第149話 私も出来るようになったんだから自分でやるの。

とりあえず南の王様が王様になった話までは読み終えた。

物凄い文字量と情報量で、途中で何回も心が挫けそうになったが王様が何も知らない猟師の子供だったおかげで私にもアーティファクトの複数持ちがどんなものか、後はアーティファクトによっては他のアーティファクトを装備できなくなる事なんかも詳しくわかった。


「それにしても3人の奥さんって…とんでもない女たらしじゃない?

その王様に気に入られた私はどうなるんだろ?」


だが、特殊なアーティファクト「時のタマゴ」によって性格が変わった話や解脱と言う過程を経て時を跳ぶ力を失った代わりにアーティファクトの問題点を無効化する「究極の腕輪」を手に入れた事。

その他にも偶然と奇跡の連続でS級のアーティファクトを何個も授かった事がわかって何となく王様への近親感が湧いた。


「ねえ、記す者さん。王様についてもっと細かく読みたいんだけどそれは出来るのかな?」

「個人の細かい情報はプライバシーがあるからダメだと神様から言われています」


「そっか、そうだよね。ありがとう」

そう言った横で金色お父さんと作業を止めたルルお母さんが「ちっ、キヨロスの弱点とか知りたかったのにな」「うむ。千歳よ神如き力で何とか出来ないのか?」と言っていて王様も大変だなと思った。


そして私はお父さんとルルお母さんの話を読む。

読んでいて一つの疑問が出てきた。

「あれ?御代伯母さんはガーデンに召喚された話なんてしてくれた事ないけど、秘密だったのかな?」

「あ?ああ読んでいけばわかるぞ」

「ツネツギの慌てようと言ったらなかったの」

ルルお母さんが楽しそうに笑う。


「笑えねぇよ」

「そうか?でもあの結末で良かったではないか?」


「まあな」


何があったのだろう?

その疑問も読み進めればわかるらしいから私は読み進める。


御代伯母さんが毒を盛られて死にかけた事。

テツイと言う人がお父さんの手伝いをしていた事。


テツイ…この人がツネノリの先生の一人だよね?

確かこの前ツネノリが教えてくれたがアーティファクトの凄い人なんだろうけど今読んでいる記録の中ではアーティファクトを使えないでいる。


途中、サウスガーデンで王様と一緒に戦ったカムカと言う人がイーストに来てお父さんの仲間になってくれる。

御代伯母さんの毒を治すために王様の奥さんの一人、フィルと言う人がマリオンと言う人形の人とイーストまで来てくれる。

ここでも王様は無茶苦茶な事をしていてマリオンさんが非常識と酷評している。

御代伯母さんの毒はすぐに治して貰えてお父さんは日本に帰るために最下層の「創世の光」を目指す。


そしてノレルお母さんとルノレお母さんとの出会いを経てルルお母さんと出会うお父さん。


ルルお母さんの技術で人形から人間にして貰えたマリオンさんはフィルさんとサウスに帰っていく。

そしてマリオンさんは成人の儀で「愛」と言うアーティファクトを授かる。


翌日、最下層で「創世の光」を手に入れた時、本性を現したテツイさん。

でもテツイさんはジョマの使いにアーティファクトを使うと成長していき最後には悪魔に変貌をしてしまう本物の「悪魔のタマゴ」を埋め込まれていて、除去不能の状況でお姉さんの為に死ぬ事を考えていた。

それでアーティファクトを使えなかったのか…

だがルルお母さんがモノフさんを頼って「悪魔のタマゴ」は何とかなる。


そしてジョマの使いとの決戦。

フィルさんとマリオンさんが居ないから苦戦する中、ルルお母さんはお父さんをパートナーに選んで「創世の光」を何とか発動させてジョマの使いを倒してハッピーエンド。

「創世の光」を国に渡して仕事を終えたのに帰れたのは御代伯母さんだけで、お父さんの慌てようには読みながら思わず笑ってしまった。


数日後、ジョマの使いが生きていた事を知ったお父さんはルルお母さんと旅に出る。



「お父さんって怒ると怖いんだね。

御代伯母さんが毒になった時やジョマの使いに閉じ込められた時には助けるためには一切の躊躇もない感じだね」

「当たり前だろ?俺は家族の為なら何でも出来る男だぞ。

それより千歳だってキレるとヤバいじゃないか」


「私?この前のプレイヤーの事?あれは南の王様に感化されて…」

「違う違う。佐藤達から聞いたぞ?千歳はキレると怖いって、高橋って女の子を去年咽び泣くまで追い詰めたって…」


…高橋?

