伊加利 千歳の章⑪全力で戦っても終わらない戦い。

第181話 絶対に手を抜かせない。全力で勝ってやる。

多分、私の想像通りなら明日の戦いに死なないプレイヤーは無くなるだろう。

だが、簡単に倒せるプレイヤーが出続ける訳はない。

とてつもなく大変な戦いになる。


「ん~、キツいなぁ…」と言って温泉の中で伸びをする。

折角の温泉だが考えることは戦いの事ばかりだ。

ツネノリのように話したい人でも居てその人と話せればまた違うのかも知れないがこの状況で私の話したい人は…

お父さん、お母さん、金色お父さん、ルルお母さん、ノレルお母さん、ルノレお母さん、ノレノレお母さん。

そのくらいだし、金色お父さんにルルお母さんとノレルお母さんとはさっき話せた。

たまに時間の感覚がおかしくなるから意識するようにしているが外は夜で私が仮に神如き力を使ってお父さんやお母さんに連絡をしたら心配もされるし勝負中なのでジョマも何らかのペナルティを課してくるかも知れない。


ジョマか…

これが別の神様との戦いならジョマの意見を聞いてみたくてジョマと話をしたかもしれない。



「東さん」

「なんだい?」

東さんは私が温泉に入っているので声だけで話をしてくれる。


「今日のプレイヤーは何人だったのかな?」

「夜だから多かったよ。1万3千人だった」


「そんなに?」

「ああ、マキアで5000人を封じ込める事が出来たのと、千歳達が僕やルル達に連絡をしなかったからジョマもプレイヤーに手を貸さなかった事で捜索が4方向に分かれた事が良かったね」


