第35話 まるでアナタは弱みに付け入る悪魔のように−4

「そこを退きやがれーーっ!」


 俺は立ちはだかるアランの群れを炎と氷で薙ぎ払いながら駆け抜ける。

 アランのような凶暴な人間を多数相手にするのはとても怖い。

 一瞬でも油断をすれば夥しい数のアランから一気に袋叩きにされてしまうだろう。

 

『本当はびびってるさ! 当たり前だろ!』


 本音を放ち、左手から冷気を放つ。


『だけど、それでも俺は前に進むんだ!』


 心に宿った炎を右手に宿す。


『俺は必ず、ルミナを救い出す!』


 そして、交わる二つの情炎は炸裂して爆風を巻き起こす。


「凄いわ! 見たことない告白魔法よ!」


 マミヤが俺の背後で黄色い歓声を上げる。


 『勇猛の炎』。

 恐怖と憧憬の狭間で俺が新たに見出した勇気の具現化。

 俺の左胸から赤い炎が湧き上がる。


「勇猛の炎――これは俺が触れたものに爆発を引き起こす告白魔法! こんな使い方も出来るんだぜ!」


 俺は右足を前に踏み込み、踏み込んだ瞬間に右の裏で爆発を起こす。

 爆発の勢いによって俺の跳躍力は跳ね上がり、アランを爆風で吹き飛ばしながら縦横無尽に突き進む。


「これなら最短時間でルミナに届く!」


 囚われたルミナに俺は赤く燃える右手を伸ばした。


「そうはさせません」


 だが、伸ばした俺の手は突如として目前に現れたもう一人のルミナに防がれる。


「ルミナ……の複製体!?」

「私に触れることは例えアナタであっても許しません」


 ルミナが俺の右腕を掴んで俺を身体ごと投げ飛ばす。


「なんで……俺はお前を救いたいのに……」

「私は救われなくても構いません。先輩は一人で脱出してください」

「どうしてそんなことを言うんだ! お前も一緒に脱出するんだよ!」

「私は先輩が無事でいてくれたらそれでいいのです」


 俺は意固地なルミナに激しい憤りを感じる。


「いい訳あるか! この『嘘吐き』!」

「――――!」


 ルミナは俺の一言に動揺した様子を見せる。


「今だ! 悪いがここは通らせてもらう!」


 その隙を逃さず、俺はルミナに勇猛の炎を叩き込む。

 ルミナは俺の攻撃に対して防御もせず、驚いた表情を浮かべて、爆発で盛大に吹き飛ばされた。


 ――嘘吐き。

 その言葉こそ、エロスから教えてもらったルミナの「弱点」だった。


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