第277話 大人って凄くてズルいな。
「流石のツネノリも連戦は無理だったかぁ…」
「ふふ、その為に僕が先に戦ったからね」
「ああ、助かったよカーイ」
「本当、2人ってずるいよね。ちょっと待ってね。
メリシアさん?もう終わる?あ、そのままそこに居て。ツネノリも送るからそっちで少し休ませてよ。ツネノリ?燃料切れ。少し寝れば起きるからドフお爺さんの家で寝かせて貰っててよ」
私はツネノリをドフお爺さんの家に送りつける。
ああ、本当なら家に送れば良かったかな?
まあいいや。
そして2人を見る。
「ありがとうございました」
「ご希望には添えたかな?」
ザンネさんが笑顔で聞いてくる。
あれだけの動きをしたのにザンネさんは平然としている。
「もう、本当に凄いですね。話してないのに私の事、わかるんですか?」
「少しだけね。ツネノリに戦って欲しくないんだよね?それでも戦うつもりなのが辛いんだよね」
「はい」
そう。ツネノリがやる気なのが辛い。
そして諦める気が無いのが更に辛い。
「そんなに神様って強いのかい?」
カーイさんが聞いてくる。
「はい。神の世界で戦った神たちはそんなに強くなくて、多分今のツネノリでも神殺しの力を意識してメリシアさんと連携を組めば勝てると思うの。それにセカンドの最終戦で東さん…ガーデンの神様から力を分けて貰ってから確実にレベルアップをしたし。
でもジョマや東さんを相手にすると今のままでは勝てないの。きっとまだ神の世界には本当に強い神様は居ると思う。そう言う人が敵になったら…」
「そっか、それは千歳さんとしては心配だよね」
「うん…」
そう、あの酒神や戦神なんかだったら攻撃さえ入ればツネノリでも倒せる。
だが本当に東さんやジョマのような高次元の神が本気になったら一瞬で返り討ちに会うだろう。
私はとにかくそれが心配でならない。
「だが千歳、お前が気に病む必要は無いんだ」
「え?」
ザンネさんが急に気に病む事は無いと言う。
「それこそ神にでもなったつもりかな?」
「…?」
「では君はこれまでの戦いで神様やジョマが辞めろと言ったら辞めたのかい?」
「…ううん」
「ではそれと同じだよ。ツネノリも辞めない。それを黙って見守るのも大事だとは思わないかい?」
「…」
「まだ君は若いからね。どうしても混乱してしまうよね。大丈夫。きっとうまく行く。それを信じなさい」
そう言って微笑むザンネさんを見て敵わないなと思った。
「ザンネさんもカーイさんも凄いね。敵わないや」
「そうかい?」
「だってカーイさんはその指輪の力を使わなかったよね?多分使っていたらツネノリは負けていたよ」
「見抜かれていたんだね」
「うん、風の力だね」
「そう、これもペックさんに譲って貰った風の疑似アーティファクト。これを使っていれば最後の剣を全て風で乱す事も出来たし動きを遅らせる事も出来た」
「そして時の力をツネノリやツネノリの剣に向けなかったよね」
「内緒だよ?」
「大人って凄いね」
私は笑うしか出来なかった。
「そしてザンネさん、ザンネさんは本当に凄いよね」
「何がだい?」
ザンネさんが含みのある言い方で私の方を見る。
「だって、まだ速さに上があるよね?もっと速く剣が振れるし、戦い方にしても多分ツネノリの映像を見た時から対策は考えていたからもっと別の戦い方もあったよね?」
「どうかな?千歳の気のせいかもしれないよ?」
「きっと神如き力を使わない私とツネノリでも怪しくてメリシアさんが居て初めて勝てるよね」
「それは買いかぶりすぎじゃないかい?それにそうだとしたらウエストのガクなんて強すぎるだろ?」
「ガクさんは身体強化の疑似アーティファクトを装備していたでしょ?
ザンネさんは装備していなかったよね。だからあの乱打戦はザンネさんの勝ちだと思っているよ。総合的に見てガクさんが勝てただけだよね?」
「ふふ、内緒だよ」
「うん、今度はウエストに行くと思うけど黙っておくね」
「ありがとう千歳」
そう言って笑うザンネさんとカーイさんを見て本当に敵わないと思った。
「大人って凄くてズルいな、ツネノリの為にわざわざ悪役みたいになってくれるカーイさんも凄いし、ザンネさんはわざわざツネノリの限界を呼び起こしてくれた」
「買いかぶりすぎだよ千歳さん」
「ああ、そうだな」
そう言ってまた笑う2人を見て凄いなと思ってしまった。
「じゃあ、ツネノリ君もメリシアさんも居ないんだ、千歳さんの評価を聞かせてくれないかな?」
「え?」
「俺はさっき言ってもらった通りかな?」
「あ、ザンネは言ってもらったんだ」
「ああ、見事にな。千歳の眼は本当に凄い。多分それは神の力ではない千歳の本能だと思う」
「凄いね、じゃあ僕の事も頼むよ」
うーん、恥ずかしいんだけどなぁ。でも期待している2人を無碍には出来ないから思った通りを伝えよう。
「ザンネさんはさっきも言った通りだからね。私も皆もザンネさんに幸せになって欲しいと思っているからね?ザンネさんのその凄い愛情を結婚して1人の人に向けて、その人との子供に向けてね」
「ああ、努力するよ」
「それがザンネの評価なんだね。うん。僕もザンネには幸せになって欲しい。ちゃんと幸せになって欲しい」
「カーイ」
ザンネさんはカーイさんに「ありがとう」と言って肩を抱く。
そう、ザンネさんはカーイさんやアーイさん、ノースの人達が幸せになるまで幸せになれないと決めつけているのだ。だから私の言葉よりもカーイさんの言葉が胸に響いたんだと思う。
「さあ、僕にも評価をくれないかな?」
そう言ってカーイさんが私を見る。
「カーイさんもザンネさんに近いけど、カーイさんは色んな物を知っているから凄い人だよね。
さっきツネノリに言った言葉、「理想を実現できるだけの力を身に着けてから理想を言え!!」って言葉はカーイさんの体験談だよね?
私は神如き力であの日の事を見てきたよ。
カーイさんが何を思って平和を望んだか見てきたよ。
身体の事、お姉さんの事、お父さんの事、終わらない戦争の事。
そしてアーティファクトと言うものについて。
そしてどうにかして今ある力で平和を目指せないか考えたよね?
その結果があのアーティファクト・キャンセラーだった」
「…そうだね。僕は力のない自分が理想を叶えるだけの力のない自分が憎らしかった」
「でも、もうその時の事を気に病む必要は無いんだよ?カーイさんはその後アーイさんのおかげで身体が丈夫になったよね?それからザンネさんに色々教わって、弱い人の気持ちも強い人の気持ちも全部知って凄い王様になったよね?
もう責任を感じなくていいんだよ?」
「…」
「皆が幸せになるまで幸せを掴めないって凄くて私には真似できないよ。でも東さんやジョマじゃない命に限りある人間がそういう事をしていたらあっという間にお爺ちゃんになっちゃうよ。そうしたらザンネさんもアーイさんもガクさんだって悲しむよ。
だから少しは自分に優しくして。
ザンネさんもカーイさんも自分に優しくしていいんだよ」
「…」
「…俺もかい?」
「うん」
「だそうだ、カーイ」
「…何も言い返せないね。ザンネ」
「そうだな。俺達は自分の事は最後にしていたからな」
そう言って2人の空気が少し軽くなる。
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