第148話 記す者さん、来てください!

しかしまあ、いきなり休みになるとやる事が無くて困る。

昨日1日しか時間が無いと思ったのでアーティファクトの適正とか神如き力の使い方とか練習してしまったのだ。

それに今日のルルお母さんは作業があると言っていたのであまり邪魔を出来ない。


手持ち無沙汰が極まって金色お父さんの肩揉みまでしてしまった私はリビングにある一冊の読み込まれた年季物の本を見つけて手に取ると作業をしていたルルお母さんが慌てて飛びつく。


「あわわわわ、千歳!」

「何?」


「いや、その本は…」

「この本がどうしたの?」

私はキョトンとした顔で聞くとお父さんが「ルル手作りの本だ」と教えてくれた。


「凄い!ルルお母さんって本も作れるの?」

「凄い?そうだろ?そうだよな!これは昔ツネノリに字を読めるようになって欲しくて私が書いたものなのだ!

これはなツネツギに会ってからゼロガーデンでの戦いが終わるまでを書いてある!」


「そうなんだ!読んでいい?」

「うぇっ!?しまった。つい…」


「ルルも凄いと言われて調子に乗ったな」

金色お父さんが笑いながらそう言う。


「うるさいぞツネジロウ!」


「ルルお母さん?読むね?」

「むぅ…、昨日もそうだがツネノリに話すのは恥ずかしく無いのに何で千歳相手だと恥ずかしいのだ?」


「読んでいいぞ千歳。なあルル?」

「……好きにしてくれ」


ルルお母さんは真っ赤になって作業に戻ってしまった。

読んだ本はノレルお母さんとルノレお母さんを見つけたお父さんが「創世の光」を手に入れて日本に帰れなかった事や世界を旅して北と西の戦争で王子様とお姫様を助けた事、そして結婚した事、その日にアーティファクトを使えなくされて神殿までジョマの使いを倒しに行った事なんかが書いてあった。


あったのだが、娘の私からするとお父さんが格好良く書かれていて脚色されていないか気になってしまう。


「ねえ、お父さん?」

「なんだ?」


「お父さんは普段この家で何をしているの?」

「なに?本当なら水汲みをしたり家の周りの魔物を倒したり、ツネノリの稽古に付き合ったりしているのが殆どで後はルルが作った人工アーティファクトの性能テストに付き合っているな」


「それなら今は暇だよね?」

「…まあ暇だが、傷つく言われ方だな」

金色お父さんは微妙な顔をしている。


「これ、本当の話?ルルお母さんがお父さんの事を格好良く書いてない?」

「お前…酷くないか?」


「だって、アーティファクト使えないのにビッグベアに挑むお父さんとか想像つかないし、ルルお母さんに「一緒に死ぬか?」なんて言わなそうなんだもん」

「あー、確かに言ったみたいだが、その時に俺は居なかったからなぁ…」

そうか、金色お父さんは最終決戦の後で東さんがガーデンにいた2年間のお父さんから生み出したって書いてあるから「みたい」なのか…


「気になるなら東に聞いてみれば?」

「お父さん?東さんは忙しいの。

そんな事出来るわけないでしょ?」


「…お前、お茶には呼びつけるのに…」

「それはそれなの」


うーん。だが気になる。

このガーデンでなにが起こったかを知れればまた何か違ってくる事もあるかも知れない。


私はその時に気になる一文を見つけた。


ガーデンに降り立った神様は事態を把握する為に神の使い、記す者を呼んだ…


これだ!


私は神如き力を発動させる。

「千歳、髪!赤くなってんぞ!!」

お父さんが慌てるが知った事ではない。


「記す者さん、来てください!」

神の声を意識して世界に語りかける。


すると次の瞬間、目の前に小学生くらいの男の子が立っていた。

「はい神様!ってあれ?千歳様だ」


「はじめまして、千歳です。あなたが記す者さん?」

「はい。僕、神様に呼ばれたと思ったのだけど千歳様だったんですね」


「私の事、知っているの?」

「はい。僕は基本的にゼロガーデンで起きた全ての事を記していますから。ここはゼロガーデンなので千歳様の事はここにきた時の事から全てを記していますよ」


「なんで様付けなの?」

「神様と同じで僕を呼べる力を持っているのでその方がいいかと思いました。

それでなんの御用でしょうか?」


「先に一個聞いていい?基本的にって例外的だと何があるの?」

「もし、僕に見えないように神様の力を使われると僕は記せなくなります」


「なるほど…」

そう言って私は髪を赤くして記す者に見せないと思いながら手の中でピースサインを作ってみる。


「私の手の動きが見えるかな?」

「ダメですね」


「わかった。ありがとう」

「それでなんの御用でしょうか?」


「良ければなんだけど、昔東さん…神様がお父さん達に呼ばれてガーデンに帰ってきた時に読んだ記録が読みたいんだけどダメかな?」

「それは僕では決められないので神様に聞いてみますね」


「え?東さんに悪い…」

「いいそうです!」


そして記す者は一冊の本を出してくれた。

その本の厚みはとんでもなくて気が遠くなる。


「なんでこんなに分厚いの?」

「現サウス王、キヨロスの記録が多いからです。

神様も読むのには苦労なさっていました」


記す者は本当に私以外には敬称も何も無く呼び捨てにしていた。

そして記録は箇条書きの報告書といった感じで読みにくかった。


「これ、読み易くならないかな?」

「書き方の問題ですか?」


「うん、小説みたいになっているとありがたいんだけどやれる?」

「はい。そのくらいなら出来ますよ」


そして私は40年くらい前に神の使い「知らせる者」と「与える者」がそれぞれジョマの使いに捕らえられた事、それとほぼ同時期に西と北の王妃様がジョマの使いに殺されて、王妃様を取り戻す方法を鵜呑みにした北の王様が西の国と戦争を始めた所から読み進めて行く。


前の南の王様がジョマの使いに「龍の顎」と言うアーティファクトを授けられて家族を飲み込んで悪魔化して眠りについた事、ルルお母さんの生まれ故郷の東の国、イーストがジョマの使いによってもたらされた「創世の光」の暴発で国が蒸発した事。


イーストがアーティファクト不要の流れになって天才アーティファクト使いだったルルお母さんが「迷宮の入口」と言うアーティファクトで奈落を作って潜っていく。


そして全てのアーティファクトの装備という目的のために身体を割ってノレルお母さんとルノレお母さんになって長い眠りに着く。

なんで長い眠りなんだろうと思ったら身体を定着させる目的があったみたいだ。

ルルお母さんはこの事で若返ったとある。


その後は西の王子様と北のお姫様の出会いと2人の淡い恋心が書かれていて、後はカムカと言う男の子が神の使いの一人、道を示す者に選ばれて修行を始めていた。


「この後は時系列より、サウスガーデンの話はキヨロス目線、イーストガーデンはツネツギ目線、ウエストガーデンとノースガーデンはガクとアーイ目線の方が読み易いと思うので並べ替えますね」と言って記す者が本に触る。


「第1章ってなったよ」

「はい。これなら千歳様にも読み易いと思います」


芸が細かい記す者はニコニコと私をみている。


私は「ありがとう」と言って読み続ける。

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