第179話 俺は何も変わっていないよ。まだ父さんと母さん達が居ないと駄目な子供だよ。

俺達はメリシアの家に居る。


6時になってジョマから「お疲れ様。2人とも凄いわね。てっきり私を呼ぶか東に頼るかと思ったけど我慢していたのには驚いたわ。アハハハ」と言われた。

「ここからは休憩よ。東、見ているでしょ?千歳様とお兄様を安全に休めるポイントに送ってあげなさい!」


そう言った後、「千歳様、今日はお兄様の方が私の考えに近かったわ。今日の結果は私の想定通り。沢山の死なないプレイヤーに6時間を戦うなんて最終日ならまだしも初日にやるなんて無理だわ。今日はこれが正解。気をよくしたプレイヤーが盛り上がってくれた。

でももし千歳様が全力を使いたいと言うのなら…明日からは少し趣向を変えるわ。頑張ってね」と言って消えた。


「千歳の返事は無視か…」

「…」


「千歳?」

「…大丈夫、ジョマの考えもわかる。今の発言で明日の考えも読めた。私は私で準備をする」


「千歳…」


千歳は天を仰いで「ジョマ!明日は負けない!!また明日!!」と叫んだ。

ジョマからの返事はなかったが、それがかえって千歳とジョマの絆のようなものをイメージさせた。


「2人とも…、大丈夫かい?」

「東さん」

「見守ってくれていてありがとう」


「ジョマめ、やりすぎだ」

「うん、でも乗り越えないと」


「俺達はこの後どうすればいいですか?」

「うん、あまり街中を歩くのは勧められない。プレイヤーがまだ街中に居るからね。下手に会ってトラブルになっても良くないだろう」

「…野宿ですか?俺はともかく千歳はしっかりと休ませてあげたいです」

「大丈夫、泊まる所は僕が確保をしたよ。安心をしてくれ」


そう言って景色が流れる。

目の前には見慣れた玄関があって、心配そうなおじさんとおばさん、メリシアの両親が俺達を迎え入れてくれた。


「おじさん…」

「おばさんも…」


「大変だったな2人とも」

「もう今日は安心して、ここでゆっくり疲れを癒して」


「ありがとう…」

小さな声でそう言った千歳はショックもあったからだろう。ポロポロと泣き出してしまった。


「千歳…」

「いいのよ、泣きなさい」

そう言っておばさんが千歳を抱きしめる。


「辛かったわね。今日の戦いは実況が入るたびに見ていたわ。スタッフ皆が心配しているし応援している。千歳様とツネノリ君は2人ぼっちじゃない。

大丈夫、2人の後ろには私達が居るわ」


「ごめんね、おばさん。ありがとう」

そう言って暫くおばさんの胸で千歳が泣く。



「外にはプレイヤーが居るから外出は出来ないが、この宿は修理中で休みだからな。プレイヤーが来る事は無い。安心してゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせてもらいます」


