第26話 まるでアナタは愛を詠う歌人のように−1
「ところで、ルミナは何故、俺と一緒に来ているんだ?」
俺は二次試験の会場となるアンコール魔法学院までやって来たが、どういう訳か、ルミナは俺に同伴して試験場であるはずの教室まで足を踏み入れていた。
「大丈夫です。先輩でしたら、きっと今日の試験も合格出来ます」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
話の噛み合わないルミナと俺は会話を試みていたが、俺の周囲の生徒たち――つまり、一次試験を勝ち残ったこの世界のエリート少年少女は騒ぐ俺たちに目もくれず、一心不乱に本の暗唱や早口言葉の練習をしている。
彼らは自主練習は恐らく魔法の詠唱に関係していることなのだろう。
本の詠唱はより多くの呪文を覚える記憶力を鍛える目的があり、早口言葉は詠唱の高速化を目指しているのだと思われる。
「やっぱり俺もちゃんと勉強をしてくるべきだったかな……なあ、ルミナ――あれ?」
俺はルミナに語りかけるが、さっきまで俺の隣にいたはずのルミナの姿は忽然と消えていた。
「ツヅリ君っ!」
「うおおっ!」
その時、シンクが嬉しそうな声を上げて俺に駆け寄ってきた。
「……お、驚いた。シンクだったのか。随分と機嫌が良さそうだが、何かいいことでもあったのか?」
「ううん! ツヅリ君の姿を見たら元気が湧いてきただけだよ!」
ニコニコとしているシンクの様子に俺は少しばかり動揺していた。
元気なことは俺としても嬉しいが、短期間であまりにも態度が様変わりしてしまうと、どう反応するべきか一瞬わからなくなってしまう。
「まあ、何はともあれお前がいてくれると心強いよ。今日の試験、お互い頑張ろうな」
「二人共合格出来るといいね!」
俺とシンクがそんな話をしていると、教室の照明が突然全て消灯する。
次の瞬間、教室中に声が響いた。
「ごきげんよう、愚図共。これよりアンコール魔法学院編入生徒選抜第二次試験の説明を開始する」
教壇に立って俺たちに試験の説明を始めると言った声の主は眉間に皺を浮かべた中年の痩せぎすな男だった。
男は確かに俺たち受験生のことを「愚図」と呼んでいた。
「なっ……」
「不合格とされたくなければ私語は慎むように。質問は説明の後に受け付ける」
思わず叫びそうになった俺だが、男からの注意を聞いて咄嗟に言葉を飲み込む。
「まずは私についてご説明しよう。私はこのアンコール魔法学院の理事長、ダーイン・メルトリシア。そして、今回の二次試験における試験官だ」
毅然としたオーラを纏うダーインという男の姓に俺は聞き覚えがあった。
「凄え。ダーイン・メルトリシアと言えば国内最強と云われる大魔法使いだぜ。俺、初めて生で見たよ」
「千の魔法を扱うとか、たった一人でこの街を創ったとか、そんなデタラメな伝説は俺も聞いたことがある」
俺の傍にいた二人の受験生がひそひそと話し始める。
魔法を千も扱えることはどれだけ凄いか俺にはわからないが、どうやらダーインは余程の大物らしい。
「そこの二人、出ていきなさい」
しかし、ダーインの手にする本から光が放たれ、同時に話をしていた受験生二人も光に包まれて教室から消えてしまった。
「私語は慎むようにと言っただろう。彼ら二人は不合格だ。私の魔道具による空間転移の魔法で学院の門前まで帰ってもらった。お前たちも彼らのようになりたくなければくれぐれも気をつけろ」
俺を含めた受験生たちはダーインの容赦の無さに戦慄する。
「そして、今回の試験だが、お前たちにはこの学院全体を舞台としてサバイバルをしてもらう。内容は第一次試験と凡そ同じだ」
……またサバイバルか。
とはいえ、俺には告白魔法がある。
告白魔法の使い方を理解した俺なら岩のゴーレムだろうと鉄のゴーレムだろうとダイヤモンドのゴーレムだろうと敵ではない。
「因みに言っておくが、この試験で合格出来る者は『一名のみ』だ」
だが、続くダーインの台詞に俺たちは衝撃を受けた。
俺とシンクは顔を見合わせる。
アンコール魔法学院第二次試験の合格者枠はたったの一名。
それが意味することはつまり、絆を紡いだ友人であろうと自分が生き残るために蹴落さなければならないということだった。
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