第145話 そう考えるととても贅沢者だな俺は。
ん?
俺はルルの横で料理をしている千歳を見た。
千歳は普段の北海から渡された服ではなくルルの服を着ていた。
それがとても似合っていて驚いた。
「千歳…、お前のその服…」
「あ、これ?私の服は洗って干してあるからルルお母さんの服を借りたんだよ。
どう?似合う?」
「ああ、とても良く似合っている。
千明がヤキモチ妬くかも知れないが、親子にしか見えなかいぞ」
「いひひ。嬉しいな〜」
千歳が照れて変な笑い方をしながらニコニコとしている。
「まあ、私の服と言ってもここは複製された家だから私のと言うのは語弊があるかも知れんがなぁ」
「えー!でも匂いはルルお母さんの匂いがするからルルお母さんの服なんだよ」
千歳は頬を膨らませてルルを見る。
ルルも満更ではない顔で千歳を見る。
「良いものだな」
「え?」
「何がだ?」
「娘のいる暮らしだ。
きっとツネノリを日本に連れて行って千明と3人で食事をしたら息子のいる暮らしも良いものだなと俺は言うだろうな。
そう考えるととても贅沢者だな俺は」
そう言って笑うと2人も「幸せ者だねお父さんは」「まったくだ」と言って笑う。
「それにしてもなぜあんな高級宿に行く?」
「…ツネノリが寂しそうに見えたのと後は今日のイベントは精神的に疲れてな。後はツネノリにツネジロウの話もしたくて…
あそこは未公開のスポットだから余計な奴がいない」
「やはり一人の夜はこたえたか…」
「多分な、今日のツネノリは何となく子供っぽく見えた。まあ今日は守るべき妹が居ないからかも知れないが…」
「それで?今日のイベントは何が大変だったの?」
「佐藤達がアレコレやらかして悪魔化して大暴れしてな…、アレを見るとツネノリや千歳が大人で良かったと思えてならなくてな。
普段の倍疲れた…」
「佐藤ぅぅぅぅっ…。今度会ったら記憶消しちゃおうかな?」
「こらこら、神如き力は乱用しないでくれよな?」
「そしてツネジロウの話か…」
「ああ、ツネジロウがこの20数年かかえて来た事をツネノリにも伝えるつもりだ」
「それなら仕方ないなと言いたいところだが…何故私も行ったことの無い高級宿にツネノリと行く!?
私を何故誘わない?」
「いや、ルルはゼロガーデン出られないだろ?」
ルルがムキになって俺に言ってくるのだが、ゼロガーデンの人間は、通常は時間の流れの関係でファーストやセカンドには行けない事を理由にして我慢をさせる。
「ルルお母さん、そのうち私がルルお母さんも次元移動出来るようにするから待っててね!」
と言って千歳が鼻息荒くガッツポーズを決める。
ルルも「頼んだぞ千歳!私も研究を重ねて自分の力で実現させて見せる!」と息巻いでいる。
お前らって組ませちゃいけないんじゃないか?
火と油のような関係と言えば良いのか?
頼もしさと危うさが共存していて怖い。
「高級宿は今度東に言っておく。
ところで今日は何をしていたんだ?
北海がヤキモチ妬いていたぞ?」
「ジョマが?」
「ああ、イベントに見向きもしないって言ってたぞ」
「あはは…、ルルお母さんと居るのが楽しすぎて…、朝はお父さんが出かけてから2人で洗濯したでしょ?
それを干したらこれ」
そう言って千歳が右手を見せてくる。
ん?
千歳の小指に指輪が付いている。
「ルルお母さんに作ってもらったアーティファクトだよ」
その指輪は小ぶりで真ん中に紫色の石がついていた。
「これはルルお母さんのお守り。
石が紫色なのはルルお母さんで、私が神如き力を暴走させるとノレルお母さんの青に変わって、次が赤いルノレお母さん。
そして最後は灰色のノレノレお母さんになって指輪が少し締め付けて来て私に気をつけるように教えてくれるんだよ」
千歳はニコニコと嬉しそうに指輪を眺めながら自慢をしてくる。
「良かったな」
「うん」
「ふっふっふ。ツネツギよ…見るが良い」
そう言って今度はルルがネックレスを見せてくる。
またネックレスを作ったのだろうか?
ルルは気分でアーティファクトを作るのであまり驚かない。
だが普段のものより作りが甘い。
あ!