「いやいや、神様にも言ったけどさ、頼って貰えて嬉しいよ。さあ上がってくれ。風呂の用意も出来ている。飯は特別だ、俺が作るからしっかり食べてくれよな。」


そんな事があって俺達は2人で十分な大きさの部屋に通して貰う。

千歳は少し持ち直したのだろう。


「泣いちゃったよ。恥ずかしいなー」と言っている。

「いや、千歳はまだ14歳だ。その中ではよくやっている。自信を持て」


「ありがとうツネノリ」


「さあ2人とも、お風呂にする?ご飯にする?」

そう言っておばさんが部屋に入ってくる。


「先に作戦会議してもいいかな?」

「あら、そう言う大事な事は早い方が良いわね。じゃあ洋服を脱ぎなさい。おばさんが洗ってあげるから。浴衣に着替えて」


そう言っておばさんに下着まで取られた俺達は申し訳ないと言いつつ感謝をして浴衣に着替える。


「作戦会議、どうするんだ千歳?」

「あ、ごめん。ツネノリとじゃないんだ。ツネノリは話の後でだから待っていて」


そう言って千歳は髪を赤くすると次元球に向かって「ルルお母さん、夜中にごめん。王様と一緒に出て」と言う。



「無事か千歳!?」

「ルルお母さん」


「待っておれ、疲れるだろう?こちらから話しかける。キヨロス、負担を無効化してくれ」

「うん、やるよ」


そう聞こえた後、千歳の髪は黒に戻る。


「千歳、ツネノリ、神様から聞かせて貰ったし見せて貰った。大変だったな」

「うん、ちょっと参っちゃったよ」


「すまんな、近くに居れば抱きしめてやったものを…」

「いいよ。終わったら沢山して貰うから」


「…千歳…、ちょっと待っておれ、どうしても我慢が出来ないのがおってな」

そう言うと一瞬静かになる。


「千歳?」

「あ、ノレルお母さん」


「疲れているのにごめんなさい。どうしても話がしたかったの。大丈夫?」

「うん、心配かけちゃってごめんね」


「私達の心配はいらないわ。今日はツネノリと千歳が一番大変だったのよ。本当なら今すぐ次元移動をして抱きしめたいわ」

「大丈夫、終わったら一晩中抱きしめて貰いながら寝るから。ノレルお母さんは一緒に寝てくれる?」


「勿論よ、ルルが怒ってもこれだけは譲らないわ」

「ありがとう。ノレルお母さんは優しいね」


「千歳、少し待っていて」

「何?」


「キヨロス、お願いを聞いてほしいの」

「いいよルル」


「ノレルって何回も教えているんだけど、あなたはずっとルルって呼ぶのね」

そう言った後、次元球から手が出てくる。

ノレル母さんの手だろう。


「千歳、ツネノリ」

そう呼ばれて俺達は次元球から出た手に近寄る。


ノレル母さんの手は最初に千歳の頬に触れる。

「攻撃の力ばかりの自分が憎い。ルノレだったら沢山回復ができるのに」

「そんな事ないよ。ありがとうノレルお母さん。触って貰った所から元気が出るよ」


「もう…、今辛いのは千歳でしょ?無理に私を喜ばせなくていいのよ?」

「ううん、私の気持ちだよ。それがノレルお母さんと一緒なんだよ」


そう言って目を瞑る千歳。

暫くして頬から手が離れて俺に触れる。


「ツネノリ、いつも見ているわ。元気でどんどん強くなっていて、嬉しいけど寂しいわ」

「ノレル母さん、俺は何も変わっていないよ。まだ父さんと母さん達が居ないと駄目な子供だよ」

そう言うと次元球の向こうから嬉しそうな息遣いが聞こえてくる。


「ツネノリはいつも優しい。前から一度言いたかったことがあるの。今だから言うわね」

「何?」


「周りの皆だけじゃなくて自分自身にも優しくしてね」

「……うん」


「2人ともありがとう。ルルに戻すわ」

そう言ってノレル母さんから母さんに戻る。


「ノレルだけではなくルノレもノレノレも勿論私も、今も神様に談判をしているツネジロウもな」

「父さん?」


「「死んでもいいから俺をセカンドに飛ばせ!」と神様を呼びつけて怒鳴っておる。マリオンやジチ達が必死に止めている」

「…ツネジロウのままじゃ次元移動に身体が耐えられないって知っているのに?」


「それだけお前達が大切なんだ。見ている間もずっと「俺が行ければ、盾になってでも守りたい」とずっと言っておった」

「ルルお母さん」


「なんだ?」

「お父さんの傍に次元球を持って行って」


「ああ、2人から黙らせてくれるか?」

「うん、いいよねツネノリ?」

「ああ。母さん、そうして」


そうすると次元球の向こうから東さんに怒鳴りつける父さん…ツネジロウの声が聞こえてくる。


「お父さん!!」

「千歳か!?」

「父さん!!」

「ツネノリ!!」


「もう、次元移動をしたらお父さんが死んじゃうでしょ?」

「そうだよ。命を大事にしてよ」


「だが、俺はどうなってもいいんだ。お前達を守りたいんだ!!」

「お父さんが来ても良くて瀕死だよ」


「それでも構わない。いいんだ敵の一撃でも俺の身で受け止められてお前達が助かるなら!!」

父さんが必死に訴えてくれる。


「父さん、辛いけど我慢して持っていてよ」

「そうそう、金色お父さんより使えないかもしれないけどお父さんが明後日には来るでしょ?それまでちゃんとご飯を食べて良く寝て備えておいてよ」


「2人とも…」

「大丈夫、お父さんの方をこき使って生き残るからさ!」


「…ああ、そうだな」

ようやく父さんの気持ちが落ち着いたのだろう。口調が柔らかくなる。


「金色お父さん?」

「どうした?」


「昨日のお寿司美味しかったね」

「ああ、美味しかったな」


「また連れて行ってね」

「ああ」


「約束したんだから死ねないね」

「あ、そうか。父さん、約束したんだから死ぬなんて言わないでよね」


「お前達…。わかった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る