第136話 ジョマ、君と千歳の絆も相当なものだよ。

ジョマの活躍で今千歳は眠っている。

この力は既に生まれたての神を凌駕すると思った。


「大丈夫かい?」

「ええ、まだ何とかね」


「それではルル達の元に連れて行こう」

僕はそう言って千歳を抱きかかえる。


ん…、視線が気になるな。

「抱きたいかい?」

「ええ、出来たら」


「頑張ってくれたからどうぞ」と言って千歳を渡す。


「ああ、千歳様!さっきはとても強くて素敵でした!」

そう言いながらジョマは頬ずりをし始める。

色々言いたいことはあるが僕は放置する事にする。


「ルルの所に行くよ?」

「ええ」


そして僕たちはちょっとした空間に作ったルル達の家を複製した場所に到着する。


「東!千歳は無事か?」

「ああ、ジョマがうまくやってくれたよ」


「ジョマ、ありがとう」

「いいえ、どういたしまして。

でも危なかったわ、千歳様が神如き力にこれ以上目覚めていたら神々の戦いレベルでガーデンは滅んだかも知れない」


「なんと…千歳が…」

「さあ、中に入って処置をしてしまおう」


そして僕とジョマで処置をする。

僕たちの手の光が千歳を覆う。


「何をしたんだ?」

「怒りを鎮めてキヨロスの影響を取り除いた。

そして神如き力を僕とジョマで封印したよ。

これで一先ずは終わりだ。

ただ、記憶の混乱があると思うからここで少し穏やかな時間を過ごさせたい」


「でもここ、普通じゃないから直ぐに違和感に気付くわよ?」


「それならこんな案はどうだ?」

ツネジロウの案はイベントがダメになった事、ジョマと千歳の勝負は持ち越しになり、ツネノリが不在なのは日本に遊びに行った為、千歳がここに居るのはツネノリにばかり構う常継と千明に腹を立てて家出をしてきた事にすると言うものだった。


「悪くないね」

「うむ、まあその線が良かろう?」


そんな訳で僕とジョマで偽の記憶を千歳に与えて逆に千歳の解釈を受け取ってツネジロウとルルにも渡す。

後は千歳が起きるのを待つ事にした。


起きてきた千歳に都合の良い状況を説明すると段々と納得をしてきた。


会話の中でツネジロウがゼロガーデンから出られない話になり状況を説明した所で千歳が気持ち悪さを訴えた。


「嘘、気持ち悪い。それだけじゃないよね東さん?」

そのまま千歳が続ける。


「金色のお父さんがゼロガーデンを離れられない理由があるよね?」


!!?

いつもの千歳の感覚か?

それとも…


「ジョマ?」

「ええ、看破の力?成長が止まっていない?」

僕は心でジョマと話す。


「金色のお父さんの秘密…、ルルお母さんも知らないんだ…」


「秘密だと?千歳?何を言っておる?」



「違う、そもそも違う。

イベントも終わっていない。

この記憶も作られた記憶?」


マズい、不信感から怒りに変わられると何が起きるかわからない。



「千歳…、さすがだ。説明しよう」

「東さん…、私…なんか変だ…」


「ジョマ、補助に回ってくれないか?

千歳が情報量や成長に振り回されて壊されないように千歳を支えてあげてくれ」


「ええ、今すぐやるわ。

千歳様、私の手を握りなさい」

千歳が言われた通りジョマと手を繋ぐ。


「ああ…、ジョマの手冷たくて気持ちいい。

変な感覚も気にならないよ」


「よし、千歳。何から話す?何から聞きたい?予定変更だ。ルル、ツネジロウ。千歳に全てを伝える」


「致し方無しか…」

「わかった」


「何から?何だろう?じゃあここは?本当にツネノリ達の家なの?」

「いや、ここはゼロガーデンの人の立ち入れない領域に作った複製の家だよ」


「凄いね。匂いから雰囲気から全部本物だったよ。この状況は?」


僕は千歳が神の世界に赴いた事で神如き力を得てしまった事、その力を奮い続けると千歳自身が壊れてしまう事、それを防ぐ為にジョマと協力して千歳を止めた事。

千歳から怒りを取り除く為にこの場所に連れてきた事を説明する。


「神隠しの子、神如き力…。神殺しの力?私の怒り…、何に怒っていたんだろう?」


「順を追って説明するよ。

千歳、今朝の事は覚えているかい?

キヨロスから「革命の剣」について聞いたよね?」

「うん、覚えているよ。

あの後、ジョマが来てベッドに押し倒されたよね?」


「何!?私の娘に何をする!」

「ふふふ、愛情表現です」


「何もなかっただろうな?」

「たった5分だよ、何もないよ」


「いや、千歳…、お前はさっき5分を無限に引き延ばそうとしてたんだぞ…」

「それも神の力なんだ…凄いね」



「話を戻そう。千歳が説明を受けた時「意志の針」と言うアーティファクトを受けたよね?

