ツネノリの章⑩決闘。

第155話 やはり俺は子供でまだまだわからないものが世の中にはあるものだと思った。

朝、おじさんとおばさんと3人でスタッフカウンターに来ている。

俺は玄関まででよかったのだが、おじさん達は「最後まで見送らせろよ」と言ってついて来てくれた。


「服が何とか乾いて良かったわ」

おばさんがそう言って俺の上着を見ている。

乾かなかったら風と火を使って乾燥させる気だったのだがそれを言うと「野暮ったい」と言われそうな気がした。


「昨日も言ったが終わったら飯を食いにくる約束があるんだから、つまらない怪我なんかするなよな?」

「はい」


「メリシアが治って帰ってきて今度はツネノリ君なんて事にならないでよね」

「はい」


俺は気恥ずかしさもあるが見送ってもらえて悪い気はしなかった。


「じゃあ、俺行きます」

そう言ってスタッフカウンターに「センターシティまで」と言う。


「センターシティは広いので何処のスタッフカウンターにしますか?」

「何?…コロセウムに一番近い所にしてくれ」


「はい、気をつけて行ってきてください」

そして俺はセンターシティに到着する。


1人で見る朝のセンターシティはいつもと違った感じで俺が小さくなった気がする。


時計を見ると9時にさしかかる。

いつもの千歳ならそろそろ来るのだが父さんと母さんと一緒に居るのならもう少し遅くなるかも知れない。

俺は何となく散策してまわる。


暫くすると東さんの声で「くるよ」と聞こえたので立ち止まって待つと目の前に千歳が現れる。


「おはよう千歳。2日ぶりだな」

「おはようツネノリ。寂しかった?」


「寂しい?そうだな、静かだったな」

「酷くない?」


そう言って2人で笑う。

千歳の顔は晴々としていてこの2日間が充実していた事が見て取れる。


「今日の敵、聞いたか?」

「うん、勝負を申し込むプレイヤーねぇ」


「たいした自信だ、気を引き締めないとな」

「うん、あのジョマが申し出を受けるんだから相当強いんだろうね」


まあ俺と千歳なら何とかなるだろう。

その後はハンバーガー屋を見つけて軽く食べる。


「「悪魔のタマゴ」って効果は2時間だっけ?」

「ああ、だから早ければ2時には終わるからそうしたらまた何かを食べよう」


「賛成ー」

そうしていると時間は11時を回っていて、千歳が「少し早いけどコロセウムに行こう」と言い出したのでコロセウムに行く。


コロセウムには既にジョマが居て俺たちを見てニコニコと微笑んで「昨日はごめんなさいね。今日は活躍を期待しているわ」と言ってきた。


「ジョマ、今日の相手って強いの?」

「ええ、昨日は凄かったわ。生身でも1人で悪魔を倒せるし、悪魔の集団に襲われたら自身も悪魔化して襲いかかってきた全員を圧倒していたわよ。

これで暴走が始まったらどうなるかしらね?」


「暴走?」

「あら、千歳様は知らなかったわね。

残りが五体になると能力2倍の暴走になるようにしたのよ。

昨日のプレイヤーは残り五体になる前に時間切れで悪魔化を解除していたからわからないけど、きっも相当なものよ」


そんなに強いのか。


「それにしても他のプレイヤーはよく我慢したな」

「ふふふ、そこは私の手腕ですよ」

ジョマがニコニコとしている。


「さあ、時間になったら呼びますから控え室で待っていてくださいね。

くれぐれも死なないように気をつけてください」

つまり殺す気でかかってくると言うことか。



控室は千歳に言わせると初日を思い出すらしい。


「あー、そうだ。ツネノリ、初日はありがとうね」

「何がだ?」


「ほら、ホルタウロスだよ。私は右も左もわからないで足を引っ張ったのに助けてくれたでしょ?」

「ああ、あれか。別に千歳は家族なんだから守るさ」


「嬉しいなぁ、ありがとう」

千歳は照れ笑いをしながら喜ぶ。


暫くすると肌を露出したスタッフが入ってきて俺は酷く驚く。


「…千歳?」

「なに?」

「なぜ彼女はあんなに肌を出しているんだ?」


「水着だよ。キャンペーンガールじゃないかな?」

「なんだそれは?」


「私にも良くわかんない。でもアレじゃない?女の人がスタッフだと厳ついイメージにならないとか…」


「そうか、それで水着とは?」

「え?そこから?ゼロガーデンって水で遊ぶとかってする?」


「川遊びのことか?するぞ」

「その時に着る服の事。濡れても動きやすいし楽チンなんだよ」


「そうか、じゃあ彼女は…」

「入水しないから。水着だとスタイルの良さとか肌の綺麗さとさ見えるでしょ?そう言う仕事なの」


「なるほど」

千歳が面倒くさそうにしながらも教えてくれた。

やはり俺は子供でまだまだわからないものが世の中にはあるものだと思った。


コロセウムに出ると初日のようにスタッフやプレイヤーが観客として俺たちを見ている。


「皆さん!運営のジョマです!

今日はスペシャルマッチを急遽執り行う事にしました!

昨日はプレイヤーさんからのご意見が多かったので特別枠の2人にはお休みをしてもらいました。

そして今度はプレイヤーの中から「特別枠のプレイヤーと勝負がしたい」と言う声をいただきました!

なので今日はスペシャルマッチの1日にしました!!」


「ツネノリ、あれ」

「ああ」


千歳の指さした先には黒衣のプレイヤーが立っていた。


「うわぁ、真っ黒。カラスみたい」

「カラス?千歳の世界ではカラスは黒いのか?俺の世界だと虹色だぞ?」


「あー、読んだよそれ。お父さんが凄く嫌がってた奴。虹色は気持ち悪いね」

「肉も虹色だからな」


「うわ、カラスは食べないけど虹色のお肉はそれだけで食べたくない」


「その勇敢なプレイヤーはこの方です!!」

ジョマの声で黒衣のプレイヤーにスポットライトが当たる。


「彼の名前はクロウ!さあ自ら名乗り出たプレイヤーはどのような活躍を見せてくれるのか!?


バトルスタートです!」



俺の横にいた水着の女性が「気をつけて」と見送ってくれた。

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