ああ、あれ以来怯えたり目の敵にしてきたりしている子だ。

それにしても勝手に暴露されているとやりにくくて困る。

佐藤めぇぇぇ…


「大丈夫、変な事にはなってないよ」

「それなら良いが、何かあったら報告と連絡、そして相談をしろよ」


「わかっているよ」



私はまた読み進める。

今度は西と北の戦争だった。

お父さんとお母さん、それとモノフさんは東側から北に入る形で戦争に参加をしていた。

南のカムカさんが王子様とお姫様を助ける形で仲間になり自然と南の王様達も関わる事になる。

途中、ルルお母さんが王子様とお姫様の展開が好きな事が判明して微笑ましいと思ってしまってルルお母さんを見てしまう。

お父さんが読んでいる場所を察したのか「姫って呼んでやろうぜ?」と悪い笑い方をしてきてルルお母さんが「むっ?また馬鹿にしなかったかツネジロウ?」とお父さんを睨んでいた。

その流れにすら深い絆と愛情を感じる。


「あ、ここだ…」

私は南の王様が奥さんをジョマの使いに殺されて、王様が禁忌にしていた人殺しを行うところに差し掛かった。


これはこの前「意志の針」で情景を見た。

世界中への憎しみ、戦争への憎しみ。

奥さんを取り戻す為に必死な姿。


今の私とちょっとの年の差しかない王様がそれをしている事に驚いてしまう。


そして北のお姫様…、アーイさんのアーティファクトと王様の力を合わせて再現された「時のタマゴ」で全てをやり直す。


そして戦争終結。

世界は平和になる。



そんな終わりではなかった。

今度は皆の結婚式から事件が始まる。

ルルお母さんのウエディングドレス姿が見てみたかった私は神如き力でその日を見ようとしたのだが記す者が「神様がお姿は見ても良いので力を使わないようにと言っています!」と割り込んできてルルお母さんとお父さんが並んでいる姿、ノレルお母さん、ルノレお母さん、ノレノレお母さんがそれぞれお父さんと並んでいる姿を見せてくれた。


「ルルお母さん!すごく綺麗!!本当、なんでお父さんを選ぶかなぁ?」

「なに?あ!これは結婚式の時の映像か?」

「お、写真みたいなものか、ゼロガーデンには写真は無いから貴重だなルル。

前に端末で撮った奴しかないし、紙にはなっていないな。

…それとは別で千歳、お前が俺の事をどう思っているのかよくわかった。

後でじっくりと話そうな」


そっか、写真がないのか…。

私は結局神如き力を使いこの映像を紙の写真にしてルルお母さんにプレゼントをする。


「千歳…、わざわざ力を使ってくれたのか?」

「うん、ルルお母さん綺麗なんだもん。ツネノリも見たいだろうからやっちゃった」


私は笑いながら言う。

「千歳様、神様にお願いをすればよいのでは?」

記す者がヤレヤレと言ってくる。


「それはダメ。何でも東さんに頼るのは良くないの。

私も出来るようになったんだから自分でやるの」


「だがこれは内緒だな」

「なんで?」


「千歳は記録を読んでいるのであろう?それならばガクとアーイ、カムカとマリオン。

そしてキヨロスと3人の妻達もこの場におる。

全員が欲しがって都度千歳が力を使う訳にも行かないし、一度やれば際限がなくなる」

「そっか、これがジョマの言っていた力を持つ煩わしさなんだね」


やれるからやるだけではなく、使う場面を見極めなきゃダメなんだ。


「ありがとうルルお母さん。気をつけるね」

「ああ、だが千歳ならうまく使いこなせると私は信じている。

自信を持て。

そして写真…と言うのか、ありがとう。とても嬉しい。私の中の3人もとても喜んでいる。

本来なら出てきて感謝を述べたいそうだが時間がなくなりそうだからまた今度にしよう」


私は私の方こそありがとうと言いながら読み進める。

結婚式直後にアーティファクト・キャンセラーが発動してアーティファクトが使えない世界。

その中で世界の中心、神殿に向かうお父さん達。

途中で行方不明の神の使いを保護した事で東さんに連絡が行く。


そして神殿での戦い。

お父さんは本当にルルお母さんに「一緒に死ぬか?」と聞いていた。


仲間達のために単身ビッグベアに挑もうとするお父さん。

それを必死に止めるルルお母さん。

その姿を見ると本当によくお母さんはこの2人の間に入り込めたと思う。


私はその日の姿を見てみたくなり神如き力を使う。

神殿の荘厳な雰囲気、階段の向こうに見える恐ろしいビッグベア、戦闘態勢の仲間を制止して足止めに名乗りをあげるお父さん。

お父さんは普段のだらしのない顔ではなく真剣な男の顔をしている。

ツネノリに近い雰囲気だ。


「「勇者の腕輪」も使えないのにか?」と止めるルルお母さん。


「俺が死ぬまでにアーティファクト・キャンセラーを停止してくれれば大丈夫だって、俺も何もビッグベアを倒そうだなんて思ってないって、ここで時間稼ぎをするだけだから」と言うお父さんにそれでも心配するルルお母さん。


