第142話 今更スタッフの避難は出来ない。何とか守り切るんだ。
サイバでは見た感じ大きな襲撃は止んだ。
俺は13体、ツネノリも12体に留まっている。
仮に北海の配置がサイバとグンサイに90体ずつだとすればスタッフとプレイヤーの活躍を見越してもまだ足りない。
悪魔側のプレイヤーも何かしらの策を講じているのだろう。
先程聞こえたジョマの実況では68体の悪魔が討伐出来たと言っていた。
「ツネツギ、サイバはツネノリに任せてグンサイに行ってくれ!」
「東?どうした?」
「あまり良い展開ではない。
このままだと甚大な被害が出る」
「わかった。ツネノリには東から言ってくれ。
俺はグンサイに跳ぶ」
「わかった」
まあ、今の強さのツネノリが悪魔に遅れをとる事は考えにくい。ましてや千歳とツネノリの「勇者の腕輪」…北海が作ったレプリカ…「光の腕輪」は剣だけでなく拳も突剣も問題無く精製できる。
問題は強すぎて悪魔達がツネノリを全力で避ける事だろう。
俺はグンサイの街に跳ぶ。
「あれまあ…」
思わず口にしてしまう。
グンサイは街の中、スタッフカウンターの横に広めの公園と広場が併設されていて子供達が走り回ったり大人が長閑な雰囲気を楽しめるように出来ているのだが、そこに陣を敷いた奴がいて、広場の中心に女子供と老人、その周りを男や戦う意志のあるスタッフ、そしてその周りをプレイヤーが囲んで守っている。
そこに向かって20体の悪魔達が総攻撃を仕掛けている。
とりあえず問題は防御側のプレイヤー全員が「悪魔のタマゴ」を持っていないと言う確証がない事だろう。
仮にここで総攻撃を防いで一息ついた時に中から悪魔が出たら一気に壊滅だ。
そして悪魔の攻撃は一撃で10人からを容易く殺すだろう。
これは東も慌てるな。
俺は広場の周りをぐるっと回る感覚で時計回りに悪魔を一体ずつ斬りつけて行く。
別に倒す必要は無い。
斬りつけて怯ませれば隙が生まれるし、隙が生まれればプレイヤーがトドメを刺してくれる。
とりあえず今広場に集まった分を始末する。
北海のバランス調整は見事だと思った。
悪魔はそこそこ遊んでいるプレイヤーが5人居ればひとまず何とかなるし、悪魔を倒すまでプレイヤーは数回倒される。
プレイヤーを倒せば悪魔にもポイントが入る仕組みなので悪魔側も損はない。
しかもログアウトもイベント終了までの長期ログアウトではなく今日のみなのでそんなにハードルは高くない。
「伊加利さんのお父さん!」
そんな事を考えているとプレイヤーの集団から俺を呼ぶ声がする。
「ああ佐藤君か…、それと田中君と鈴木君だったね」
「はい!今日はお一人ですか?」
「伊加利は?」
「もしかしてやり過ぎのペナルティって…」
「ああ、千歳だ。
昨日のプレイヤーがスタッフ狙いばかりだった事にキレてな…」
「ああ…、伊加利さんらしいや」
「アイツ、普段大人しめなのにブチギレると怖いんだよな」
「ああ、本人気付いていないけど運動会の準備で中々動かない女子数人にキレてな…」
「ああ、キレられた女子達は思い切り泣かされていたよね。高橋さんなんて咽び泣きながら謝っていたけど伊加利さんは無視して1人で準備していたよね」
アイツ…本当に学校で大丈夫か?
…千明と話しておこう。
「あ、それは良いんだ。どうしてこの状況になったか説明出来るか?」
「それは僕達がスタッフの人達に守るから一塊になってと言いました」
「散らばると助けるの大変だしな」
佐藤ぅぅぅぅっ!!