その時に千歳はキヨロスが与える以上の情報を受け取った」

「うん、使い方からどんな気持ちで使ったかまでわかったよ」


「そこだ。それがまず神如き力だ。その力によって千歳はキヨロスの怒り、アーティファクトによって変貌を遂げた性格を読み取って引かれてしまった。感化という奴だね」

「感化…、王様みたいになったんだ…」


「だから千歳様が千歳玉に目覚めたのかも知れないのけれどね」

「え、ジョマまで千歳玉って呼ぶの?」


「あら、可愛い名前だと思うけど?」


「そしてプレイヤーの行動、スタッフを狙った行動に怒った千歳は神如き力を発揮して暴走をする」


「暴走…?」


「千歳、君は3人のプレイヤーに拷問をした。

本来痛覚のないプレイヤー達に痛覚を付与して痛めつけて、ツネノリが到着するまでの5分の間に時間操作をしてホテルの中だけ時間をかなり遅くなるようにした。

覚えているかい?」


「…まだあんまり思い出せない。

でもプレイヤーに怒ったんだとするとよくわかる。

ジョマのイベントはスタッフを襲うだけのものではないの。

仲間であるプレイヤーの中から急に悪魔が出てくるスリルと、街中でスタッフを守って戦うギリギリ感、そして仮にスタッフが死んでもサードに連れて行くつもりだった。

それなのにスタッフだけを狙うなんて卑怯だもん!」


「千歳様!!」

千歳の意見はジョマの思う通りにだったのだろう。

嬉しさから千歳に抱きつく。


「ジョマ!いちいち私の娘に抱きつくでない!」

「こうした方が千歳様の負担が減るんです〜」


「嘘を言え!嘘を!!」


「千歳…」

ツネジロウが口を開く。


「お父さん、わかるよ。お父さんの言う事。

お父さんもわかるよね?私のしたい事?」

「ああ」


「ツネジロウ?千歳?」

ルルが訝しげに2人を見る。


「プレイヤーの事はこれ以上東さんにもジョマにも聞かない。

東さん、サイバのホテルはまだ何もしていない?」

「ああ、千歳を連れてきた時のままだ、だが3人に関してはログアウトをさせたよ」


「東さん。ジョマ、お願いきいて?置物でもいいから3人のプレイヤーも私が痛めつけた時の姿で置いておいて」


「千歳様?」

「千歳、何を言う?お前はそう言うものが嫌いであろう?」

「ありがとうルルお母さん。でもダメなの」


「ああ、千歳。責任を持って受け止めなさい」

「うん。ちゃんと自分のした事に目を向ける。逃げないよ。

お父さんは金色でもお父さんだね。ありがとう」


「だが千歳?」

「私がやるわ」

僕の制止を無視してジョマが手を出す。


「その代わり私がショックだった事を言わせて」

そしてジョマが千歳との戦闘で起きた会話を伝えた。


「私が私を責めて偽って魔女になる…。

そんな事を…、ううん。多分怒っていた時の私なら言うと思う。

ごめんねジョマ。ありがとうジョマ」

「千歳様…」


「ジョマの嫌いな言葉を使って傷付けてごめんなさい。

そして止めてくれてありがとう」

「ううん、今の千歳様を見たら止められて良かったと思う」


そして僕たちは千歳を倒してここにいる事までを話す。

先程封じた神如き力がまだ成長している事を伝えてこの先について話し合う。


「危険ならいらないかな。

東さんは昔の話だと神様の力について思い悩んで傷付いたんだよね?

私もそうなるかな?」

「そうだね。千歳も困るだろうね」


「千歳様が神様になって全てを捨てる覚悟があればいいけど、私も嫌だし千歳様も嫌でしょ?」

「全てを捨てる?」


「ええ、神如き力なんて持ったって隠して生きるのは息苦しいし、もし友達に知られたらお願い事をされるわ?

叶えれば最初は感謝されるけどエスカレートもするし断れば掌返されて悪く言われる。

だから神は基本的に人の願いを叶えないのよ」

「そっか…、神様って大変なんだね」


「そうよ」

「そうだよ」


「一気に封印するのが難しければ段階的に封じてはどうだろうか?」

ルルが提案をしてくる。


「それと力の発露が見られたら視覚的変化が欲しい所だな。

千歳がそれに気づいて自分を諫めることが出来れば幸いなのだが…

アーティファクトでも作るか?」

「ルルお母さん、わたし学校にアーティファクトつけて行ったら先生に怒られて取り上げられちゃうよ」


「じゃあこうしましょう?」

ジョマが千歳の髪に手を当てる。

そうすると千歳の髪が赤く輝く。


「わっ!?髪が赤い!!?」

「ジョマ!何をした?」


「神如き力の発露具合によって髪を光らせるのよ。

千歳様は黒髪でしょ?

それが茶色に変わって赤くなるの。

これなら学校でも茶色ならさして気にならないし自分でも気付くでしょ?」


「まあ、アーティファクトよりは問題にならないかもね。ありがとうジョマ。

でも赤くなったらどうやって押さえ込むの?」

「どういたしまして。

使わないように意識するのよ、怒っている時に怒りを抑えるように…そう感情なんかと同じ意識ね」

そう言いながらジョマはニコニコと千歳に頬ずりし、自身の案が却下されたルルは不服そうだ。


「でも家ではルルお母さんのアーティファクトも付けたいなー、ダメ?」

「何?まったく…千歳もツネツギに似て甘ったれた所があるのだなぁ?ジョマのお陰で髪が光るのならいらなかろうに…。でもまあ良かろう。

後は怪我などしないように自動で発現する防御壁でも付けるかの?」


千歳はルルの不服を感じ取って甘えてみる。

「ルル、地球でアーティファクトを使うのは地球の神様の許可がいる。

神如き力に反応するアーティファクトなら問題ないが、防御壁はダメかも知れないよ?」


「何!?せっかく作るのに勿体ない…」

「ルルお母さん、私指輪がいいなー。可愛いやつにしてね!」


「むぅ…?お前は可愛いのぉ。任せておけ」

「ありがとう!!」

千歳はニコニコとルルに微笑みかける。

血の繋がりが無くてもルルと千歳は親子のようだな。


あ、ジョマが悔しそうにルルを見ている。


「ジョマ、君と千歳の絆も相当なものだよ」

心で語りかけるとジョマはニコニコと微笑んだ。



「さてと、金色のお父さんの話をしよう!」

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