第146話 ツネノリや千歳が大人でいてくれて助かっているよ。
「遅かったね。トラブル?」
部屋に入るとツネノリが笑いながら俺を見る。
「まあな。ルルと千歳の組み合わせだぞ?何もない方が凄い」
「あ、それなんとなくわかるよ」
ツネノリが嬉しそうに笑う。
「後はこれを待たされていた」
そう言って出来立てのパイをツネノリに渡す。
「母さんから?」
「ルルが千歳と2人で作ったそうだ」
「せっかく暖かいから食べようか?」
「そうだな」
食べたパイはビッグベアの具でツネノリは喜んでいた。
「どう?父さん?」
「ああ、不思議な味だ。
千明とルルの料理を一緒に食べたみたいな感じだ」
それは決してイヤな味ではない。
とても美味しかった。
暫くして女将が顔を出してきて夕飯の話になった。
「勇者様、何かご希望がありましたらお申し付けください」
「ああ、ありがとう。
俺の息子はとにかく米好きでな。
本気を出したら米農家がひっくり返るほど食べるんだ。
なので米好きが喜ぶメニューを頼む」
そう言うと暫くしてまた女将がくる。
「勇者様、奇抜なメニューを試したいと料理長が申しておりまして…」
「ああ、構わないよ。良かったら正当に評価をするし、良くなければキチンと問題点を告げるから好きにやってくれ」
「ありがとうございます。それではお風呂の用意が出来ましたので勇者様とご子息様は先にお風呂にお入りください」
そんなやりとりをしてから俺達は風呂に入る。
風呂はとても広くてゆったりと入れる。
「ツネノリ、背中流してくれ」
「うん、いいよ」
俺はツネノリに背中を流してもらいながらツネジロウの話をしてしまう?
「ツネジロウ…父さんはずっと気づいていたんだね。
そして俺達を自身の家族と思って愛してくれて居たんだね」
「ああ、ルルやツネノリが俺の居ない日でも俺と同じに扱ってくれていた事に感謝をしていた」
「でも母さんじゃないけど死んでもいいなんて考えは許せないよ」
「まったくだ。まあツネジロウもルルに殴られたから、もうそんな考えはしないだろうな」
「だといいけど、家に帰ったら俺からもキツく言わなきゃ!」
マジか…
「いや、程々にしてくれよな?」
「ダメだよ父さん!こう言うのはガツンと言わなきゃ!」
「お前達がツネジロウを叱ると次に俺になった時が辛い…」
「我慢だよ。頑張らなきゃ!!」
マジかー…
まあツネノリの性格から言えば一言言いたいだろうし仕方ないのだが…
気が重い。
俺はツネノリの背中を流してから2人で湯船に入る。
「あ、父さんその話したくて、ここにきたの?」
ツネノリが俺の顔を覗き込む。
「いや、それもあるが単純に疲れたんだ。
千歳にも言ったんだが、グンサイの悪魔の中に佐藤達が居てな…」
そして俺は佐藤達の幼さとか危うさを見て疲れ切った話をした。
「佐藤達はろくでもないね」
「まあ、外の世界に生きる子供は大概そんなもんなのだが、やはり俺は子供に恵まれていたのだろう。
ツネノリや千歳が大人でいてくれて助かっているよ」
「どういたしまして。俺達が大人なのは父さんと母さん達のおかげじゃないかな?」
「そう言ってくれると助かるよ」
そんな事を言いながら俺達は温まって疲れを洗い流してから風呂を出る。
部屋に戻るとフルコースのように箸とスプーン、それとフォークだけがセッティングされていた。
「夕飯は何が出てくるやら」
「ご飯が沢山って本当かな?」
「まあ、期待してるといい」
女将が飲み物のオーダーを取りに来つつ「始めさせていただきます」と言い、中居の1人が丼を持ってきた。
俺には小ぶりな丼でツネノリにはキチンと1人前の丼だ。
中を開けると豪華な海鮮丼が入っていた。
だが量が少なめだ。
「女将、これは?」
「はい。御子息様がお米好きとの事でしたので多数の丼をご用意させていただきました。一つを食べると次の一つが出てくるようにいたしましたので心ゆくまでお楽しみください」
そう言う事か。
確かに目の前のツネノリは目を輝かせて犬が待てをされているみたいになっている。
確かに米が沢山出てくるのはありがたい。
「なら少し変更をさせてくれ」
「はい、なんでしょうか?」
「息子はそのメニューで構わない。だが俺はそこまで食べられないので丼の上に乗るものだけをつまみとして出してくれ。
それを肴に酒を飲みたい」
「かしこまりました。それではご満足いただけそうになった時に止めていただくまで続けさせていただきますのでよろしくお願いします」
そう言って女将が去って行く。
酒は早々にやってきた。
海鮮丼の次から俺は酒の肴で酒を楽しんでツネノリには好きなだけ米を食べてもらう事にする。
「父さん!この海鮮丼すごく美味しいよ!!
