第154話 あの日、メリシアと見た日差しも綺麗でした。
掃除の後におじさんとおばさんが「散歩に行こう」と誘ってくれる。
3人で歩くタツキアは不思議な感じがした。
おじさんとおばさんは有名なのだろう。道行く人たちと挨拶をしているからか中々先に進まない。
だが今日は休みなのだ。このゆっくりさを受け入れるのも大事だと思った。
雑貨屋の前を通るとさっきのお爺さんが手を振ってくれる。
そのままメリシアと行った神社まで歩いておじさんとおばさんは東さん…、そう言うとメリシアに注意された事を思い出す。
神様に俺の無事を願ってくれた。
「ここ、メリシアと来ました。御守りを買ってくれて俺はアーティファクトの指輪を代わりに渡しました」
「あら、そうだったのね」
「あいつそれは言わなかったな」
「今おじさん達がしたみたいに神頼みをした時に東さんの名前を出したら注意されました」
「そりゃあ風情がなぁ」
「えぇ」
「まったく同じことを言われました」
俺は懐かしんで笑ってしまう。
おじさんとおばさんも笑う。
風情が無いか…そう言われるとそんな気もする。
俺はポケットからメリシアがくれたお守りを出して眺める。
「メリシアは千歳にも御守りをくれて、その時に俺にはこれをくれました」
そう言って首に下げた赤メノウを見せる。
「あ、この赤メノウ…」
「何だ、探しても無いわけだ。ツネノリ君が持っていたのか」
おじさん達はメリシアの遺体が持っていなかったからと探していたらしい。
「すみませんでした」
「いや、メリシアの想いも連れて行ってやってくれ」
「ええ、きっと赤メノウが守ってくれますよ」
「はい!」
もう時間は夕方になっていて、あの日みた日差しが射しこんでいる。
「あの日、メリシアと見た日差しも綺麗でした。俺、つい綺麗だって声にしていて…」
「またきてね」
「客としてでも、娘の友人としてでも構わない。好きな時に来てくれ」
「ありがとうございます」
「じゃあ戻るか、風呂は家になくて温泉しかないんだ」
「私がさっき洗っておきましたからすぐに入れますよ」
そんな話をしながら家に帰ると一番風呂を勧められた。
申し訳なくて断ったのだが、「ついでにその服も洗濯してやるからさっさと脱げ」とおじさんに言われて風呂に入る。
出ると宿の浴衣が準備されていてそれに着替えた。
俺が夕涼みをしている間におじさんとおばさんも風呂を済ませてきて落ち着いたら夕飯にする話になった。
「ツネノリ君の所には魚料理は無いのかい?」
「ウチは海からは離れていましたから滅多に食べないですし、もう切り身になっていました」
「それでかな?まあ、味付けなんかは魚自体を味見させると感覚で作るから悪くは無いんだがな…」
おじさんは俺が教わって作った煮つけを食べながら不思議そうに話す。
「本当、野菜料理とお肉料理はお店で出せるレベルなのに不思議ね」
おばさんはトマトと玉ねぎ、それとアスパラガスの炒め物を口にしながら相槌を打つ。
当の俺は自分でもわからないでとにかく困惑をしてしまっていた。
「明日は何処で何時からなんだい?」
「まだ決まって居なくて」
「じゃあ、明日ももしかしたらお休みって言われるかもしれないのかい?」
「はい」
「勇者様の子供と言うのも大変なものね」
そんな話をしているとジョマの声が聞こえる。
「ジョマか?」
「そうよお兄様」
「どうした?」
「今丁度明日の話をしていたでしょ?私の所にも明日の話が丁度来たのよ。それで千歳様とお兄様に連絡をね」
明日の連絡か…何が起きると言うのだろう?
「明日はセンターシティのコロセウムに11時半までに集合です」
「センターシティ?コロセウムで何をするんだ?」
「ふふふ、凄いわよ。今日はね一人のプレイヤーが居てね魔物化したの。それで制限時間いっぱいまで戦って他のプレイヤーを全部やっつけちゃったのよ。勿論魔物化した他のプレイヤーも全部ね」
「何?」
「それでさっきその子から運営に連絡があったの。
「明日は特別枠の2人と心いくまで戦いたいから場所を用意して欲しい」ってね。
勿論OKしましたわ。
だから明日はツネノリ様と千歳様、それとそのプレイヤーだけで心いくまで戦って貰います」
…とんでもない相手が出てきたものだ。
俺は「了解した」と返事をする。
ジョマの気配は消えていた。
「今のは女の神様かい?」
「はい、明日の戦いの事ですね。朝ここを出たらセンターシティに行きます」
「また危険な相手だけど気を付けてね」
「はい、ありがとうございます」
食事を終えた俺は早々と部屋に通される。
「メリシアの部屋でとも思ったけど緊張しちゃうわよね?」
「は…はい」
「ここは一番安い部屋だけど一人で寝るだけなら十分だろ?」
「はい」
「本当は酒でも飲みながらメリシアの話とか君の事をもっと聞いたりしたかったんだがな、明日も戦いだからな。無理せずに早寝をしてくれ」
「ありがとうございます」
「ふふふ、悪くなかったよ。ツネノリ君の居た一日も。全部終わったら気兼ねなく遊びに来てくれ。今度はツネノリ君とメリシアが2人で夕飯を作って俺達にご馳走してくれ」
メリシアと食事の用意…、そう聞いた俺は色々考えて嬉しい気持ちになる。
「はい、是非!…あ、千歳が来たがるかも」
「ははは、千歳様も歓迎だ、一緒に是非とも来てくれ!!」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
そして俺はあっという間に眠ってしまった。
きっと疲れが出たんだろう。
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