第29話 まるでアナタは愛を詠う歌人のように−4

 ルミナの告白に俺は衝撃を受ける。


「お前が……この試験の試験官だと?」


 ダーインからの説明にあった試験官。

 その一人がルミナだったのである。


「今回の試験では私を含む三人の試験官が校舎内を巡回しています。鬼ごっこで言うところの鬼役のような存在です。アナタたちはそんな鬼役の一人に見つかってしまった、という訳です」

「その話は聞いていないぞ! なんで言ってくれなかったんだ!」

「この世界における私の父、ダーイン・メルトリシアから試験の内容については秘匿するように言われていました」


 ダーインがルミナの父だと判明したことで俺は困惑しながらもその理由に納得する。

 思い返してみれば、ルミナが俺にこの学院の編入を勧めてきたことすら、ルミナの思惑通りだったのだと気づく。


「アンコール魔法学院への編入試験も全てお前が俺を我が物にするための罠だったんだな」

「……半分は正解ですね。父の運営する学院に先輩を入学させて外堀から埋めてしまおうという考えは確かにありました」


 ルミナが雷の槍を強く握り締め、シンクに向かって構える。


「大丈夫ですよ、先輩。私が先輩を最後の一人になるまで絶対に守ってみせますから」


 それはつまり、俺以外の全員を叩き潰すと言っているに他ならない。

 俺は咄嗟にルミナの攻撃からシンクを庇おうとして告白魔法を発動しようと、口を開けた。


「待てよ。そいつは俺様の獲物だぜ」


 だが、そこにもう一人、何者かが現れる。


「……ハクマですか」


 ルミナが忌々しげに見つめる先には俺たちよりも7つは年下に見える緑髪の少年がいた。

 ハクマと呼ばれたその少年の右手には緑色の炎が宿っていた。


「告白魔法使いか!?」


 ハクマの右手に宿っている炎は間違いなく俺やルミナと同じ告白魔法の情炎だ。

 俺自身も合わせるとこの世界で俺が出会った告白魔法使いはハクマで四人目である。


「へへっ、俺様はハクマ・ヴェニエール。試験官の一人にして、テメエらを一人残らずぶっ倒す者! 痛くされたくなきゃ、さっさと倒されて俺様のポイントになりやがれ!」


 傲慢な態度のハクマが嗜虐的な笑みを浮かべて言い放つ。


「ポイント?」

「気をつけてください。ハクマはゲーム感覚で戦闘を愉しむ狂人です。ポイントというのは今回の試験で今までに倒してきた受験者の数を指しているのでしょう」


 俺の疑問にルミナがすかさず答える。

 どうやら、ルミナとハクマは試験官同士顔見知りのようだが、二人の間には険悪なムードが漂っていた。


「そのとーり! 今日、俺様がここまでに得たポイントは26ポイント! つまり、26人が俺様の手にかかって脱落したということだ!」


 まだ試験が始まってから30分も経っていない。

 それなのに、もう26人も倒したと豪語するハクマの言葉が本当なら、彼は俺たちにとって恐るべき脅威である。


「さぁて、テメエらもここでくたばってもらおうか。クソ女、コイツらを逃がすんじゃねえぞ」


 ハクマが牙を剥いて、子供にあるまじき凶悪な顔を見せる。


『この世で最強はこの俺様! 全てのクソ共! 俺様の前に平伏せ! 跪け! 這いつくばれ!』


 ハクマの手に宿る緑色の情炎が巨大な右手に変化する。


「炎の手!? あれも告白魔法なのか!?」

「そうさ! コイツは『傲慢の炎』! 俺様から溢れんばかりの支配欲を巨大な手に変え、具現化した!」


 ハクマの巨大な手が俺とシンクを纏めて羽虫のように潰してしまおうと振り下ろされた。



 

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