第263話 冬がとても綺麗で素敵で心が洗われるものだと言う事を思い出させてくれた。

「ふふ、凄い宿ですね」

「本当だな」


「でも父と母が燃えた意味がわかりました」

「何?」


「昨日、ツネノリ様達には午前中ですけど、ウチはまだ直っていないから宿をやれないのに父は料理を真剣に作るし、母は掃除や部屋の飾り付けに本気になっていたので理由を聞いたらエテの話をされました。

負けていられないそうです」


「そんな事があったのか」


俺達は話しながら歩く。

不思議な事に冬の景色だけではなく、花が咲き乱れていたりした。


「綺麗…」

「本当だな」

そう言いながらエテの端に用意された池に着いてほとりに立ちながら景色を堪能する。


「ツネノリ様、勇者様が神様の代行になられたんですね?」

「ああ、まだ正式な発表はされないが決まったらしい。

あ、一つメリシアに伝え忘れた。

聞いてくれ」


「はい?」

「俺は次代の勇者ではなくて父さんの後を継いで勇者になる事になった。

俺が望めばだが、断る理由もない」


「おめでとうございます」

「だがな、俺はファーストやセカンドの常識に疎い。父さん達も言っていたのだが、メリシアに勇者の仕事を手伝って貰えないか?」


「喜んでやらせていただきます」

「…」


「どうしました?」

「いや、とても嬉しいのだが、タツキアの仕事は平気なのかと気になってしまってな」


「大丈夫ですよ。

繁忙期にだけ手伝えれば父も母も喜びます。

その事も昨日言われました。

どうせそのうち嫁に行く身なんだから頭数には入れないから忙しい時だけ手伝ってくれ

と…、だから大丈夫です」


「そうか…、すごく助かる」

「ふふ、嬉しそうな顔。それに私が居なかったらどうやって街と街の瞬間移動をするつもりなの?

毎回色んなところに飛び込む勇者なんて格好つかないわよ」


「そうだな。

それにしてもメリシアは所々で話し方が変わったな」

「はい。わざとです。

その話し方の方が新鮮だし喜ばれる気がしたので」


「ありがとう」

そう言ってメリシアの腰を抱いて引き寄せてエテの景色を堪能する。


「ふふ、お母様達も楽しそう」

「何?あ!」

今居る場所から離れた所に隣接された茶屋で母さん達がお茶を楽しんでいる。

母さんはあれだけ食べたのにまだ何か甘い物を食べている。



千歳も楽しそうに母さんと甘味を食べている。

あれ?


「メリシア、済まないがちょっと顔を出していいか?」

「はい。どうしました?」


そう言って少し茶屋に近づく。

「あ、ツネノリ!メリシアさん!こっちでお茶にする?ここは芋ようかんが美味しいよ!」


「いや、千歳はそんなに食べて平気なのか?」

「何で?別にセカンドでたくさん食べても現実の身体に影響……あ!!」


どうやら千歳は気付いたらしい。

「行こうかメリシア」

「はい。良いんですか?」


「千歳が気付いたからな。

あいつは今日、生身でセカンドに来ているから食べたら食べただけ太るんだよ」

「それで教えてあげたんですね。

でも千歳様、涙目でう〜う〜唸っていますよ?」


「半神半人でも大変なんだな」

そう言って笑う。


もう一度景色を見た後「皆が外なら俺たちは部屋に戻るか?」と言って部屋に戻る。


そう言えばこの前は春の部屋だったが今日は冬と秋の部屋だった。


冬の部屋は冬になると当たり前すぎて忘れてしまう冬がとても綺麗で素敵で心が洗われるものだと言う事を思い出させてくれたし、秋は来年の秋が待ち遠しくなった。



「今日はここで2人きり」

「嫌か?」


「バカね、誰が嫌なんて言うものですか」

「済まない。つい聞いてしまった」


「お茶を淹れますね」

そう言ってメリシアが入れてくれたお茶を飲みながら小さな庭の景色を見て時間を過ごす。


「素敵な時間です。ツネノリ様と2人きりでこんな素敵な場所にいる」

メリシアは嬉しそうにしている。

俺もその顔を見ていると嬉しくなる。


「今日はずっと一緒にいられる」

「嬉しい。でも今はお預けですね」


「なに?…ああ、千歳達か」

そして千歳達が賑やかに帰ってくる。


「ただいま」

「お帰りなさい」


「ツネノリ達は冬にする?じゃあ私達は秋にするよ。メリシアさん、今玄関で女将さんがお風呂の用意出来たからって言っていたからお風呂入ろうよ」

「はい。じゃあ行ってきますね」


そして部屋には俺と父さんだけが取り残される。


「父さん、お疲れ様。なんか老けたね」

「バカヤロウ。千明と千歳とルルだぞ?疲れないわけがない。これで千歳がノレル達まで呼んだらと思うとゾッとする」


「でも満更でもない顔しているよ」

「そうか?そうかもな。こんな日が来るとは夢にも思わなかった」


「千歳のおかげだね。良かったね父さん」

「ああ、そうだな。ツネノリも良かったなメリシアと来られて」


「そうだね。これも千歳のおかげだね」

「感謝だな。

俺たちも風呂に行くか?」


「うん。そう言えばさ、千歳はセカンド中の魔物を倒し続けてお金を稼いだんだよね?どのくらい倒したんだろ?」

「常時三千体はセカンド中に魔物が居るから、それを片っ端から倒したんだろ?」


「俺もやってみようかな…」

「やめとけよ。

プレイヤーの分がなくなる。

多分、東が必死になって調整したはずだぜ?」


「強くなりたいんだよね」

「あー…成る程な。あまり勧められないが命がけの修行がやれる場所を知っているぞ」


「どこ?」

「イーストの奈落だ。

ルルが管理をしている。

奈落にツネノリ専用の部屋を用意してもらってそこでアーティファクト「地獄の門」から出した魔界の魔物を倒すんだ。

魔界はジョマの世界。

遊びなんて無いからな」


それもひとつの手か…

それにしても母さんは仕事していなさそうでやっていたのか。

「父さんありがとう」

「ルルとジョマには相談しておけよ、命がけでもセカンドの魔物の方が強ければセカンドでやった方が効果的だからな」


「うん」

「じゃあ風呂行こうぜ」

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