らさなかった。


「伝えておきたいことってなんだ?」

「前回話せなかった君の前世のことについてだよ」

「そうか」

「おや、反応が薄いね」

「前世とか言われても今更帰る気にならなくなったというか……」

「そうかい? 君が前世で好きだった子があの後どうなったとか知りたくないのかい?」

「もういいよ。椎名さんのことはなんかどうでも良くなった」

「なるほど、つまり、今の君にはもっと好きな子がいると……」

「違うからな!? 他人の通夜に嘘ついて潜り込んで死体を誘拐した挙げ句、監禁と無理心中をした女を好きになる訳ないだろ!」

「嘘が下手だねえ」

「止めてくれ。そんな生暖かい目で見ないでくれ」


 俺が言い返すと、エロスはクスクスと笑った。


「まあ、それはそれとして、君は自分の死因がなんだったか知らないだろう?」

「俺の死因? 急性の心臓発作じゃないのか?」

「医学的にはそうだけど、君の心臓発作は偶然じゃない。君の死因はキューピットの矢で心臓を貫かれたからだよ」


 エロスは真剣な表情になって俺に告げる。


「今だから明かすけど、君の本当の死因、それは、キューピットの矢が刺さったことによって心臓が限界を超えて拍動してしまったこと。

――つまりは『キュン死』だったんだよ」


「……………………死にてえ」


 俺は明かされたあまりにも情けない俺の本当の死因に穴があったら入りたい気分になるのだった。

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