第272話 俺は人の身で神を超えます。
「あの…先生…」
「はい?」
俺はとんでもないお願いをしようとしている。
いくら先生だからと言ってこんな事を頼んでしまっていいのだろうか?
「お願いですね?」
「え?」
「神を超えたい」
「何でそれを?」
「昨日、夜中にコッソリとツネジロウ様が連絡をくれました。
「今度俺の子供達がお礼参りで方々に行くことになった。娘は完全にお礼のつもりだがツネノリは間違いなく神との戦い方について相談したがる。話を聞いてやってくれないか?」
と言われました」
「父さん…」
「もう、余計な真似をして…」
「いいじゃないですか、親心ですよ。
さあ、中庭に行きましょう」
そして俺達はテツイ先生を前にして中庭に行く。
「ここで「創世の光」を使ったんだね」
「千歳さんは半分神様になったから知っているんですね」
「はい。見ました」
「では神様になられた千歳さんにお願いです。
神の力で光の盾のような塊を出してください。
どう言うものかわからないと対処のしようがない。
後は概念的な神への攻撃を教えてくれませんか?」
「神殺しの力のイメージですか?」
「ええ」
「うーん、口にするのは難しいなぁ、じゃあ考案者を呼ぼう。王様来て!」
千歳のその声で目の前にキヨロスさんが現れた。
キヨロスさんは周りをキョロキョロと見て千歳に気付く。
「チトセ、いきなり呼ぶのやめてよ」
「あら、王様だって皆を急に呼ぶじゃない。それに王様ならいつでも準備万端だと思ったんだけど」
千歳はいつもの感じでキヨロスさんに言う。
見ている俺はヒヤヒヤものだ。
「酷くない?機嫌悪いの?」
「甘えてみただけですけど」
甘え?なんだその甘え方は?
2人を見ていると何がなんだかわけがわからなくなる。
「ふーん、ならいいや。それで用事は?」
「テツイさんが神殺しの力について知りたいって」
「チトセが教えればいいじゃないか」
「一応、考案者の王様に任せたかったの」
「はぁ……。なんだ、説明に自信がないのか…」
「ぐぎぎぎぎ」
千歳はあっという間にイライラする。
仲が良いのか悪いのか…
「いいよ…テツイ手を出して」
そしてキヨロスさんがテツイ先生に神殺しの方法を伝える。
「ありがとうございます。
イメージはわかりました。
後は実際に攻撃してみたいです。
千歳さん、お願いします」
千歳が光の塊を出してテツイ先生の前に置く。
テツイ先生は触ったり眺めたりしている。
俺はそれをただ眺める。
「ツネノリ」
「はい?」
キヨロスさんが俺に話しかけてくる。
「神殺しの力…、ツネノリは先を目指すんだね?偉いぞ」
「ありがとうございます。
俺は人の身で神を超えます」
「ならツネノリにも説明をするよ。
手を出して」
そう言うとキヨロスさんは嬉しそうに頷いて神殺しの概念を教えてくれた。
神と人との差、世界の違いみたいなものを意識して、自分の今いる世界以外を狙う力。
高次元の命に届く事を意識した力。
「ありがとうございます」
「わかった?今度城に来たら鍛えてあげるよ。今日はイーストで終わり?」
「いえ、午後にはノースに行きます」
「じゃあザンネか、先に行って神殺しの説明しておくかな?またチトセに呼ばれても困るしさ」
「ありがとうございます」
「いいよ。チトセ、僕は行くからね」
「うん。王様ありがとう。そう言えば体に変化は?」
「まだ何もないよ」
「王様ムカつくから目覚めないんじゃない?」
「酷くない?」
そう言うとキヨロスさんが消える。
テツイ先生はキヨロスさんに見向きもしないで光の塊を眺めたり触ったりしている。
「千歳さん、これは全力ですか?」
「ううん、お試しで軽く作っただけ」
「やはりそうですよね。
じゃあ…試してみましょう。
【アーティファクト】」
テツイ先生はそう言うと先の尖った氷の塊を出した。
「僕は氷が得意なんですよ」
「それって指輪から出したんですか?」
「ええ、千歳さんの塊がお試しなのにコチラが腕輪にするとすぐに頭打ちになりますからね」
笑いながらそう言って氷を飛ばして塊にぶつける。
塊に小さな傷がつく。
「凄い、1回目で当てた!」
千歳が凄いと喜ぶ。
「ふふ、ありがとうございます」
「当てた?」
「そうだよ。ツネノリは普通に氷の攻撃をしてみなよ」
「ああ、【アーティファクト】」
俺も氷を出して光の塊に当てるが当たってはいるのだが、実感がない。
なんと言えば良いのだろう?氷は砕けるが当たった感じがしないのだ。
「なんだ?テツイ先生と俺の差か?」
「いいえ、ツネノリ君。君の氷もとても良い。
僕の教えをきちんと覚えてくれているね」
そう言ってテツイ先生は俺に微笑んでくれる。
「意識の向け方とか氷を作る時から違うんだよ。
ツネノリは王様から教えてもらったんでしょ?
