第134話 千歳様が言っていたもの。私はすごい神様だって。
千歳様と居ると不思議な気持ちになる。
自然と謝罪の言葉が出てきて、普段なら許せない神の介入すら許せるようになる。
それは千歳様だからなのか、千歳様と居て私は進化をしたのだろうか?
私が何の神かを知っているのは千歳様と地球の神様だけみたいだ。
自分の事だ、自分が何の神なのか興味がある。
ひょっとしたらこの介入もそれを知りたくてと思われているかも知れない。
でも違う。
私は純粋に千歳様を助けたい。
千歳様はそう…私には居なくてはならない存在。
私の太陽なのだ。
ルル様とツネジロウ様は先に東が用意した部屋に置いてきた。
私と東はサイバのホテルに向かう。
ここは今千歳様が時間操作をして永遠に近い時間で悪魔化したプレイヤーを怒りに任せて痛めつけ続けている。
降り立つ前に東とホテルの中を見る。
「仕方ないよね?見分けつかないんだよね?自分だけが痛い目に遭いたくなくて周りを巻き込んでいるんだよね?」
千歳様が喋るたびに刺さった釘は爆発を起こし、新たな釘が補充されてまた悪魔に刺さる。
「痛いんだよ!やめてくれよ!!」
「悪かったよ!反省しているよ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
「うん、嘘しか言わないね。
痛みから逃げたくて必死なだけだよね?
それにしても誰なんだろうね?
サイバの人達を襲いたかったのは…
あ、もしかして最初に心臓と脳みそをズタズタにされたプレイヤーかな?」
「そ…そうです!」
「そうですよアイツですよ!!」
「だから俺達…ぎゃっ!?」
必死の悪魔達の身体がまた爆ぜる。
「うん、また嘘だね。
これで痛みから逃げられる。
最初の奴のせいにしよう。
何とか説得しなきゃ。
って酷いね」
「え?」
「何で?」
「考え…」
「何でだろう?わかるんだよね」
千歳様はその間も拷問の手を止めない。
こんなのは千歳様じゃない。
「マズいな、千歳は読心の能力まで目覚め始めている」
「普段なら流石千歳様って喜ぶけど喜べないわ」
「ねえ?連帯責任って知っているよね?
私は容赦しないからね」
そう言ってリズミカルに釘は爆発して新たな釘が刺さっていく。
「そろそろ行こう」
私は東の声に合わせて千歳様の所に降り立つ。
「東さん、ジョマ?どうしたの?」
「千歳」
「千歳様」
「千歳、やり過ぎだよ。もうこのプレイヤーは解放しよう。君は何に…そんなに怒ってどうしたんだい?」
「東さん、コイツら酷いんだよ?
サイバの人達を襲って楽しみたいんだって…許せないよね?
だから痛みを教えていたの。
恐怖を植えつけたの。
でも構わないよね?
コイツらは明日になれば生き返るんだからさ」
そう言いながら千歳様が悪魔達へ手を止めずに爆破を続ける。
「やめて千歳様!」
私は千歳様に抱き付く。
「東!強制ログアウト!」
その声で東が悪魔達をログアウト…出来ない?
「逃がさないよ。タツキアでしたみたいにログアウトなんてさせない。
ジョマ、離れて?私はコイツらをやっつけてサイバの皆を守らないと」
私は心で東に話す。
「あなたはソイツらを守りなさい。
これ以上千歳様が人を傷つけるのもその事で傷つくのも見たくない」
「わかった。君1人でやれるのかい?」
「やり抜くわよ。
千歳様が言っていたもの。私はすごい神様だって」
「千歳様、もうやめて?」
「何で?ジョマはこう言う時に手出ししないし手出しを嫌がるでしょ?」
「普段ならそうね。
でも今の千歳様はダメ。
後で傷つくもの、そして戻れなくなる」
「いいの。
ジョマも言っていたでしょ?
自身を責めて責めて相手に合わせるって。
傷ついても私は私を変える。
周りから魔女と呼ばれてもガーデンのみんなを守る」
私はただショックだった。
私が魔女と呼ばれる事にショックを受けて誤魔化すために自ら魔女になった。
それを千歳様がやると言う。
そんな事はダメだ。
私の太陽は眩しく明るく輝いていて欲しい。
「やらせないわ!」
私は千歳様に抱き着いたままそう言う。
「ジョマ?何でわかってくれないの?
