第153話 メリシアの働く姿が綺麗だったからもっと見たくて…。
メリシアと話した後、俺は手伝いを申し出た。
「宿泊客じゃないんで外の片付けとかやらせてください」
「でも勇者様の息子さんに手伝わせるのは申し訳ないわ」
「メリシアだってツネノリ君の世界で良くしてもらえているならツネノリ君もウチでのんびり過ごしていいんだぜ?」
だが、この家はメリシアの不在で手が足りない筈だから俺はやらせてくださいと頼み込んで外の瓦礫除去をやらせてもらう。
「ゴミってどうするんですか?」
「ゴミの袋に集めておけば清掃のスタッフが明け方に持っていくよ」
そう言っておじさんが硬い布袋を渡してくれる。
「入らない分は切り刻んで良いんですよね?」
「ああ、ノコギリがいるか…」
「いえ、自分で出せます」
そう言って俺は光の剣を見せる。
「便利だな」
「はい」
そして俺は大きな瓦礫を二刀で細切れにする。
しばらくすると後ろから「おや、誰だい?」と声がかかったので振り返るとお爺さんとお婆さんが散歩をしていて俺が気になったそうだった。
「あれま!勇者様の息子さんかい?」
スタッフの人達は俺の事も知っているので、その俺がここに居るのが信じられないと言った感じで驚かれる。
「メリシアちゃんの彼氏が勇者様の息子さんってのは本当だったんだね!」
彼氏!?
「こら、婆さんは若い子を冷やかすんじゃねえよ」
黙っていたお爺さんがお婆さんに注意をしてくれるがお婆さんは止まらない。
「アンタは黙っていな!
私はあの大きな魔物が吐き出した火の玉をこの子がメリシアちゃんの為に必死に切り崩すところも、その後にメリシアちゃんに抱きしめてもらいながら風と水を起こして火を消したところも見たんだよ!
タツキアの皆も言っているよ。
この子はメリシアちゃんにベタ惚れだってね!」
俺は何も言えずに真っ赤になる。
言われてみるとタツキアのスタッフ達が遠目に俺をチラチラと見ている気がする。
「だからって冷やかして良いもんじゃねぇだろ?
メリシアちゃんだって大怪我したって言うじゃねえか?
心配な時なんだから外野は黙って見守ってやるんだよ。
ほら、行くぞ。
邪魔して悪かったな」
そう言ってお爺さんがお婆さんの腕を引いて連れて行く。
俺は気恥ずかしさから一心不乱に剣を振って瓦礫を粉々に砕く。
「なんかすげぇ音がするけどどうした?…うおっ!?何で真っ赤になってこんなに粉々に砕いてんだよ?」
おじさんが出てきて慌てている。
近くを歩いていたスタッフの人がおじさんの所に歩いてきて「雑貨屋の老夫婦にメリシアちゃんとの事を聞かれていたのよ」と教えていた。
「まったくあの婆さんも困ったもんだな」
おじさんはやれやれと言って「昼飯がもう直ぐできるからそれを片付けたらおしまいだから中に入んな」と言ってくれた。
余計な瓦礫は全部無くなって入り口はスッキリとした。
お昼ご飯はキノコと卵の炒め物と具沢山の味噌汁にご飯だった。
「お米は沢山炊いたから遠慮しないでね?」
俺はありがとうございますと言って着席する。
一口食べてみておいしかったがおじさんの味付けとはまた違っていてこれはおばさんの料理だと気がつく。
「お、気がついたか?
俺の食事は宿泊客の方に振る舞うもので家じゃ作らないんだ」
おじさんが嬉しそうに話す。
「私のご飯じゃ嫌かしら?」
「いえ、とても美味しいです」
俺は思ったままを伝える。
「なんか普段と味付けが違うよな、どうした?」
おじさんは普段の味付けでない事を気にしておばさんに聞く。
「ツネノリ君の好みに合わせたのよ」
「え?」
「ウチに泊まってくれた時にメリシアが教えてくれたのよ。
ツネノリ君は塩味と出汁の味が好きでお米をとても美味しそうに食べるって」
確かにそうかも知れない。
「凄い、あの食事でそれを見てくれていたなんて…」
俺は思ったままに感動をする。
「相手がツネノリ君だからよ。普段だったらそこまでお客様の事をあの子は見ていないわ」
「そうなんですか?」
「そういえば俺にもアレコレ注文を出してきていたな」
「ね?あの子はツネノリ君に会ってからずっとツネノリ君の事ばかりなのよ」
俺は嬉しかったが照れてしまう。
そのまま、ご飯を3杯お代わりして味噌汁も1杯お代わりをしたらお腹がいっぱいになる。
「あら?もういいの?ご飯沢山炊いたのよ?」
「ああ、初日みたいに遠慮しないで食べていいんだぜ?」
初めてメリシアに会った日の事を思い返す。
あの日はとにかくメリシアが嬉しそうにお代わりをよそってくれる姿が嬉しかったこと、後は断ると残念そうな顔を見たくなくて無理をしてしまったのだ。
おじさんとおばさんはそれを察したのか
「もしかしてあの日は無理をしていたのかい?」
「メリシアが無理強いを?」
と聞いてくれた。
「あ、いえ…。俺もメリシアの働く姿が綺麗だったからもっと見たくて…、後はメリシアがお代わりを聞いてくれた時に断ると残念そうな顔をするから見たくなかったし、やっぱり欲しいと言うと嬉しそうにしてくれる顔も見たくて…」
「あの馬鹿…、お客様に無理をさせるんじゃねぇよ」
「まったく…、沢山食べてくれて嬉しいって言っていたけど沢山食べて貰っていたのね…」
おじさんとおばさんは俺に謝ってくれたが、俺もこの件でメリシアを叱らないで欲しいと伝える。
「まあ、ツネノリ君がそう言うならなぁ」
「はい。私達は怒りませんよ」
そのまま食事を終えた俺におじさんが「なぁ、少しだけ付き合わないか?」と声をかけてくれて俺を厨房に連れて行ってくれる。
「どうしたの急に?」
「いやな、なんかツネノリ君の味覚とかセンスには料理の才能を感じるから少しだけ教えてみたくなってな」
おばさんは「それじゃあ何をしにウチに来たんだかわからない」と言ってくれたが料理には少し興味があったので喜んで指南してもらう事にする。
「とりあえずさっき食べた卵とキノコの炒め物を作ってみなよ。初めてなんだから思い付きで構わないよ。
俺はその後から教えるからさ」
と言われたので何となくで作ってみる。
キノコを切って卵を割ってかき混ぜる。
「おっ?」
おじさんの声は好感触に感じられて俺の自信に繋がっていく。
「おじさん、調味料を味見してみてもいいですか?」
「ああ、小皿に入れて舐めてみな」
塩と酒かな?
