第220話 あれが本当の戦いを生き抜いた力か?

「疲れたぁぁ」

髪の色が黒に戻った千歳が肩で息をする。


「助かった。ありがとう千歳」

「千歳様、助かりました」

「いいよ。ツネノリとメリシアさんが無事でよかったよ」


「なんだ…やれば出来るじゃないか。

なんで勝手に限界なんて決めるかな?」

次元球からは未だに辛辣な声が聞こえてくる。


「王様?」

「なに?」


「参りましたは?」

「何で?」


「私はやり切ったんだから、お見それ致しました。参りましたって言って」


「チトセは子供だなぁ、やれたんだからそれでいいだろ?

それにやれたのは僕の激励のおかげだろ?」


…あれは激励なのか?


「何?王様は謝ったり労ったりすると死ぬの?何かの病気?」

「別に僕は健康そのものさ。チトセこそ細かい事でイライラしすぎじゃないかな?」



「ムカつく!ルルお母さん!金色お父さん!殴って!」

そうすると今度はメリシアの次元球から母さん達の声がする。


「落ち着け千歳、それにキヨロスは今ここに居ないのだ」

「え?神殿に居ないの?何で?」


「そんな事はどうでもいいだろ?

まさかこれで終わりなんて思っていないよね?」


何?あの大爆発だぞ?


俺は慌ててクロウを見る。

クロウは表皮がボロボロで手足は欠損していたが生きていた。

そしてあっという間に再生してしまう。


「底無しか?」

「そうかもね」


「まだやれるか千歳?」

「やるって。ツネノリとメリシアさんは今晩イチャイチャしたいでしょ?

イチャイチャの為にも速く終わらせるんだから、なんとかしなきゃ」


「何!?」

「はい。2人きりになりたいです」

千歳は変な事を言うしメリシアも2人きりになりたいとハッキリ言うし…

緊張感とかはないのか?


「先程の爆発でも生き残った!

流石はチャレンジャークロウ!!

特別枠はキツそうだ!人手不足か!?」

ジョマが楽しげに実況をする。


「人手不足?ジョマ?まさか!!?」

「どうした千歳?」

千歳が突然慌てて言う。



「僕はルールの変更を要求する!!」

突然クロウの背後から声がする。



嘘だろ…


メリシアと同じ形で濃紺の鎧を纏った人間。

それと銀の靴と鎧、金の剣と紫色の盾を持った男が立っていた。



「キヨロス…さん…?」

「マリオンさん?」



「やっぱり!

王様の奴、ジョマとグルになって登場のタイミングを伺っていたんだ!

多分私たちがクロウの攻撃をある程度ピンチになりながら防ぐ辺りまでが狙い…

しかもフル装備で来た。

ジョマが人手不足とか言うから怪しいと思ったんだ」


「なんだなんだ!?新しい乱入者だ!

しかも濃紺の鎧は先程の乱入者と色違いだ!

どう見ても我々の敵だ!


ルール変更とはなんだ!?

聞いてみましょう!!」

そう言ってジョマが2人に近づいていく。


「はぁい、乱入者さん。こんにちは。

運営のジョマです。

何の用事でここに来たのかしら?」


「僕がその黒いのと戦う!

あの弱い3人はいらない!」

キヨロスさんは俺達を非難している。

千歳が後ろで忌々しそうに睨みつけている。


「おっと!まさかの特別枠を否定だ!

何者なんだこの男は!!?


だがやると言うならやってみろ!

チャレンジャークロウ!新しい敵だ!」


ジョマの掛け声でクロウがキヨロスさんに向かっていく。


「何だか知らないが死ねよ!乱入者!!」

大声と共に振りかぶるクロウ。


「ふぅ…、ムラサキさん【アーティファクト】」


クロウとキヨロスさん達の間に紫色の光の壁が作られ、クロウはそこに殴りかかる。

ガツっという音のまま拳を振り抜けないクロウ。


「あの拳を防ぐのか…」

俺は嘘じゃないのかと疑ってしまった。


「ねぇ、メリシアさん?」

「はい?」

千歳がメリシアに話しかける。


「トレーニングで黒い悪魔を倒したんだよね?王様もやったの?」

「はい」


「王様は何分くらいかかった?」

「試しで攻撃を受けたりしていたので少し時間はかかりましたが攻撃に転じてからは1分もかかってなかったです。

それどころか、その後で神様に12体出してもらってそれを同時に秒殺していました…」


「秒殺だと!!?」

「非常識だ…」


俺と千歳は本気で驚いてしまう。

そしてメリシアの言っている事は誇張でもなんでもなかった。


「攻撃力はわかった。まあこんなもんか。

次は防御力だ。耐えて見せろよ。【アーティファクト】」


そう言って懲りずに振りかぶったクロウの右腕に向けて光の剣を飛ばすと一瞬のうちに等間隔に輪切りにしていく。

クロウは突然のことに驚き苦しむ。


「何だこんなもんか…、回復力だけは物凄いな、もう再生している」

キヨロスさんは面白みもないと言う顔でクロウを見ている。


「何だあの戦闘力は…あれがゼロガーデンで本当の戦いを生き抜いた力か?」

俺は思わず驚いて思ったことが口から出てしまっていた。


「マリオンもやってみなよ」

その声で濃紺の影が動く。


「ほら、僕じゃない。次はあっちを狙うんだ」

そう言われたクロウはマリオンさんを狙う。


大きく振り被った拳、それをヒラリとかわすと、拳に乗って腕の上を颯爽と駆けていく濃紺の影。

濃紺の影は走りながら真っ赤な剣を出すと腕をずたずたに斬り進めていく。


肩まで上った後は叩き落とそうとする動きを華麗に回避しながら顔面をこれでもかと斬り付ける。


そして首に大きく刃を入れて、円の動きで首の一部を切り抜くと空いた穴に向けて即座に左腕を差し入れる。


「まさか…」

想像の通りアーティファクト砲だった。

超至近距離での一撃が首に炸裂する。


黒い血煙が巻き上がり、煙が晴れるとそこには首が半分以上無くなっていて頭を支えきれないクロウが居た。


「なんだよあれ…圧倒的じゃないか…」


だが、それでもあっという間に回復をしてくるクロウ。

マリオンさんは駆け下りてキヨロスさんの横に行って何かを話している。


そしてキヨロスさんはジョマに向かってこう言った。

「提案だ!こいつを増やしてくれ。僕達は1体ずつと戦いたい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る