第124話 みんなで色々試そうよ!!

暫くしてお父さん、お母さん、そしてジョマが帰ってきた。

ジョマの目は真っ赤で本気で泣いてしまったらしい。

左手に持っているハンカチは私も小学生の時に愛用していたペンギンのキャラクターグッズだ。


「遅くなりました…」

「お帰りなさい道子さん!ありがとう!!!」


「「「え?」」」

帰ってきた3人は急にありがとうと言った私に驚いてこちらを見る。


「行っている間に東さんから聞いたよ。駅ビルの食品街って高いんでしょ?しかもそこのフルーツが美味しいって、だからわざわざ暑いのに買いに行ってくれたんでしょ?」


「千歳さん…」

そう言ってジョマが泣き出す。


「どうしたの?何で泣くの?」

「私、昔から何をしても空回りばかりで、今日も折角だから千歳さんに美味しいフルーツを食べて貰いたくて駅まで行ったけど、伊加利副部長のお金で買う事とか忘れていたし、東部長のおすすめのケーキより高価なフルーツを買ったらイヤミかと気になって…。しかも駅まで行って待たせてしまったら皆に嫌われるかと思って…、それなのに千歳さんがありがとうって…それが嬉しくて…、初めて言って貰えたから」


「大丈夫、お金は僕も出すから気にしないで。折角の日だから美味しく食べたいよね」

東さんが場をうまいこととりなす。


千歳、これでいいかい?と頭に声がする。私はありがとうと返す。


「部長…いいんですか?」

「ああ、僕も仕事人間でお金をあまり使わないからね。こういう時に使おうと思ってね」

そうしてまたジョマは泣き出す。


「千歳の言った通りね」

お母さんが横でこっそり話しかけてくる。


「ああ、普段の俺なら冗談めかして「時間がー」「お金がー」って言ってしまう所だった。千歳には感謝だな」

お父さんには本当に釘を刺しておいてよかった。


「さあ、北海さんの買ってくれてものを見てみましょう」

お母さんが明るく言う。


「そうだな、結構な量だったんだが何を買ったんだ?見てもいいかな?」


「はい…恥ずかしいですけど見てみてください」

まだ涙声のジョマがそう言う。


私は何があっても前向きに、好意的に捉えてジョマに感謝をすると決めて待ち構える。

そう、私の読みが正しければ何が起こっても不思議ではないのだ。


まず最初の袋から出てきたのは桃とブドウとメロンだった。

それを見たお父さんが小さな声で「東が金を出してくれて良かったー」と言っていた。

多分ケーキの何倍もするだろう。


私は「美味しそう!!私桃が好きなんだ!!嬉しい」と喜ぶ。


「千歳様…本当ですか?」

そう言ってジョマがパァっと笑顔になる。

また様になっていたがこの際だから気にしない。

東さんにも気にしないでと告げる。


ここまでは想定内。多分この先はもっと厳しくなる。でもこの態度も私のチェック項目の一つなのだ。


お父さんが「次の袋は…」と中を見る。


「ん?何だ?何でこれが?」

そう言って出てきたものは塩辛だった。


「塩辛?ケーキに?」と私が聞くと「やっぱりダメですか?」とジョマが泣きそうな声で言う。

「ううん、ダメって言うより何でそれを選んでくれたのか知りたかったの」


「ああ、それはケーキの甘さとか美味しさを味わう為にも塩辛のしょっぱさとか生臭さがあると引き立つと思って」

なるほど。


「独創的だね!大丈夫だよ道子さん!お父さんは塩辛が好物だから喜ぶよ!!」

「本当ですか!!?良かったぁぁぁ」


「千歳!!?って言うかこの塩辛有名どころの滅茶苦茶美味しい奴じゃないか。日本酒と一緒に食べたら腰抜かすほど旨いぞ」


お父さんはそう言いながら次の袋を開けている。

「まあ、大体匂いで想像がつくんだがな…、やっぱりか」


次の袋からは唐揚げが出てきた。


「道子さん、唐揚げだね」

「はい。よくクリスマスとかチキンとケーキと言いますし。チキンの脂っぽさとケーキが合わさったら喜んでもらえるかなと思いました」

そう言うジョマの顔にはイヤミや意地悪さはない。本当に真剣に悩んだのだろう。


「すっごく色々考えてくれたんだね!唐揚げは東さんの好物だから期待できるかも!」

「え?東部長の好物だったんですか!やった!」


「え…、う…うん。しかも駅ビルの唐揚げってあの金賞がどうのって言う有名店のだよね?」

「はい!わざわざ店員さんに拝み倒して揚げてもらいました!」

やはりだ…努力の方向性と言うか本人は良かれと思って努力をしている。


「袋はあと二つか…、こっちは何だ?」

「あら、湯葉ですね」


「はい!湯葉のふわふわをトッピングしたらケーキの柔らかさが引き立つと思ったんです!」

