第25話 まるでアナタは醜く這いずる芋虫のように−3

 突如、光が収まり、俺は恍惚の大聖堂に呼び戻された。

 目の前にはプシュケーの姿はなく、エロスだけが玉座に腰掛けて俺を待っていた。


「ど、どうしたんだ?」

「うん。君にどうしても訊いておきたいことがあってね……」


 エロスは真剣な表情をしていた。

 俺はゴクリと生唾を呑む。


「君は私の妻をどう思っている?」

「どうって……質問の意図が理解出来ないのだが……」

「外見や性格、なんでもいい。君の率直な意見が聞きたいんだ」

「ええ……まあ、綺麗な人だな、とは感じたけど……」

「他には?」

「優しそうな感じがするなあ、と」

「ぶっちゃけ、寝取りたい?」

「俺はなんの話をさせられているんだ」


 エロスは質問の度に鼻息を荒くさせていた。


「僕は愛する妻が他の男に浮気する様を想像するとこの上なく興奮してしまうんだ!」

「変態か! なんで急に異常性癖暴露した!?」

「神ともなると立場というものがあって、こうした性的嗜好を対等に語らう相手もいなくなってしまうのだよ」

「いや、俺は今の発言で結構ドン引きしてるよ」

「駄目な神で申し訳ない!」


 エロスが目の前で両手を合わせて俺に頭を下げる。


「僕の性癖を周囲には黙ってくれないか? 妻やラビィには知られたくないからね」

「別に構わないが……」

「代わりとしてはなんだが、君にはルミナの秘密を一つだけ教えてあげよう」

「…………ルミナの秘密?」


 ニコリと微笑むエロスに対して俺は首を傾げた。


          @ @ @


 ついに、二次試験の日がやって来た。

 俺は猫屋敷のエントランスで持ち物を改めて確認していた。


「受験票持った? 筆記用具は? お弁当と水筒も忘れないようにするのよ?」


 ラビィがしつこく俺に尋ねてくる。


「全部ちゃんとあるわい! というか、お前は母親か!?」

「だって、私はアンタの保護者なのよ!?」

「ですが、ラビィちゃんの保護者は私です」

「それを言うなら俺はルミナの保護者だ!」


「「「はっ!」」」


 俺とラビィとルミナは声を揃えて驚く。


 どうやら、俺たちは全員が誰かの保護者だと思いこんでいるトライアングルな関係にあるらしい。

 …………コントかよ。


「結局、告白魔法の練習はあまり出来なかったな……」


 俺は鞄を背負って呟く。


「仕方がありません。アランの件やフィラの件、私の家出問題や先輩とシンクさんの密会など諸々の事情で時間があまり取れなかったのですから」

「は? ちょっと待ちなさい! 密会って何!? 私、そんな面白そうな話聞いてないわよ!?」


 ラビィが例の夜の話に食いついてくる。


「なんでもない。気にするな」

「気にするでしょーが! 童貞オタクのアンタが女子と夜デートとか何があったのよ!? 美人局にでも遭ってる訳!?」


 目を輝かせたラビィが俺にグイグイと訊いてくる。


「そういうのじゃないからな」

「じゃあ、どんな話をしていたのよ」

「……それは秘密だ」

「怪しいなー。怪しいなー」


 ラビィから顔を背けた俺は荷物の詰まった鞄を背負って猫屋敷の玄関に目を向ける。


 ちょうど、猫屋敷の玄関にはルミナが立っており、俺と彼女の視線が合わさる。


 俺はルミナの顔を見て、昨晩の夢でエロスという神様から聞いた彼女の『弱点』を思い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る