お米がとても美味しいんだ!!」
子供の顔で喜ぶツネノリを見て俺はホッとする。
「それは良かったな。どんどん来るらしいぞ?何処まで食べられるかな?」
「頑張るよ!」
「こら、食事は頑張って食べるモノでは無いだろう?」
「う…、そうなんだけどね…折角だから食べたいんだよね」
珍しくツネノリが甘えた事を言っている。
そのまま、数多くの丼物が出てきた。
俺は途中でツネノリのペースを考えておかみに「次から二種類候補を教えてくれ。息子がその中から一つ…または両方を選ぶ」
「かしこまりました」
「父さん!カツ丼美味しいよ!
あ、でもその前の牛丼も豚丼も良かったし親子丼も…アナゴ丼も麻婆丼も…ほかのも…」
「ひょっとして全部か?」
「あ…、そうかも…」
そう言って照れるツネノリ。
「そろそろ止めるか?」
「あ、うん。休みなら良いけど明日も戦うから次でやめようかな」
俺は女将に次でストップにしてもらうと最後に「お若い方なのでコチラを是非と料理長が申しております」
と言ってロコモコ丼を持ってきた。
「父さん!これすごく美味しいよ!」
「そうか、良かったな」
そして食器を下げてお茶を持ってきた女将に手間暇かけてくれた事への感謝を告げる。
「息子も大変喜んでいたが、これは手間がかかり過ぎではないか?大丈夫だったか?」
「はい、お客様がひと組限りの日特別メニューにさせていただくつもりで御座います。
それに色々な料理を作り試せたと料理長も感謝をしておりました」
「そう言ってくれると助かるよ」
「はい。
恐れ多い事で御座いますが、現段階での点数は如何程でしょうか?」
「85点と言ったところかな。
料理の出し方も部屋の選択に関してももう少し会話の中から希望を察して臨機応変に動けるようになった方がいいと思う。
だが、非常に高い水準で居てくれてありがたい限りだ。
ここまでよくやってくれたと思う。
これなら胸を張ってエテを公表出来る」
「ありがとうございます。従業員一同喜びます」
そう言うと布団を敷いて女将が帰って行く。
そんな俺をツネノリが物珍しいものを見る目で眺めている。
「ツネノリ?どうした?」
「今のが戦う以外の父さんの仕事?」
「ん?ああ、セカンドやファーストではこう言う仕事が多いな。
後は前も言ったが外の世界から食べ物の情報を仕入れたり家具について調べたりだな」
「俺、初めて見たよ!」
「確かにそうかもな」
「母さんにも見せてあげたかったな。
きっと母さんも喜ぶと思うよ」
ゼロガーデンでは見せない顔になっていたのかも知れない。
ツネノリがそれを見て喜んでいる。
…確かにゼロガーデンでルル達とのんびり暮らす姿だと働く男の背中には程遠いのかも知れないな。
俺達はそのまま少し早いが眠る事にした。
「済まないな、ツネジロウの事があるから朝まで居てやれない」
「平気だよ。俺子供じゃないんだからさ」
「いや、お前一人で泊まるとか初めてだろ?実を言うとなルルと心配していたんだ」
「ああ、それなら平気だよ。昨日の晩は1人きりって知ったメリシアがこっそりと次元球で連絡をくれたんだ」
「何?」
「あ、そんなに長話はしていないよ。メリシアは今神殿にメリシアの部屋を用意して貰っていて夜は1人で眠っているんだって。お互いに一人だねって話をしてたんだ」
…メリシアの行動力が凄いのだが、これってマリオンに感化されていないだろうな?
もしもそんな事になっていたら俺はタツキアのご両親に顔向けが出来んぞ。
「それで一人の夜も気にならなかったのか…、だがなツネノリ、メリシアは今熱が出ているんだから無理をさせてどうする?これで不調が長引いてタツキアに帰るのが遅くなって見ろ、ご両親がどれだけ悲しむか…」
「あ、そうだよね…悪い事しちゃったな」
「まあ、反省出来たからいいだろう。神殿にはマリオンもジチもいるから大丈夫だと思うがな…」
「そうだね、ジチさんのご飯は美味しいからきっとすぐ元気になるよね」
「ああ、さあ寝ろ。その感じだとちょっとのつもりで沢山話して寝不足だろ?今日はちゃんと寝て明日に備えろ」
「うん。わかったよ父さん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみツネノリ」
…ルルが知ったらヤキモチ妬くだろうけど今は千歳が居るから平気なのか?
まあ、こうやって息子は大人になっていくんだろうな。
俺もそんな事を思いながら少し眠りにつく。
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