そんなに居たのか…1人で約6000人の死なないプレイヤーと戦うのはいくら神如き力や勇者の力があっても無理だ。




「助かったー…」

「それで、どうするんだい?」


「内緒、多分ここで必要以上にやり取りをするとジョマがプレイヤー側に入れ知恵しちゃうから」

「じゃあ1つだけ聞いていいかな?」


「なに?」

「完全解決は出来そうかい?」


「うん、少なくとも明日は切り抜けられると思っているよ」

「明後日と明々後日は?」


「それは明日をクリアしないとわからないかな…」

「了解だよ千歳。

ただね。僕はツネノリや君を失いたくない。

いざとなったら…」


「ありがとう東さん。

でもそれはダメ。

東さんは必要以上に手を出さない。

私達は生き残る。

そこまで含めて完全解決だから」


「だが千歳…仮に僕が彼女の望む形でサードを差し出して君が彼女は何の神かを伝えれば?」


「命は助かるけどジョマを救えないよ」

「千歳…」


「大丈夫!頑張るしジョマも不可能な事はしないよ」


「わかった。健闘を祈るのよ」

「ありがとう」


「所で、この状況をツネツギには言うかい?」

「なんで?」


「いや、緊急事態にはなにがなんでも乗り込むから連絡しろと言われていてね」

「そうかー、お父さんねぇ…、うーん。

乗り込んできても皆に迷惑かかるからいいや。

それどころか朝までぐっすり眠らせてほしいな。

東さんも、もしもお父さんに怒られても私に言われたと言ってね」


「わかったよ。

ありがとう千歳」


「こっちこそありがとう」


そう伝えると東さんの気配が消える。

「瞬きの靴」の基礎理論は学んだ。

恐らく次元を越えてモノを渡すよりは疲れないだろう。


そして試す機会はないのでぶっつけ本番になるのが面白くないが多分成功するだろう。


神如き力で次元を飛ばす時は知らない場所でも目的になる点を掴めていればうまく行った。


王様の「瞬きの靴」は見てきた場所、見えている場所への瞬間移動だ。


どちらが上手く行くかだな。

これまでに色んな土地に行ったので何とかなるだろうが、土壇場でアレコレ悩むくらいなら今決めるしかない。


「イメージ、おじさんとおばさんの魂…」

見えた…かな、人間は微弱で難しい。


「イメージ、この宿屋…」

見えるが人の身ではイメージが弱い。


神如き力を少し出す。

髪は茶色になる。

おじさん達の魂はさっきより見えるようになった。

それでも急いでいる時、緊急時にすぐ見えるかわからない。


今度は宿屋を見る。

これは何とか見えるが、下手をすると違うポイントに飛ぶかもしれない。

だが飛ばないよりはマシだ。


私は神如き力ではなく「瞬きの靴」を再現する事に決めてお風呂を出る事にした。



お風呂を出て部屋に戻るとツネノリが嬉しそうにメリシアさんとの時間を楽しんでいたので「うわ、やっぱりまだ話してた!」と言って「ツネノリ、作戦会議するからその前にお風呂。次元球はおじさんとおばさんに渡す。メリシアさん!ツネノリお風呂に入るから次元球はおじさんとおばさんに渡すね!」と仕切って終わらせた。


おじさん達はメリシアさんとの会話を楽しんでくれただろうか?

暫くするとツネノリが帰ってくる。


「遅かったね」

「ああ、次元球を渡してあるから少し遅いくらいの方が喜ばれるかと思ってな」


「…別に帰ってきて部屋で待ってあげていれば良かったんじゃないの?ツネノリ真っ赤だよ」

「…そう言えばそうだな。のぼせてしまった」


やはり格好いいのだが、こう言う所は抜けている。


おばさんが暫くすると次元球を持って「ご飯にしましょう」と呼びに来てくれた。

ご飯は宿のご飯と家のご飯の真ん中と言った感じで肩の凝らない雰囲気と言えばいいのだろうか?凄く美味しくて丁寧な家庭料理がひとりずつの量に盛りつけられていた。


「俺はこんな事しか出来ねぇがよ。食べて元気を出してくれ!!」

「おじさん、ありがとう」


そうして私達は家族のように食卓を囲んだ。

食事中の話は、おじさん達が戦いの事を避けてくれてメリシアさんの話。初めて接客をしたのは15歳の時で最初のお客さんはお父さんだった。


「あの時は神様から宿屋をやって欲しいと言われてね」

「その準備で色々大変でしたね」


おばさんも一緒になって懐かしむ。


「それで今になったらツネツギ様のお子さん達が来てくれてな」


…セカンドの中は世界を作る事が決まった時から発表までの間は時間の流れを速くして急に人を作るのではなく本当に人を生み出しているのでタツキアにも百年からの歴史がある。

たまに現実の情報が邪魔をしてきて「あれ?まだセカンドって発表されてから…あれ?」となる。


「じゃあ、昔は時間の流れが無茶苦茶だったんだ」

「ああ、神様からそう通達を受けたよ。連絡がくるまでは俺の父親たちもツネツギ様と面識があったしな」


そう聞くとお父さんの仕事も大変だ。

親しくなっても下手をしたら一か月とかでその人が老人になって亡くなってしまうのかもしれない。


「明日も昼から夕方までだったよな?」

「はい」


「夜は神様にお任せするが俺達は構わないから気兼ねなく来いよな」

「おじさん、ありがとう」


「いいって事よ。朝飯を普通に食べて昼を早めに食べるか、朝を遅くして昼を抜くのはどうしたい?」

「ツネノリは?」


「俺は、朝は普通で昼は軽いモノで済ませたいです」

「了解だ。千歳様は?」


「私もツネノリと同じでお願いします。でもおじさん」

「なんだい?」


「あんまり美味しすぎて沢山食べたくなるのは困っちゃうよ」

「はははは、それは難しいな。俺は仕事には手を抜きたくないんだよ」


おじさんはそう言ってまた笑う。

ジョマも同じ職人気質なのだ。

絶対に手を抜かせない。全力で勝ってやる。



後片付けを手伝いたかったのだが、おじさんとおばさんに断られてしまった。


渋々と部屋に戻ると布団が敷いてある。

…おばさんの神業を見た気がした。

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