ルルお母さんは心配のあまり泣いてしまう。

それを見たお父さんは「じゃあ、俺が死ぬなら一緒に死ぬか?」と声をかける。

その発言に驚くルルお母さんにお父さんは説明をしながら覚悟を聞く。


そしてルルお母さんは大粒の涙を溜めて「うん、死なせて」と言ってお父さんに抱きついていた。


その2人の姿はまるでドラマのようだ。

相手がお父さんなのがイマイチ盛り上がらないがルルお母さんは綺麗なので素敵な場面だ。


そして2人で必死になってビッグベアの足止めをする。

ギリギリの所でアーティファクト・キャンセラーが破壊されて力を取り戻したお父さんとルルお母さんがビッグベアをあっという間に退ける。

それは本当にギリギリだったがお父さんはそんな中でもルルお母さんが傷を負わないように必死になっていた。


「悪いルル、ちょっと怪我したから回復してくれ」なんて言っていたが左腕は血だらけで骨折している。

「まったく運のいい。ちょっとで済んで良かったな」と骨折に気付いているのに軽口を叩きながらもしっかり回復をするルルお母さん。

絵にならない訳がない。


最終決戦はアーティファクト・キャンセラーを破壊したカムカさんの身体が反動で千切れるほどの衝撃で大怪我を負い瀕死の重体になるがマリオンさんが「愛」でそれを肩代わりして瀕死になる。

そのマリオンさんを皆で助けて、そこに東さんが登場してジョマの使い…最後の1人を倒して世界は平和になる。


本はここで終わっていた。


「神様が閲覧した内容は以上です」

私はもう一度本の表紙を眺めてから記す者に返す。


「ありがとう記す者さん」

「いえ、それとこれを、神様からです」

「東さんから?」


私は更に一冊の本を渡されて読んだ。

そこにはお父さんの仲間達がそれぞれ東さんと話をしてガーデンについて質問をした内容、東さんの悩みや苦悩、葛藤などが書かれていた。


「千歳様の完全解決に役立てばと言う事でした」

「ありがとう記す者さん」と言って本を返す。

ジョマの心の傷、東さんの心の傷。

そんなモノも全部、私は癒してあげたい。


「それではまた何かあれば呼んでください」と言って記す者は帰って行く。


「読み終わったか?」

「うん。ごめんなさい。お手伝いもしないで読み続けちゃった」


「構わん。

食事の用意は殆ど私だからな」


「本当、お父さんは動かないね」

「千歳の所でもそうか?」


「うん、ウチでもお母さんがご飯を出すまで座ってるよ」


「俺は俺で疲れているし、ルルや千明、それにツネノリはゆっくりしていて良いと言ってくれるぞ。

俺に厳しいのは千歳、お前だけだ」

お父さんが必死になって言い返してくる。


「それでもお父さんが動けば皆嬉しいと思うけどね」

「ぐっ」


「ルルお母さんもそうでしょ?」

「うーん…、難しいな。

ウチでは私のやりたい時にやっているから1人が楽なのだ」


多分ルルお母さんは手伝って貰うのも嬉しいし、何よりお父さんやツネノリの為に世話を焼くのも好きなのだ。

これも一つの愛だと思う。


「お父さん、いい奥さんを持ったね。本当ルルお母さんが優しくてよかったね」

「ああ、それは本当だな」

「バカ者、照れるわ」


そしてルルお母さんは昨日のミートパイの具材を使ってあっという間にお昼ご飯を作ってくれる。


ピザが1人一枚の感じで出てくる。


「ルルお母さんのご飯美味しいね」

「そうか?だが具は昨日千歳が手伝ってくれたではないか?」


「じゃあ私たちのご飯は美味しいね」

「ふふ、そうだな」


「いいもんだな」

「お父さん?」

「ツネジロウ?」


「ツネツギも言っていただろう?俺もそう思った。

千歳が来てくれたから言える事だな。

千歳が居なかったら俺は俺の気持ちを外に出さないでツネツギの身体として出過ぎた真似はしなかったと思う。

無論、これもツネツギの気持ちなのかも知れないが、俺自身もいいものだと思ったんだ」


「そうだね。お父さんはお父さんだから同じことを言うかも知れない。

でも金色お父さんの言葉だよそれは」

「そうだ。だからこれからもよろしく頼むぞ」

「ああ、ルル。俺こそよろしく頼む」


金色お父さんは嬉しそうにしながらピザを食べ進める。


「そうだ!

お父さん、御代叔母さんがガーデンに来てなくて良かったね」

私は最後に読んだ本に書いてあった事を読んで思った事を伝えた。

まさか御代叔母さんはお父さんがガーデンに耐えられるように、お父さん…多分この場合「勇者の腕輪」とお父さんが無意識に作った存在だったとは思わなかった。


結局、お父さんは「創世の光」を持ち帰ろうが帰れなかったはずだ。

そしてお父さんの読みは合っていたのだろう。

あのまま東さん抜きでジョマの使いに勝っていたら帰れたのだと思う。


「ぎぎぎぎぎ…、思い返すだけでも腹立たしいよな」

「ははははは。だがそのお陰で今がある。義妹の事も全て意味があったと思おうと何べんも言ったであろう?」


私達は笑いながらご飯を楽しんだ。

皿洗いは私とお父さんで名乗り出た。

ルルお母さんには少しでも休んでほしい。


「うむ、こう言うものはなんかくすぐったいな」

「そうなの?親孝行をさせてよ」


「千歳、俺には?」

「奥さん孝行しなよ」


「くそっ」


私はそんなやり取りをしながら昼下がりを満喫した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る