第143話 なんでも特別枠とベテラン枠がやる訳にはいかんよ。

広場に居た5体の悪魔はあっという間に佐藤達に倒された。


「アンタ、ベテランプレイヤーだろ?

あいつらの仲間じゃないのか?」

先程佐藤達に気をつける様に伝えたプレイヤーが声をかけて来る。


「顔見知りなだけだ。とりあえず今はいいんだ。

だが、この先魔物が襲ってこなくなったときにあいつらが大人しく時間切れを待つとは思えなくてな」


そんな話をしているとジョマのアナウンスがはいる。

170体目の討伐が済んでしまった事。

佐藤達を抜かせば7体しか悪魔が居ないことになる。


…マズいな。


俺は話しかけてきたプレイヤーに「済まない少し席を外す」と伝えてホテルの屋上に瞬間移動をする。


「東」

「なんだい?」


「サイバは?」

「被害者は10名と言った所だよ。ツネノリは無事だ。

無事と言うか悪魔達はツネノリから逃げる様に暴れていたよ」


やはりそうなったか…


「グンサイの被害は?」

「彼らの指示を無視して避難しなかったスタッフ15名が命を落とした。

後は無人の家屋を壊して遊んでいたプレイヤーが結構居たが、それはさっき広場で倒されていたよ」


奇しくも佐藤達の策は間違っていなかったと言うことか。


「東、彼らをどう見る?」

「間違いなくツネツギの予想通りになるね」


「そうか…、もう一つ心配事があるがどう見る?」

「それは起きた瞬間に僕が全員の記憶を消すしかないかもね」


佐藤達の幼さを見るとやはり不安になる。

そして東も不安が的中すると言っている。


「あら、じゃあ手を貸しますわよ」

そう言って北海が俺の前に現れる。


「北海?何を…」

「副部長は約束を守ってくれましたし、そもそもその心配事が私の思っているものでしたら私にとっても面白くないですもの。

私なりに手を貸しますわよ。

盛り上げますから頑張ってくださいね」

そう言うと北海は消えていた。


「ツネツギ、ツネノリとプレイヤーが2体の悪魔を倒したよ」

東がそう言う。

佐藤達を見ると新たにプレイヤーの中から現れた3体を倒していた。

佐藤が最後の5体になってしまった。



その後、10分位が過ぎたが新たな動きは無く、もしかすると2体はサイバなのかも知れないと思い始めた。

多分、他のプレイヤー達もそう思ったのだろう。


1人のプレイヤーが佐藤達に話しかけている。

俺は東に声を拾ってもらってすぐ側にいるかのように会話を聞く。


「これで終わりかな?」

「どうですかね?なんでアレ物足りないですよ」


「物足りないのか?すげえな!

とりあえず最初に魔物化した子は誰だか見分けが付かないが後20分くらいでおしまいだろ?残りの子も含めてこのまま時間が過ぎたらイベントクリアだな!」


「物足りない…

物足りない…

もっと暴れたい」


「ははは、また明日「悪魔のタマゴ」が配布されるといいな」

そう笑いかけるプレイヤーに向かって佐藤は振りかぶった一撃を加える。


プレイヤーは「え?」と言った後近くのプレイヤーも巻き込んで肉塊になる。



やりやがった。



俺が気にしたことの一つ目はコレだ。

悪魔化をしたことで目覚めた力に溺れた佐藤は倒すべき敵が居なくなればプレイヤーを襲うと思ったのだ。


「おい、佐藤。何を?」

そう言った田中が佐藤に貸した「タマゴ喰い」を胸に突き立てられて倒された。


「佐藤!?」

「鈴木君はどうする?僕と一緒にプレイヤーと戦う?それとも僕と戦う?今の僕は強いよ?」


鈴木は少し躊躇した後でプレイヤーに殴りかかる。


「コイツら、裏切りやがった!」

「やっぱり魔物化したら敵になるの!?」

「撃て撃て撃て!なんとか倒すぞ!」


プレイヤー達の十字砲火を物ともせずに回避して反撃する佐藤達。プレイヤーが「なんでスタッフを襲わないで俺たちなんだ!?」と言っている。


「それはね?スタッフさん達は…ぐがっ!!?」

突如喋ろうとした佐藤達が悶え苦しみだす。


そこに北海のアナウンスが入る。


「はーい!運営のジョマでっす!

皆さん凄いですね!