私は戦ってもジョマを退かせてソイツらに思い知らせるんだ!!」
そう言うと千歳様の周りに光の剣が二本現れる。
私はとっさに距離を取る。
悪魔達に刺さっている釘もそのまま残っている。
ツネノリ様の横に漂う玉に釘、そして剣…。
物凄い出力だ…
「神如き力を得たからって神に立ち向かうの?」
「神如き力?何それ?私のこの力は神殺しの力だよ」
「神殺し?」
千歳様の口から不穏な単語が飛び出してきた。
「今朝、王様から「革命の剣」について教わった時に神様の倒し方が頭に入ってきたの。
王様は対神様戦も意識していたんだと思うよ」
それが本当なら困った話だ。
「あの王様は…、無精してアーティファクトで情報伝達するからこんな事になったわ」
「ジョマ?邪魔をしないで。
私は心からジョマが好きで尊敬しているの。
攻撃なんてしたくないよ!」
そう言う千歳様だが発せられる殺気には遠慮がない。
「あまり千歳を刺激するな!」
「東は黙ってそこの三匹を守りなさい!」
東が直接心に語りかけてくる。
「東さん、退いて?東さんが邪魔をしているからだよね?釘が爆発しないよ?」
千歳様が東の防壁に気付いて不満げな声を出す。
千歳様が光の剣を東に向けて飛ばして東が苦しそうにそれを防ぐ。
あの東が苦しそうにする?
東の自己評価は低いが本気になればそこら辺の神なんかより遥かに強いのだ。
その東が苦しむなんて…
神隠しにあった人間の力
東の世界、アーティファクトに触れた力
神を殺す事を意識した人間の力
そう言うモノが合わさった千歳様はまだ不老不死には目覚めていないので歳も取れば死にもするが限りなく神に近い存在なのだ。
だが下手をすればそう言う力に目覚める可能性もある。
その前に千歳様を止めないと本当に元の千歳様に戻れなくなる。
「千歳様!」
私は千歳様と同じ形の剣を作り出す。
「ジョマ?邪魔をするの?なんでよ!!」
その声と共に光の剣が恐ろしい速度で飛んでくる。
私はソレを防ぐのではなく打ち落とす事にする。
ドッグファイトと言う奴だ。
何とか千歳様の背後を取って打ち落とす。
千歳様も一度打ち落として終わりではなく直ぐに浮上させて飛ばしてくる。
狙い通り千歳様は私の剣に狙いを定めた。
今の考えでしか千歳様は止められない。
力こそ神に肉薄しているが千歳様は人間なのだ。
そこに勝機を見出す。
「くそっ!ジョマは凄い!創造神でもないのにこんなに強い光の剣を作るの!?」
「千歳様、私はまだ自分を創造神だと思っているわよ!その証拠に…ホラ!」
そう言う私は3本目の光の剣を出す。
その剣も戦闘に参加をさせる。
「負けるかーっ!!私がガーデンの皆を守るんだ!!ジョマも東さんもみんな助けるの!!」
そう言った千歳様が3本目の剣を精製する。
そして3本目も遜色なく飛ばす千歳様。
本当、普段なら「流石千歳様」って言って抱きつきたいほど素敵だわ。
でも今はダメ。
今の千歳様はダメ。
私が取り戻す。
3本目の剣同士のドッグファイトが佳境に差し掛かる。
私は容赦なく4本目を出す。
「まだ出るの!?」
千歳様が4本目を出す。
「うっ!?」
でもとても苦しそう。
そう、私と千歳様の違いは人間と神の基本スペックの違い。
アーティファクトの使い過ぎによる昏睡を狙う。
後半日もしたら限界突破をされていたかも知れないが今の超進化状態でもここまでは無理だ。
私はすかさず前に出て千歳様の腹部に掌底を当てる。
その瞬間に光の剣が揺らぐ。
私はそのタイミングを見逃さずに私の剣で全て叩き折る。
「ぐっ!!?」と言う声で千歳様が倒れ込む。
「東!」
「やってある」
そう言うと三匹の悪魔はログアウトしていてホテルのスタッフ達は皆動きを止めていた。
「時間停止とログアウト、お見事だわ。なんかこうして2人で作業をするとガーデンを作ろうとしたあの頃を思い出すわね」
「ああ。懐かしいね」
東は心にもない返事をする。
「じゃあ、次に進めましょう」
私は懐かしさに身を任せたかったが今は目の前の千歳様が第一だ。
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