後は薄茶色の水は「出汁汁を仕込んだものだ」と教えてもらった。
俺は塩と酒で先にフライパンの上でキノコを炒める。
そして柔らかくなってきた所で出汁汁と塩を少し入れた卵を入れて混ぜる。
火加減は好みで柔らかめに仕上げる。
「出来ました!」
見た感じも匂いも決して悪くない。
これはご飯が進む味だと思う。
「見た目も分量も文句なし、後は味だな」
そう言っておじさんとおばさんが一口食べると黙り込んでしまう。
「これは…美味しい」
「ああ、本当に料理の経験はないのか?」
「はい、やっても母の手伝いを少ししたくらいで味付けとかは全部母がやってくれていました」
「信じられん。これは凄いな」
おじさんがそう言ってくれるのは悪い気はしない。
「……欲しい……」
ん?
「何か言ったかい?」
「いえ、おばさんですか?」
「私も何も言っていないわ」
「欲しい…」
そう言って俺の胸元から伸びた腕が卵の炒め物を掴む。
「ギャァァァーッ」と言う聞いたことのない悲鳴をおばさんが上げる。
おじさんも「何だこの腕…?」と驚いている。
俺は冷静になって胸ポケットを見ると次元球から腕が出ていて「欲しい」と言いながら炒め物を引き寄せている。
ん?この声…
「メリシア?」
「…はい…、トレーニングで疲れて息抜きにツネノリ様を見たら父と料理をしていて、とても美味しそうで…」
メリシアは弱々しい声でそう言うと皿を持って消えていた。
「何で奴だ…、恥ずかしい」
「本当、ツネノリ君の手作りを食べたいからって…」
すると少ししたら空のお皿が返ってくる。
「ツネノリ様、ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「メリシア?次元球は疲れるだろ?あまり無理をしないでくれ」
「はい。とても美味しくてジチさんの味付けに似た優しい料理でした。
また何か作ったら私にもいただけませんか?」
ジチさんの味付けに似ている?
ジチさんの料理はとても美味しくて俺なんかが真似をできるとは思っていないのだが…
メリシアの身内ひいきも大概なのかも知れない。
だが問題はそこではない。
「治ったらメリシアひとりの為にキチンと作るから、今日は自重してくれないか?」
「はい…、わかりました…」
そう言って次元球が静かになる。
力尽きたか寝落ちしたのかも知れない。
病み上がりに容赦のないマリオンさんのトレーニングはどうにかしてもらいたいなと思ってしまった。
「…メリシアが済まなかったねツネノリ君。
このまま少しだけ料理をしてみよう」
おじさんは色々教えてくれたが、おかしいと言われたのが数点あった。
「肉料理と野菜料理は言わなくてもとても美味しいものが出来るのに魚料理は基礎から教えないと話にならない感じだな。
後は包丁研ぎはやった事が無い感じで、包丁の使い方は練習用の包丁よりも俺の包丁を持たせた方が綺麗に使いやがる」
なんだか良くわからなかったが、アレコレと試して作っていくウチに結構な品数になってしまっておばさんに「夕飯の支度しなくて良くなったわ」と笑われてしまった。
その後は手持ち無沙汰になった所で「メリシアのかわりに掃除しますよ」と言って宿の廊下を雑巾掛けした。
おばさんからは「宿の廊下とメリシアの部屋はどちらを掃除したい?」と聞かれて驚いたがメリシアの部屋に入ったら俺はどうにかなりそうで怖かったので廊下を選んだ。
「真面目ね」
「からかうんじゃねぇよなぁ?」
「あら、ツネノリ君が部屋に入ったと聞いたらあの子も掃除を真剣にやると思ったのよ」
「武士の情けってあるだろ?」
おじさんはそう言って笑っていた。
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