第28話 まるでアナタは愛を詠う歌人のように−3

 それから30分後、学院の至る場所から爆音が轟き始めた。


「試験開始か……。勢いで人気のないところまで逃げてきたけど、向こうは色々と凄い感じになっていそうだな」


 俺とシンクは周囲に警戒しながら校舎内の廊下を駆け抜ける。

 窓の外から他の受験者に見つからないように身を屈めて壁や柱に張り付くような体勢で暗闇に潜んでいた。

 俺とシンクの胸元には金属製のピンバッジが取り付けられている。

 このピンバッジはダーインの言っていた発信機能付きの魔道具らしく、教室のすぐ外にあった机の上に並べられていた。


「見つけたぞ!!」


 男の声が聞こえて、俺はビクリと身体を震わせる。


「クソッ! 見つかったか! 『――我は猛き意思を持つ者! 灼熱の業火を以て焼き滅ぼす! 天舞う灰の塵となれ!』」


 しかし、男に見つかった人物は俺ではなかったようで、壁を隔てた先にある階段の踊り場から魔法の炎が迸る。


「シンク、こっちは危険だ。教室棟の方に向かおう」


 俺は小さな声で俺の背中にびったりとくっついているシンクにそう言った。

 シンクは明るい表情で頷いて俺の後からついてくる。

 よく考えれば、今のシンクは俺にしてみれば、合格者枠を争う敵という訳だ。

 けれど、俺はどうしてもシンクと戦うつもりにはなれなかった。


「……なあ、シンク」

「うん? どうしたの?」

「もしも、俺とお前が最後に残ったら、どうする?」


 俺はシンクに恐る恐る尋ねる。


「それは――」


 シンクはきょとんとした表情で口を開いて、


『まるでアナタは曇天に響く雷鳴のように』


 その瞬間、シンクと俺の間に一閃の雷撃が飛んできた。

 雷撃は校舎の壁を貫いて粉砕する。

 直撃した跡の瓦礫からは見覚えのある青い炎が燃え盛っている。


「私に隠れてイチャイチャと……本当にアナタという人は目障りですね」


 鬼のような形相のルミナが俺たちの前に立ちはだかっていた。


「ルミナ!?」


 俺は思わず叫ぶ。

 試験開始の直前からいつの間にか姿を消していたルミナはパンツスタイルのスーツのような服装に身を包み、左手に青い炎を纏った白く光る槍を握っていた。


「『激怒の炎』――情炎から雷の槍を生み出す告白魔法です。……先輩、今の私がどんな感情を抱いているか分かりますか?」

「怒っているんだろ?」


 激怒の炎と言うからには怒っているのは一目瞭然だ。


「ええ。私の心は先輩に近づく不届きな女を許せない気持ちで一杯なのです」


 ルミナはゴミを見るような目でシンクを睨むが、シンクもまた、ルミナを睨んでいた。


「ルミナさん……一体何をしに来たの?」

「アナタを潰しに来たに決まっているでしょう。先輩はともかく、アナタは私の敵なのですから」

「そうじゃないだろ。俺たちが疑問に思っているのは、どうして、ルミナが試験に堂々と参加しているのか、ということだ!」


 ルミナは一瞬だけ目を瞑り、敵意のこもった眼差しを俺たちに向けた。


「それは……私がこの試験における試験官の一人だからです」

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