「道子さん、お母さんは最近体重を気にしているから嬉しいトッピングだよ。湯葉ならカロリーも少ないし!」

「千歳!恥ずかしいから言わないで!」


「ふふふ、嬉しいです。良かった!」

本当にジョマは嬉しそうな顔をする。



「よし…最後の袋だな」

そう言って出てきたのはケーキだった。


「ケーキ?」

「しかもこれ駅ビル一番人気の店で売っているデコレーションケーキだね」

「これって凄く高いのよね?」

「…前に千歳にねだられて何とか断った奴だな」

「お父さん…、よくも断ってくれたね」


これは正直ジョマの意見を聞かないとわからない。


「ご…ごめんなさい」

そう言ってジョマがまた泣きだす。


「道子さん!どうしたの?」

「…え?またイヤミって思われたんじゃないかなって思ったら悲しいしとにかく謝らないとって思って」


「イヤミ?このケーキが?でも私達道子さんがこのケーキを買った理由を聞いていないから謝られても困るよ」


「理由…?」

「そうだよ、それにまたって何?」


「昔、似た状況があって、その時は理由なんて説明する間もなく「イヤミだ」「意地が悪い」って責められて…」

「それで、どうしたの?」


「自分を責めて責めて責め抜いてからイヤミな女を演じました。そうしないととてもじゃないけど居られなかったんです」


「そうなんだ…。それで、ケーキの理由を聞いてもいい?」

「言っても良いんですか?」


「いいと言うか聞きたいよ。何で道子さんはケーキを買ってきたの?」

「それは…きっと皆さんとトッピングを楽しんで食べるケーキがとにかく美味しくて、有名店の高級ケーキよりも美味しいだろうなって思ったら買ってしまいました」


「あ、それで最後に「うーん…高級ケーキも美味しいけどこっちの方がいいね」ってみんなで言いたかったんだ!」

「はい…」

そう言ってジョマが真っ赤になって俯く。

純情な反応がとにかく見ていて可愛らしい。

何年も生きている神様なのだがどう見ても私くらいの少女にしか見えない。

こうなってくると私のイメージは大分固まってくる。

傷を癒しに地球の神様の所に身を寄せた理由も何となくわかる。


「じゃあ、食べてみようよ!!」

「え?良いんですか?フルーツ以外は塩辛と唐揚げと湯葉ですよ?」


「道子さんは変だと思うの?」

「私は変だと思わないですけど皆さんは嫌かなと…」


「大丈夫、東さんもお父さんとお母さんも食べないで拒否する人間じゃないよ!みんなで色々試そうよ!!」

そう言うとジョマが本当に、今日一番の笑顔で嬉しそうに頷く。


そして食べたケーキの味を私は一生忘れないだろう。

それは夢の中に居るお父さん達も同じだろう。

ツネノリではないが身体が覚えるように心で覚えていると思う。


「塩辛は滅茶苦茶旨いな…だがケーキと合わせるなら量の加減が難しいな」

そう言いながらお父さんはモリモリ食べる。


「うん、唐揚げの塩加減が悪くない…。量は食べられないけど悪くないね」

東さんもフリなのか本音なのか分からないけど食べてくれる。


「甘いの好きだけど甘すぎると辛いのに湯葉が乗っていると食べやすいかも…」

お母さんもそう言いながら食べる。


私はフルーツケーキを存分に楽しむ。

ちょっとフルーツが強すぎてケーキがぼやけた気がしたけどそれもご愛敬なのだ。


「道子さんはどれが一番好きだった?」

「…千歳さんと…皆さんと食べられただけで満足です」

そうは言いながらどれもしっかり食べていた。


「じゃあ最後に高級ケーキも食べてみようよ」

私はそう言って皆に切り分ける。

高級ケーキは高級ケーキで完成された美味しさがあったが、塩辛や唐揚げのような可能性が無い。


「あ、なんかわかったかも」

「千歳さん…?」


「道子さんって、可能性って言葉好きでしょ?」

「え…はい」


「勝手に唐揚げなんてケーキに合わないよって決めつけられて議題にすら上らないとか嫌でしょ!?」

「はい、何でも試したいです」


その後、ちょっとしたモノを試したがやはり思った通りの結果になった。


「私、宿題を書ききっちゃうから皆で片付けして貰っていてもいい?」

「…仕事場に勝手に来て好き勝手振舞うってなんだお前は…」

父さんが苦々しい顔で私を見る。


「常継、上司命令だよ」

「パワハラクソ上司!!」


「じゃあ、ゴミ捨てを私と北海さんでやりましょう。千歳、すぐに書き終わる?」

「うん、筆が乗ってきたからね!!道子さん!待っていてね!!」


「はい、楽しみに待っていますね」

そして私は宿題を書ききった。

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