第264話 今度会ったら感謝しようと思った。

ウチの温泉も自慢ではないが私やお母さん、それにスタッフの皆で清掃もしているので本当にお客様に気持ちよく入って貰えていると自負している。

だが正直ここのお風呂は格が違うと言えば良いのだろうか?

造りから材質まで勝ち目がない。


これでは両親は帰宅してから大掃除をしたり料理に励むはずだ。


「ここもいいお風呂ね。

誤解しないでね。私はメリシアさんのおウチのお風呂も好きよ」

私の横で千明お母様がそう言う。


「それって…気を遣っていただいているんですか?」

「違うわよ。コンセプトの話よ。

タツキアはスタッフやプレイヤーが安心して楽しめる温泉宿が東さん…神様とウチの人のコンセプトなの。

でもエテのお風呂は何もかも違うでしょ?

それはプレイヤーへの非日常をプレゼントする為。

ここは値段もなにも規格外で、それなのに採算なんて度外視しているのよ。

それこそ逆にタツキアの温泉宿がここと張り合えたらエテは全てやり直しにするわ」


「そうなんですか?」

「ええ、秘境が他の街や村に負けたとあっては開発の名折れよ」


そう聞いて少しだけ心が軽くなる。

「千明お母様」

「はい?」


「今の話は父と母にはしないでもいいですか?」

「ええ、努力の腰を折りたくないのね?

でも努力できているうちは良いけど、変な挫折に繋がる時はキチンと説明をしてね」


「はい!」


私の返事に納得したのだろう。ニコニコとした千明お母様が前を向く。

「ところで千歳?何でルルさんと端っこに居るの?」

「うぅ〜、メリシアさんのスタイルが良すぎて並びたくないんだよぉ」


千歳様は胸元を頑張って隠してこちらを見ている。


「…ははは…。私はマリオンさんの経験に合わせて身体が変化しただけで元々はそんなに良くないんですよ?」

「そんなのは関係ない!肝心なのは今だ!」

「そうだよねルルお母さん!」


なんか妙な同盟が出来上がっている。

それを見ながら横の千明様が笑っている。


「ほら千歳。別にまだ14歳なんだから気にする必要ないでしょ?千歳だってこれから成長期を迎えるから、こっちに来なさいよ」


「お母さんはそこそこスタイルいいから余裕かましてるだけじゃないか!

ルルお母さん!私死ぬ!死んだら生き返らせて!

その時にマリオンさんみたいにスタイル良くなる!」

「馬鹿者、何を言うか!?」


「それに千歳、急にスタイル良くなって学校どうするのよ?」


「うっ…」

そう言うと諦めたのだろう。

「見比べないでね」と言いながら私の横に千歳様がくる。


「はい」と答えると嬉しそうにしながら「ルルお母さん!」とお母様を呼ぶ。


「裏切り者め!千歳だけは仲間だと信じておったのに…」

「そうだね、そう言えばゼロガーデンの神殿で最後の戦いの時にお父さんに皆でお風呂って言われた時も嫌がっていたよね」


「うっ…そんなものまで神如き力で見たのか?」

「うん。でも確かにメンバーには恵まれてないよね。

王様の所だとフィルさんは抜群のスタイルだし、ジチさんもスタイル良いよね。

リーンさんは…まあ、普通かな?」


「言ってやるな。リーンも気にしておる」

「でもとても可愛い人だよね」


「マリオンさんはアレだし。

アーイさんも動いているからかスタイル良かったよね」


千歳様が話すたびに心をえぐられるのだろう。

お母様の顔がどんどん暗くなる。


「マリーさんは?最終決戦以降は見てないからわからないんだよね」

「マリーはまあ普通だ」


「ルルお母さん、今思ったんだけどさ、普通ってそのメンバーの中だとかえって貴重じゃないかな?そもそもお父さんはそんなにスタイルとかにうるさい人じゃないし」

「!!?そうか?そうなのか?」


「うん。聞いてみる?」

「何!?」


千歳様はそういうと隣の男湯に向けて声を張る。

「お父さーん!」


「やだ、帰ったらツネジロウから聞け」

だが、間髪入れずに入る断りの言葉。


「えー、ダメ?」

「ダメ」


「くそぅ…つまらない。じゃあツネノリ!」

「言わん!!」


「ちっ、学習したか」


出てから聞いたら男湯の方では前もって千歳様が一悶着起こすと予想して対策をしていたとのことだった。


「学習って何をしたの?」

「え?大したことはしてないよ」


「嘘をつくな!お前がメリシアの所でおじさんとおばさんを巻き込んで何をしたか千明さんに言ってみろ!」

「あ!それを言ったら私のおかげでメリシアさんとの今日があるんだよ!」


「メリシア、千歳は何をしたのだ?」

「それはですね…」と言って私は事の仔細を説明する。


「千歳は無敵だな」

「へへ、でしょ?」


「私はそのおかげで今日があると思うので千歳様には感謝しています」

「メリシアさん!」

嬉しそうな顔で私を見る千歳様。


「でも、やり過ぎよ?」

「はーい」


その頃にはお母様も普通に会話に参加していた。



感覚強化の影響でわかるのはツネノリ様達は千歳様にバレないようにこそこそと温泉を後にしていた。


「おーい!こっちはそろそろ出るよー」

「千歳様、ツネノリ様達は随分前に出られましたよ」


「逃げたな」

「逃げたって…あなた何をするつもりだったの?」


「ツネノリには湯上りのメリシアさんを一番に見させてあげようとしてたの。お父さんにはお母さんとルルお母さんの湯上り姿見せて感動させたかったの」


「そこからスタイルの話に持ち込むのがバレバレなのよ」

「くそっバレたか!」


「バレたかって…、仕方のない奴だ。

ツネノリとアレだけ過ごしてツネツギとは親子であろう?

バレない方がどうかと思うぞ?」


そして用意されていた浴衣を見て少し嬉しくなった。

お母様は薄紫色、千明お母様は黄緑色、千歳様は薄ピンクに近い赤色、私は橙色だった。


「ふふ、ここは浴衣にも力を入れているのよ」

「私、この前と同じ浴衣だ!」


「女将さんがお客さんに合わせて選ぶのよ」

「それ、うちでもやれないですかね?」


「管理が難しいからどうかしらね?帰ったら相談してみるといいわ」

「はい」

今は当たり前になっているが、こんな経験が出来るのもジョマ様がツネノリ様と千歳様をウチに連れてきてくれたからなのだ…

今度会ったら感謝しようと思った。

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