「なあ、このプレイヤー達から悪魔が出る事を想定していないのか?」
「しましたよ!したから僕達はプレイヤーの皆さん一人一人に「悪魔のタマゴ」を持っていませんよね?スタッフさんを襲いませんよね?とちゃんと聞きました」
あ…頭痛ぇ…。
「…それを信じたのか?
いや、そもそも何でスタッフもプレイヤーも君達の言う事に従ったんだ?」
「それは僕達がこうやってベテランプレイヤーの伊加利さんのお父さんと親しく話しているからです!」
「特別枠、ベテラン枠の名前出したら一発だったよな!」
「本当、皆が頼ってくれるから俺らがやらなきゃって気になったぜ!」
佐藤は「えっへん」と胸を張って田中と鈴木もうんうんと頷く。
東ぁぁぁっ!!
やっぱり記憶消した方が良かったんじゃないか?
酷い話になっているぞ!
コイツら…本当に千歳と同じ14歳か?
親バカとは思いたくないがツネノリが14の時はもう少し思慮深かったし落ち着いていたぞ!
俺が呆れていると全方位からまた悪魔が攻め込んでくる。
その数は15体だった。
「今更スタッフの避難は出来ない。何とか守り切るんだ。
周囲のプレイヤーから悪魔が出たら躊躇なく倒せ!「タマゴ喰い」を持ったプレイヤーが率先して倒せ!」
田中が「俺、「タマゴ喰い」持っています!」と言って刀身を見せてくる。
「よし!根性入れて頑張ってくれ!」
「「「はい!」」」
俺はまた時計回りに悪魔を狙って動く。
打撃に弱い悪魔には大砲がよく効いていたので無視をしてとにかく高速移動で走る事をやめない。
「俺、そのうちバターになっちまうんじゃないか?」
なんてくだらない事を考える余裕が出始めた頃、佐藤の背後にいたプレイヤーが悪魔化をする。
「背後に悪魔だ!」
多分悪魔化したプレイヤーは佐藤達を今回の要だと思ったのだろう。
他の強そうなプレイヤーや弱いスタッフを狙わないでフルスイングで殴りかかった。
申し訳ないが、これが千歳やツネノリなら飛び出して守るのだが、死なない佐藤達だと見守ってしまうし、その後からゆっくり悪魔を倒せばいいやと思ってしまう。
「何!?」
だが悪魔の拳は佐藤を捉えたが振り抜けなかった。
「田中君、鈴木君、僕先に行くね」
そう言った佐藤が悪魔化をする。
今日の配布で「悪魔のタマゴ」を渡されていたのか!?
「田中君、「タマゴ喰い」貸して」
そう言って佐藤は田中から「タマゴ喰い」を借りると殴りかかってきた悪魔の胸に刀身を突き立てる。
随分と懐かしいパキィィィンと言う綺麗な音の後に悪魔は粉々に砕け散った。
今度モノフの所に顔出そうかな。
そんな事を考えてしまう。
その後の佐藤無双は凄かった。
何処にこんなバトルセンスがあったのかと言う戦い方で他の悪魔を圧倒していく。
跳んで殴りかかってから抱きついての「爆裂」は相当なもので他の悪魔は次々と怯まされる。
そして倒れた所を他のプレイヤーが止めを刺す。
そんな時に聞こえてきた北海のアナウンスは150体目の悪魔が討伐されたと言うものだった。
後30…、ツネノリはどうしているかな?
「楽しい…」
「佐藤?」と鈴木がどうかしたか?と聞いている。
「魔物化最高だよ!!楽しいよ!!このパワー!この身体能力!!
田中君、鈴木君も変身しなよ!!」
何!?この3人が悪魔化?
北海め、ランダムに配らないで顔見知りにも撒いたのか?
田中と鈴木も「悪魔のタマゴ」で悪魔化をすると目の前の悪魔に向かって殴りかかる。
俺は他の悪魔を倒すフリをして距離を取りつつ他の装備の整ったプレイヤーにも声をかける。
「あの3人、今はこちら側だが怪しい動きを見せたら叩けるように意識しておいてくれ」
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