第152話 あの人はトレーニングが大好きなんだ。
おじさんとおばさんについて行き、メリシアの実家、タツキアの宿に俺は到着する。
壊れた玄関はそのままで瓦礫なんかが散らばっている。
「ああ、まだ日にちが経っていないし家の中を先に片づけたから外はまだなんだよ」
「気にしないでね」
「はい」
そうして俺はあの日メリシアの遺体があった部屋に通される。
数日前に感じたあの悲しい空気は大分無くなっていて、メリシアが遊びに行ってしまって家の中が静かになっていると言う感じだった。
おばさんがお茶を出してくれて俺は荷物と言っても殆どないが上着を部屋の隅に置かせて貰うとおじさん達と座卓を囲む。
「ツネノリ君はメリシアともう話したかい?」
「はい、俺は一昨日の戦闘中と一昨日の夜中にメリシアが連絡をくれました」
「あらあら、私達と話すより多いのね」
「え?」
「俺達は昨日の朝に勇者様が次元球を持ってきてくれてその時に少し話をしただけだよ。あの野郎…熱が出たとか言って心配させておいてツネノリ君とは二度も話しやがったのか…」
おじさんが嬉しさと面白くなさが合わさったような顔でムスッとしてしまう。
「俺の場合は次元球を持っているから…ああ、話せるか試しますか?」
そう言って俺は次元球を出してから天井を見て「東さん、頼めますか?」と言う。
するとあっという間に次元球から「ツネノリ様?あれ…そこって…ウチ?え?お父さんとお母さん!?」と聞こえてきた。
「ああ、事情は東さんから後で聞いてくれ、俺は今日一日行き場がなくなってしまってメリシアの家に厄介になっているんだ」
そう話した横でおじさんとおばさんが話に入ってくる。
「おう、熱はどうだ?」
「うん、今は大分落ち着いたよ」
「良かった。ツネノリ君が来てくれたから元気になったのが聞けて安心したけど、お父さんも私も心配だったのよ」
「今日は勇者様がガーデンに来られない日だから仕方ないよ」
そんな話をしながらおじさんとおばさんはメリシアと楽しそうに話をしている。
しばらくすると後ろから扉を開ける音と「メリシアー、調子はどう?動ける?」と言う声が聞こえてきた。
「少し待ってください」
「あ、またツネノリと話しているの?」
「いえ、ツネノリ様の次元球ですが父と母なんです」
「え?そうなの?じゃあ沢山話しておいでよ。アイツには無効化範囲を広げてもらってメリシアの負担を取り除くからさ」
「なんだ?どうした?」
「何でもないよ、ただのリハビリ」
「リハビリしなければならないくらい人形から人間って大変なのかい?」
「違うよ、今でも前くらいには動けるんだけど、折角だからってツネノリ様の世界の人達がトレーニングをしてくれているの」
…マリオンさん、トレーニング好きだからだ…
昔、10歳くらいの頃、遊びに行った時も「よし!子供達と私とカムカで鬼ごっこをしよう!触るだけだとダメだよ!ちゃんと捕まえないと終わらないからね!!」と始まって3時間みっちりと鬼ごっこをした。
後で父さんに「よくマリオンのトレーニングに付いて行けたな」と言われてトレーニングと気づいた。
そしてキヨロスさんも完璧主義者だと父さんと母さんが言っていたのを知っている。
あの2人が居たら「折角だから」+「完璧を目指そう」=「折角だから完璧を目指そう」になる。
「メリシア…、その、マリオンさん達が済まない。あの人はトレーニングが大好きなんだ。
無理だと思ったらキチンと申告して休ませてもらってくれ?
もう以前くらいには動けるのだろう?」
「ツネノリ様、ありがとうございます。
大丈夫ですよ。
マリオンさんのトレーニングはとても為になります」
「そうなのか?無理はしないでくれ」
「はい」
そしておじさんとおばさんがもう少し話して最後にはどのくらいで帰ってくるのかと言う話になった。
「トレーニングが楽しいから後6日くらいかな?」
「何?お前、勇者様のお仲間の方々に悪いだろ?」
「みんなもっと居ていいって言ってくれているよ」
「お前、そう言うのは遠慮をするもんだぞ?」
「そう?でもこれで身体が前以上に軽やかに動くようになったら屋根の補修とか私でもやれるようになるし、いいかなって思うんだけど」
そう言うメリシアの声を嬉しそうに聞くおばさんが「ちゃんとお礼は言ってね。お母さん達はそちらの世界にお礼を言いにいけないんですからね」と言う。
「わかってるよ。大丈夫。
ツネノリ様、父と母と話す時間をくださってありがとうございます。
早く帰れるように頑張りますね。
早く会いたいです」
「俺もだ、だがくれぐれも無理はしないでくれ」
「はい。
お父さん、お母さん、またね」
そう言って通信が終わる。
俺は今になって一つの事が気になった。
「アイツには無効化範囲を広げてもらってメリシアの負担を取り除くからさ」
…アイツと言うのはキヨロスさんだろう。
「究極の腕輪」で次元球を使った時の負担を無効化してもらう話、次元球の使用は疲れると母さんも言っていた。
…最初のメリシアは負担を無効化されていない?
疲れなかったのか?
トレーニングで相当な体力がついてしまったのかもしれない。
「ツネノリ君?」
「どうした?」
「え?いや、何でもないです」
俺は慌てて誤魔化す。
おじさん達にはとても言えない。
父さん、母さん…
どうかあの2人がやり過ぎないようにメリシアを見守ってください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます