第41話 まるでアナタは吹雪に揺らぐ焚火のように−3

「嫉妬の炎……お前も使えたのか」

「寧ろ使えないはずがありません。私はアナタを好きになってからずっとずっとこの感情に縛られてきたのですから」


 俺の反応にルミナは当然と言うような様子で答える。


 嫉妬の炎を扱う二人の少女が対峙した。

 青色の炎と紫色の炎はそれぞれの使用者の足元で燃え広がり火勢を増していく。


「その炎でどうするつもり? 私と力比べでもしようと言うの? 火力勝負なら、私が負けるなんて有り得ないよ」

「勝負? そんなものするつもりはありません」


 ルミナの一言にシンクは怒りを顕にする。


「どういうこと? 私如き勝負にもならないってこと? よくも言ってくれるよね!」

「いいえ、私はアナタと戦いたくはないのです」

「ふざけないで!」


 シンクの影がルミナに襲いかかるも、ルミナは自分の影で攻撃を打ち消す。

 ルミナはシンクの攻撃を弾きながら距離を詰めていく。


「ち、近寄らないで!」

「いいえ、私は歩みを止めません」


 ついにシンクに追いついたルミナは前に向かって両手を伸ばす。


「止めろ! ルミナ!」


 ルミナがシンクを傷つけるのではないかと不安になったツヅリはルミナを止めようとする。


 しかし、ルミナは何かをする訳でもなく、ただ優しく、シンクを抱き締めた。


「…………えっ?」

「大丈夫です。もうアナタは一人じゃありません。私はアナタの影に飲み込まれた時、アナタの心を垣間見ました。そして、アナタの気持ちに共感をしたのです」


 ルミナの抱擁は決して放さない意思を籠めた力に表しながらも、慈母のような温かみに溢れていた。


「ずっと一人ぼっちだった、アナタの辛さは私にもわかります。だから、私はアナタと友達になりたいです」

「……無理だよ。私、人殺しだもの。それを知っていて友達になれるはずがないよ」

「いいえ、アナタは告白魔法の使い方をまだ正しく制御出来ていないだけです。嫉妬の炎に取り込んだものを元通りにする方法はあります」


 ルミナが情炎でシンクを包み込む。

 ルミナとシンクの二つの炎が一つに混ざり合っていく。


「これは……」

「私の炎にアナタの炎を吸収させています。上手くいけば、取り込まれた人々のみを抽出することも可能です」


 戸惑うシンクにルミナが説明をする。

 ルミナの表情は苦痛で歪み、小さく呻き声を漏らす。

 やがて、ルミナの身体から影の塊がいくつも吹き出し、影の塊は人間の姿に変わっていく。


「はあ……はあ……せ、成功しました」


 ルミナは影に囚われていた人々の救出が終わったことを察するとぐったりしてシンクに寄りかかった。


「だ、大丈夫!?」

「ええ……大したことではありません。けれど、少し疲れてしまいましたね。休ませてもらってもいいですか?」

「…………うん」


 シンクが答えるとルミナは彼女の腕の中で大胆にも寝息を立て始めた。


「凄いね、ルミナさんは」


 シンクは感嘆した様子で呟いた。


「私の影に捕まって身体を蝕まれていたはずなのに、私が十何年も抱えていた苦しみを一瞬で取り去ってしまった。……ツヅリ君、いいかな?」

「どうした?」

「私、編入試験は棄権するよ。どの道、今まで嫉妬の炎で沢山の人を苦しめた償いはしなければいけないし」


 シンクが憑き物の落ちたような表情で微笑む。


「本当にいいんだな?」

「うん。それから、身勝手なお願いかもしれないけど、もう一度、私と友達になってくれますか?」

「……そんなの、断る理由もないだろ」


 俺は銀色の獣人少女に右手を差し伸べた。

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