神様に当てる氷を作るんだよ」
「よし【アーティファクト】」
俺は意識をしながら再度氷を作って投げてみる。
今度は何とか当たった感じだ。
「当たった!」
「よく出来たねツネノリ君。
こんなに飲み込みが早いなら僕はいらなかったかな?」
「そんな事ありません!」
俺は必死になってテツイ先生に言う。
千歳がテツイ先生の方を見る。
その眼差しは真剣だ。
「テツイさんが壊すところを見てみたいんだけど頼めますか?」
「千歳さん?」
「ごめんなさい。人の手でこの塊が壊れるかを見たいの。ダメですか?」
千歳は顔だけではなく声も真剣だ。
きっと千歳が欲しいのは可能性だ。
人の手で神を超えられるのか。
神を倒せるのか。
それが欲しくて言っている。
その問いには俺の事もあるのだろう。
無駄な努力であれば俺に辞めさせたいと言う所だと思う。
テツイ先生は千歳の顔から何かを感じ取ってくれたのだろう。
優しく微笑むと「では千歳さんにもお願いをしていいですか?」と言う。
「はい。なんですか?」
「人には壊せないと思う強度で塊を作り直してください」
「え?」
「それすら超えられないでなんの意味がありますか?」
「でも…」
「わかりました。では僕がこの塊を破壊します。そうしたら作ってくれますね?」
「…わかりました」
「ありがとう。そんなに思い詰めて悲しい顔をしないでください。
大丈夫、僕は千歳さんを悲しませんし、それにあまりそんな顔をしているとツネノリ君が心配してしまいますよ」
そしてテツイ先生は俺を見てニコッと笑ってくれてから深呼吸をする。
「そうだ。ツネノリ君。
一応言うと君の最終戦、黒くて巨大な悪魔に放ったあの風と火の攻撃は悪くなかったですよ。
でも僕ならあの攻撃であの悪魔を倒せたはずです」
「え?」
「そんな僕以上の力を持っているのだから精進をしてくださいね」
…何を言っているんだ?
あのクロウをアーティファクトの攻撃で倒す?