「それ、千歳が作ったのか?」
「その通りだ。流石だなツネツギ。
交換だと言って私から作り方を聞いた千歳が作ってくれたのだ。
生憎私にはアーティファクトの指輪や腕輪が付いているからネックレスになってしまったのだがな」
俺はマジマジとルルの首についたネックレスを見る。
石は黒か…
「お父さん気付いた?この石は私の髪色と同じで普通が黒、次が茶色で最後が赤なんだよ」
「だが別にルルに気をつけるものは無いだろ?」
「千歳が自身の気持ち悪さを見抜く力、直感力と言う奴だな。それを込めてくれてな、怪しい状況になると茶色になって危険を察知した時には赤になる。
もう、私に嘘は通じないぞ?」
「マジかよ」
俺はルルに嘘はつかないがそれでもウッとなってしまう。
後は何を聞いても「お父さんしつこいよ」「根掘り葉掘り聞くな」としか言われなかった。
「ルル、ツネノリが待っているから下着をくれ」
そうするとタンスから新しい下着が出てくる。
「ん?洗った奴は乾かなかったのか?」
「あー…いやな…」
「あははは…」
ルルと千歳が歯切れの悪い笑いをする。
何だ?
千歳がやり過ぎて破いたのか?
「千歳が破いたのか?」
「そんなことしないよ!」
「メリシアだ…」
なんと、次元球から腕が生えてきて「お母様、ツネノリ様の下着は私が洗います!!」と言って持っていかれたらしい。
「お父さん、次元球から二の腕まで腕が出てくるのって怖いんだからね」
「そしてまだ戻ってこないのだ」
千歳とルルが思い出しながら話す。
「そう言うことか、メリシアも本調子じゃないから当分先だろうな…」
俺はそう言って下着を受け取ると戻ることにする。
「まだダメ!待って!ルルお母さん?」
「おお、ちょうど出来たぞ」
そう言ってルルがオーブンからパイを出す。
随分と作ったようで9個あった。
「2人で作ったんだよ」
「千歳は何をさせても中々に筋がいい。千明の育て方がいい証拠だの」
2人はニコニコとパイの出来に満足している。
「2人でそんなに食うのか?」
「食べん!」
「みんなの分だよ!」
「はい、これがお父さんとツネノリの分」
そう言って千歳がパイを2つ渡してくる。
「私とルルお母さんが夜ご飯に2つずつで、残りが…」
そう言うと千歳の髪が赤く光る。
「千歳!?」
「まあ見てろツネツギ。私は無理に抑え込むより使いこなせるようにしてやりたい」
「ルル!?」
「世界を飛び越えるイメージ…
私の身体…みつけた。
私の部屋を出る。
リビングにお母さん…スマホを見ている。
行けっ!」
そう言うとパイが一つ消える。
「お母さんの所に転送完了!
やれたよルルお母さん!」
「さすがは千歳だな。次元球の理論を自分なりに解釈してモノにしたようだな。
疲れなかったか?」
「うん。次は…、あー…凄い簡単。
存在感バッチリ!
東さんとジョマ!!」
そうして2つのパイが消えた直後に「ありがとう千歳、ルル。いただくよ。千明には僕から伝えておくよ」と言う東の声と「千歳様!嬉しいです!!ルル様もありがとうございます」と言う北海の声が聞こえてきた。
「東達にも渡したのか?」
「うん、御供物だよ」
「おそなえ…って…、まあ間違ってはいないんだがなぁ…。
所で千歳、その指輪は家に送らないのか?」
「え?」
「え?ってお前それ明日からの戦闘で破損とか汚損したら嫌だろ?それに今お前の身体は外にあるんだからどうやって持ち出すつもりだ?」
「そっか…このまま着けて持って帰れないのか…離れたくないけど壊すよりマシ!」
そう言うと千歳の髪がまた赤く光る。
次の瞬間、小指の指輪が消えたのだが千歳の髪はまだ赤い。
「千歳?」
「ルルお母さん、この服と同じ洋服が欲しい!」
そう言われたルルが慌ててもう1着の服を出す。
ルルは昔から予備とその予備を用意するので難なく出てくる。
「一緒に送る!」
次の瞬間、服も消えていた。
そしてルルは千歳を見てニコニコとしている。
あー、なんかさっき2人して午後の話を誤魔化した理由がわかってきた。
コイツら神如き力の練習をしたな…
俺はツネノリが待っているからと言って深入りしないで戻る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます