第123話 段々とわかってきたかも知れない。後は確認するの。

「こんにちは!」

私は東さんの指示に従って開発室の扉を開ける。


「やあ、こんにちは」

「こんにちは東さん!」


「なんだ?また遊びに来たのか?」

「千歳、あまり頻繁にお父さんの職場へ遊びに来てはいけないのよ?」

お父さんとお母さんがそう言う。

これも東さんに頼んだ。

このお父さんとお母さんも本物だが、ジョマに疑問を持たないように本質だけの存在になっている?

2人は夢を見ている状況に近いのだ。

ちなみにここでの私はツネノリを知らない事になっている。

ここでは「ゼロガーデン」や「ツネノリ」後は「アーティファクト」なんかは禁句だ。



「今日は東さんに頼んで遊びに来たわけじゃないもの。

ここで待ち合わせなの」


「彼女からは聞いているよ。呼んであげるよ」

東さんはそう言って電話を使ってジョマを呼ぶ。


「こんにちは…、千歳さん」

しばらくするとジョマが部屋に入ってくる。

前もって東さんから日本でのジョマを聞いていたからわかったが、何も知らなければジョマとは思えない姿だ。


「こんにちは、道子さん!」


「お前…、北海さんに何を頼んだんだ?」

「え?夏休みの宿題だよ。一個難しい課題が出ていてさ」


「俺に聞けばいいだろ?」

「お父さんやお母さんじゃダメなの。宿題に両親以外の大人の人にアンケートを取って将来の私にってタイトルのまとめを作らなきゃいけないんだから」


「なんでまた学校ってのは、そう面倒な事をさせるんだ?」

お父さんが辟易と言う。普段と何も変わらないお父さんの姿。


「千歳、あなたそれで北海さんに頼んだの?」

「そうだよ。この前遊びに来た時にメールアドレス教えてもらって何回かメールしてね」


「やだ、私ってばそんな事も知らなくて…、ごめんなさい北海さん。

忙しいでしょうに…」


「いえ、千明様。お気になさらないでください。

千歳さんが、私なんかを指名してくれて嬉しいんです!」

やっぱりだ。前にもジョマは「なんか」って使った。それを聞いた時に私は違和感を覚えた。そして今日も「なんか」を使った。


「やった!ありがとう道子さん!」

「こら、千歳」

それでも父さんが不満を漏らす。


「お父さんは私が道子さんに頼むの嫌なの?」

「そうじゃない、彼女は忙しいだろ?

それを中学生の宿題で呼びつけるなんて…」


「じゃあ伊加利家に適任の人っている?

御代伯母さんは家庭に入ったでしょ?

春日井家には?居ないでしょ!

私は同じ女性で仕事をしている道子さんに聞きたいの!」


「むぅ…、それなら仕方ない。

済まないね北海さん。

このお礼はいつか必ず」


「いえ、良いんですよこれくらい。

本当、頼って貰えて嬉しいですから。


じゃあ、千歳さん。はじめましょうか?」


ジョマの仕切りで宿題が始まる。

ちなみにこの宿題は冬休みにあると友達から聞いていたもので詳細は知らない。

できる事ならこの記録は持って帰って冬の宿題に活かしたい。


「仕事の部署を教えてください」

「企画部に在籍してます」


「それはやりたかった仕事ですか?仕方なくやっている仕事ですか?」

「やりたかった仕事です」


「そうなんだ!前に東さんが道子さんは開発も出来る人だから開発部でもやれるのにって褒めていたよ!」

「あら、そうなんですか?嬉しいです。

けど私がやりたいのは企画ですから。東部長には申し訳ありませんが…」

ジョマが本当に嬉しそうに、でも申し訳なさそうに謝る。


「だって、東さん」

「これは残念だね」


「部長、嘘でも嬉しいです。

ありがとうございます」

そう言ってジョマは笑う。

その顔はとても嬉しそうだ。


「じゃあ、質問に戻るね。今の仕事の何が好きですか?何が嫌いですか?」

「難しいですね…。

好きな事は自分の企画で東部長達が作った世界がより一層輝く事ですかね。

嫌いな事は企画をしても結果が出ない事や、企画に世界が耐えきれなくて企画倒れになる事ですかね?」


「そうなんだ。道子さんにも嫌なこととかあるの?その時はどうやって怒るの?」

「嫌な事は沢山ありますよ。

嫌な時は…、ごめんなさい。子供向けじゃないかも知れません」


「え、私もう14歳だよ。

だから平気だから教えて欲しい!ダメ?」

私は甘えるようにジョマの目を見つめる。


「千歳さんってば…もう、敵わないなぁ」と言って微笑んだジョマは「自分を責めて責めて自分を嫌になってから、周り好みの自分を演じます。自己暗示ですかね?」と教えてくれた。


「そうなった事ってあるの?」

「もう沢山、今までも他所で企画の仕事をしてきて失敗したり企画が製作者の好みに合わなくて衝突なんて沢山ありましたよ」


「それでもこの仕事をするなんて余程道子さんは仕事が好きなんだね」

「え?」


「え?違うの?」

「…そうかも…知れません」


「東さんが褒めていたみたいに作る方の仕事も出来るのにそっちをしないで企画ばかりをするなんて仕事をする女だよね。

私もなれるかな?」


「大丈夫。千歳様なら出来ますよ」

そう言ってジョマが優しく微笑む。


ん?

様?


東さん!?

頭の中に東さんの声で「危ない感じだ、今はあまり刺激しないようにしてくれ」と聞こえてきた。


「ありがとう!後は私がまとめてみて文字が足りなかったら追加で質問しても良いかな?」

「ええ、構いませんよ。いつまとめるんですか?」


「今」

「今ですか?じゃあ私はここで千歳さんの出来上がりを待ちますね」


「あ、じゃあ道子さんとお父さんにお願いしちゃおうかな」

「何です?」


「俺か!?俺は仕事中だ…」

「常継、上司命令だよ」


「くっ…パワハラって知らんのかコイツは」


「お願いって何ですか千歳さん?」

「道子さん、この前ね…東さんに聞いたの。この辺りに美味しいケーキのお店があるんだって!それでね、そこのケーキは何のデコレーションもしていなくて自分で好きにデコレーションするのが流行っていて、写真撮ってネットに載せると盛り上がるんだって!!」

「お前、普段はそんな事やってないじゃないか」


「うん、お父さんもお母さんもやってないよね」

「そうね」


「道子さんは?」

「私もやってません」


「東さん…はやらなそう」

「正解だよ千歳」


「でも折角だから道子さん達とやりたいの!

それで、お金はお父さんのお小遣いから出るから、ケーキはお父さんでデコレーション用のトッピングは道子さんに買ってきて欲しいの」


「俺かよ!?」

「お父さん、道子さんにお礼」


「ふふふ、そうですね。ケーキは素敵なお礼ですね。副部長、ケーキで手を打ちますね」

ジョマが嬉しい時の顔で笑う。


「千歳、何で北海さんに頼むの。お母さんが買って…」

「千明、済まないね。仕事を頼みたいんだ」


そう言って東さんがうまく回してくれてお父さんがケーキ。ジョマがトッピングになった。


「千歳さんはどんなトッピングが好きなんです?」

「私は果物が好き」


「じゃあそれは必ず買いますね」

「ありがとう」

私とジョマはいい感じに話している。


「しかも何だこの店?クソ遠いじゃないか!」

「そうかい?歩いて15分なら問題ないだろ?」


「東め…、何でこんな店を知っているんだ?」

「常継、君は僕を開発室の主とか地縛霊と呼んでおいてよく言うよ。

開発室に常駐しているんだからこの辺りのお店には詳しいんだよ」


そう聞いたジョマが反応をする。

「東部長は、あまり帰られないのですね」

「道子さんは?」

私は自然に質問をする。


「私も仕事が楽しくなると帰らないので同じです」

そう言ってジョマが照れる。


「あら、じゃあ家に帰った時は自炊するのかしら?」

「自炊と言うほどの事は…

ご飯は炊きますがおかずは簡単なものかお惣菜ばかりです」


「それでも自炊するだけ偉いな。東なんかはな」

「僕だってやる時はやるさ」


「それはやらない奴の常套句だな。

東、仕事人間同士北海さんに面倒を見てもらったらどうだ?

開発部長と企画部のエースなら会社の側でも立派な家に住めるぞ!」

「常継…」


「あなた、北海さんが困るからやめてあげて」

「そうだよお父さん、何でもかんでもくっつけたがるなんて子供過ぎ」


「くっ、今日は風当たりが悪いな。

だが東だって今みたいに俺と千明をくっつけようとだな、あ…千歳には言っていなかった。

千明と住むように勧めたのは東なんだ」


「へぇ〜、じゃあ東さんも言われても仕方ないかも」

私は初耳のフリをして東さんに突っ込む。


「千歳…君まで…、その話はまた今度にして常継はケーキを買ってきてくれ。

北海さんは申し訳ないけどトッピングを頼むね」


東さんはうまい具合に話を逸らす。

神様同士の同棲はダメなのだろうか?


3人の出て行った部屋で東さんが私に問いかける。


「千歳、今までで何かわかるのかい?」

「んー、何となくね。後はケーキと少しのチェックかな?

この後も話しを合わせるのお願いします」


「ああ、それはやるよ。

それにしても千歳、僕と彼女の同棲なんて…」

「えー、前も言ったけど2人が並んでいる空気って気持ち悪くないからお似合いだと思いますよー」


私は形だけの宿題に戻る。

なんとなくだが、ここに書くモノもジョマを助けるものになると思うのだ。


しばらくしてお母さんが戻る。

お父さんがその後で汗だくになって帰ってきて「凄く並んでいたぞ、なんだあの店は!?」と言っていた。



あれ?ジョマが遅い。

「東さん…」

「ああ、近くのスーパーマーケットに行ったと思うんだけど北海さんが遅いな。ちょっと電話をしてみるよ」


そうやって電話をした東さんが驚いている。


「北海さん?大丈夫?今どこに居るんだい?」

「え?何でそんな所に?」

「それにどうしたんだい、何で泣いているんだい?」

「大丈夫だから安心して帰ってきて。え?不安?じゃあ千明と常継に迎えに行ってもらうから、え?悪い?千明が本命で常継は荷物持ちだから大丈夫!じゃあね。待っているんだよ」


…何があったんだろう?


「常継、千明、聞いていたよね?済まないが駅ビルの地下食品街まで北海さんを迎えに行ってきて」


「え?何でそんな所に…」

「裏のスーパーマーケットじゃないんですか?」


「ああ、折角のケーキだからと頑張りすぎてしまったらしい」


「マジかよ…、それで?何で泣いていたんだ?」

「張り切って行ったはいいけど、これで僕達が喜ぶか不安になったらしい」


「あら、北海さんは純粋な方なのね」

「千明、純粋って言うのか?」


ジョマが泣いている?

…ボウヌイの後…タツキアの時…

私の中にまた一つの事が浮かぶ。


お父さんとお母さんはジョマを迎えに行こうとしている。

「お父さん!お母さん!!」


「何だ?」

「どうしたの?」


「道子さんを責めないであげてね。絶対!絶対だからね!」



「ん?何かよく分からんが千歳流の気持ち悪いって奴か?」

「それならいう事を聞いておいた方が良いわね」


そう言ってお父さんとお母さんはジョマを迎えに行く。



また2人きりになった部屋で東さんが私の顔を見る。

「千歳」

「うん、段々とわかってきたかも知れない。後は確認するの」

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