俺は「あの…」と声を出したがテツイ先生は塊の方に向かう。
「千歳さん、行きますよ【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」
テツイ先生は風と火を出して俺がクロウに放った攻撃を再現する。
その炎が光の塊を包んで焼き続ける。
「そろそろですかね?」
テツイ先生がそう言うと光の塊にヒビが入って真っ二つに割れる。
「出来た!凄い!!」
「ありがとうツネノリ君」
テツイ先生は千歳の方を向く。
「千歳さん、約束です。僕のお願いを聞いてもらえますね?」
「はい」
そう言って千歳は更に大きな塊を作る。
「うーん…、これは確かに大変そうだ。
でもやってみましょうかね。
【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」
テツイ先生は風と氷のアーティファクトで氷と風の竜巻を作り出す。
「当れ」
その声で攻撃が始まる。
氷は風の力を借りて物凄い速度で光の塊に当たる。
しばらく攻撃をしたテツイ先生だったが「まだダメそうですね」と言って攻撃を辞めた。
そして塊に近づいて「傷は付きましたが破壊には至らない。いやはや神様と言うのは凄いですね」と言って笑う。
笑ってから千歳を見る。
「千歳さん、悲しい顔はしないでくださいね」
「…はい」
だが千歳の顔は泣きそうだった。
「それに、僕は「まだ」と言いましたよ」
「え?」
「この塊は残して行ってください。僕はこれから毎日破壊できないか試します。初日でこれだけやれたんですから、あっという間に破壊してみますよ。あ、あっという間と言っても1年くらいですかね?」
そう言って照れ笑いをするテツイ先生。
1年?1年でこの塊を破壊する?
俺にはとても信じられなかった。
「残すって…今の私には無理かも…、これも結構神如き力を使うの…」
「じゃあ、東さんに頼もう!さもなければジョマだ」
「ツネノリ?」
「ふふ、やってあげるわ」
ジョマの声が聞こえると千歳の塊は消えて同じ場所に一回り大きな塊が生まれた。
「きっと一個じゃダメよね?」
「ジョマ?」
千歳が驚いて空を見上げる。
「ああ、そうなるな」
「ツネノリ?」
俺は当たり前と言った感じで話をする。
「ふふ、ツネノリ様。ここの他にご自宅の横、ノースの城、ウエストの城、後は二の村に作っておいたわ」
「助かる。サウスの城は?」
「あの王様なら近々力に目覚めて子供達にやってみろって言いながら自分で置くわよ。
きっと「なんだチトセはジョマに頼ったのか、まあそんなもんだよね。僕は自分でやるよ」って言うわよね」
「確かに」
「ジョマ、酷くない?」
「いいじゃないですか。
みんな、千歳様が好きで千歳様の為に試行錯誤をしてくれているんですよ。
そんなに思い詰めないでください」
そう言うとジョマの気配が消える。
千歳は今のやり取りで少しだけ気分が上向いたのだろう。
さっきまでの真剣で思い詰めた雰囲気ではなくなっていた。
「よし、僕はこれから色々試すよ。
2人とも、今日は来てくれてありがとう」
テツイ先生の意識は塊に向かっている。
ここら辺が帰る潮時なのだろう。
「私たちこそありがとうございました!」
千歳が笑顔で感謝を告げる。
「ツネノリ君、今度君の大切な人を紹介してくださいね」
「はい」
「あ、会います?」
「何?千歳!?」
「メリシアさん?聞こえる?ごめんね?今来れる?うん。私が呼ぶよ。鎧着て欲しいんだよね。
テツイさん、5分くらい待ってもらえますか?」
そして千歳は本当に5分後にメリシアを呼びつける。
「千歳様、呼んでくださってありがとうございます。
ツネノリ様、こんにちは」
「メリシアさん、こちらのテツイさんがツネノリの2人目の先生だよ。
ツネノリがタツキアを守った時に風と水を使ったよね?あれを教えてくれた先生だよ」
「まあ!そうだったんですね。
ご挨拶が遅れました。
テツイ様。初めまして。
メリシアと申します」
そしてメリシアが俺を見る。
「?」
「ツネノリのバカ!鈍感男!」と千歳の心の声が聞こえる。
あ!
「テツイ先生、紹介させてください、
彼女、メリシアは俺の大切な人です」
「はい。メリシアさん。初めまして。テツイです。
ツネノリ君の事をよろしくお願いしますね。
今度はゆっくりとイーストまで遊びに来てください。
そして良かったらセカンドガーデンの話を聞かせてくださいね」
一通り終わったところで千歳が「じゃあ帰ります!」と言ってさっさと瞬間移動をする。
移動先は家だった。
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