第39話 まるでアナタは吹雪に揺らぐ焚火のように−1

「嘘吐きだって構わないだろ」


 俺は泥の中からルミナを抱き上げて言う。


「せん……ばい……」


 俺の炎に触れた泥はルミナの身体からこぼれ落ちていき、あっという間に消えてなくなった。


「お前がどんなことをして、どんな想いでいたか、ようやくわかった」


 マミヤが作り出していた警戒の炎が萎んでいく。

 警戒の炎で垣間見たルミナの記憶を俺も追体験をしたことで、ルミナと気持ちを同調させることが出来た。


「先輩……私、先輩の遺体を連れ去ったり、先輩の大切な人を殺そうとしたり、沢山酷いことをしたのに、先輩は許してくれるのですか?」

「許すものか。動かないからって腐るまで山小屋に放置して挙げ句に燃やしてくれやがって。いくらなんでもやりすぎだ」

「ごめんなさい……」


 疲れた表情のルミナは俺に心の底から申し訳なさそうな様子で謝った。


「……でも、俺はそこまで想ってもらえて嬉しくなくはなかったな」

「へ?」


 きょとんとするルミナから俺は顔を背けて彼女を床に下ろす。


「なんでもない。さあ、早くここから出るぞ」

「は、はいっ!」


 ルミナの右手を俺の左手で握りしめる。

 俺の身体にはルミナの熱が伝わってきた。


「あらあら、上手くいったみたいね」


 そこへマミヤが現れて茶化すように言う。


「マミヤ、これからどうすればいい?」

「どうするもこうするも後は君たち二人の全力を天に向かってぶつけるだけよ」

「ここも告白魔法か。ルミナ、俺と同時に詠唱をするぞ」

「詠唱? 先輩、私はどの魔法の詠唱をすれば……告白魔法といっても様々なものがありますけれど……」

「何を寝ぼけているんだ。いつも俺に向かって言っているだろう。俺はお前の記憶の覗き見たんだぞ」

「…………はっ!」


 ルミナは訳のわからない様子を一瞬だけ見せたが、俺の言っていることの意味を察したようで、顔を真っ赤にする。


「ルミナ、俺はお前に告白する」


 俺は隣にいるルミナの手を強く握り、彼女と目を合わせる。


「……私も、先輩に伝えたいことがあります」


 ルミナは俺の手を握り返し、俺に続いて言葉を紡ぐ。


『今になって初めて気づいた俺の想い。俺はルミナのことが――』

『ずっと前から懐いていた私の想い、私は先輩のことが――』


 二人で天を見上げて、握り合わせた拳を突き上げる。


『『大好き!!!!』』


 緊迫した状況に不釣り合いな台詞を二人で声を合わせて叫ぶ。

 しかし、その台詞は俺たちにとって、ただの恥ずかしい愛の告白などではなく、闇を切り裂く火種を生み出す魔法の呪文。


 その炎の名は『深愛』。

 共鳴の性質を持つこの情炎には二つの炎が互いに共鳴を繰り返すことで魔力を増幅させる効果がある。


 俺とルミナの告白魔法は黒で塗り潰された天井に白の亀裂を走らせた。

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