残りの悪魔は4体になってしまいました!

さて、実は今日から「悪魔のタマゴ」に実装した隠し機能がありまして。

残り5体以下になると能力値が倍化する代わりに暴走するようにしちゃいました!

会話は出来ないしある程度勝手に暴れるから魔物化したプレイヤーさんはうまく制御してくださいねー。

じゃあ、引き続きバトルをお楽しみください!」



「能力が倍加?何やってんだ北海は…」

「ツネツギ、彼女なりの好意だろ。

あのまま行けば彼はスタッフの事、千歳やツネノリの事を口走ったと思うよ。

多分、急遽用意してくれたんだ」


「ああ、わかってはいる。能力倍化がいただけないだけだ」


そう。

二つ目に気にした事だが佐藤達は俺達の事情を少し知っている事だ。

何かのタイミングで口走られたらツネノリはまだしも千歳には迷惑がかかるしイベントの継続も危ぶまれる。

だから北海は喋れないように処置をしたのだ。


「せめて能力は3割増し位にしてくれればいいのに…」

そう言いながら眼下に広がる地獄に降りていく。


「東、サイバは?」

「隠れていた残り二体が暴走化で現れた。

今も暴れていて一体はツネノリが戦っているよ。

ツネノリが終わったらこちらに呼ぶかい?」


「いや、なんでも特別枠とベテラン枠がやる訳にはいかんよ。

俺はスタッフを逃す事に注力しつつ状況を見ながら参加するよ」



とりあえず半端に浮き足立って混乱しているのをなんとかしないとな…。

そう言いながら瞬間移動で佐藤に蹴りを入れる。

屋上からの加速が付いた蹴りだ。

佐藤は吹き飛ぶ。


「プレイヤーはコイツらを囲め!

陣形を整えろ!

スタッフはここから離れる。

俺についてこい!」


俺の号令に合わせてプレイヤー達は佐藤達を取り囲む。


俺はスタッフを広場から横に併設されているホテルのロビーに避難をさせる。


佐藤達は暴れる事に特化した存在でスタッフを狙うつもりが無いのが救いだ。


多勢に無勢だったのだろう。

いくら強力な力や絶大な防御力を持ったとしても手は二本しかないし足も二本しかない。

一瞬だけプレイヤーにも怪しい場面があったがすぐに押し返して最後には俺抜きで勝利を収めていた。



「本日のイベントはこれでおしまいです!

いかがでしたでしょうか?

ペナルティを恐れて自粛ムードの特別枠とベテラン枠の2人が大暴れしなかった事も良かったのではないでしょうか?

それでは皆さんまた明日!!」


終わったか…。

俺はホテルに避難させたスタッフを解散させるとサイバに瞬間移動をする。



サイバに着いたのに身体が実体化をしなかった。

俺は初日の事を思い出して「北海?」と呼ぶと「はい」と言って北海が現れる。


「お疲れ様でした」

「お疲れ様、どうした急に?」


そう言うと北海は頬を膨らましてむくれる。


「私、千歳様が居ないのに実況やらなにやら頑張ったと思いませんか?」

なに?


「ああ、良くやってくれたと思う。

佐藤達のことも助かった」

「ふふふ、ありがとうございます。

でも千歳様はあんまりです!

確かにルル様と初めての親子水入らずなのは良いことですけどイベントを少しも気にしないでルル様とずっと楽しそうで…」


ヤキモチか…


「全部終わったら北海も北海道子としてでもジョマとしてでも混ざれば良いんじゃないのか?」

「え?」


「千歳と遊ぶ日もキヨロスと話をする日があっても良いじゃないか?」

「そう…ですか?」


「ああ、その為にも千歳には頑張って完全解決をして貰わないとな」

「はい!」

北海が目をキラキラと輝かせて頷く。


「じゃあ、ツネノリが待っているから行くよ」

「はい。お疲れ様でした」


北海がそう言うと俺はツネノリの前に現れる事が出来た。


「父さん!」

「おう、お疲れさん。

寂しくなかったか?」


「大丈夫だよ。子供じゃないんだからさ」

そう言ってツネノリが笑う。


なんだかその顔を見ていたらたまらなく撫で回したくなる。


「父さん?」

「お前は可愛いな」


「なにそれ?」

「いや、疲れが出たのかも知れん。

ツネノリ、ちょっと付き合え」


俺はそう言うとツネノリと一緒に瞬間移動をする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る