第99話 だったら戦わないで一緒にここで死ぬ?
「俺も行かなきゃ!」
そう言ったツネノリの手を離さずに私は再度抱きかかえる。
「千明さん…、恥ずかしいです」
「悲しいのはわかるの、でも落ち着いて。死んでもいいなんて戦い方をしないで」
「でも、俺はメリシアを助けられなかったから、生きていたって!」
「バカ!」
そう言って私はツネノリの頭を叩く。
驚いたツネノリは頭をさする。
「だったら戦わないで一緒にここで死ぬ?」
「え?」
「確かに北海さんの用意は周到に計画されていて、全員が力を発揮しないと勝てない風に出来ている。
でもだからって貴方が死んでいい訳ないでしょ?
貴方が死ななきゃ勝てない状況なら全員で死んだ方がマシなの」
「…俺…」
「私は貴方の為に死ねるわ。主人だってそうよ。子供の為なら親は喜んで死ねるの。
だから簡単に死ぬなんて言わないで」
「でも俺…、メリシアを失って…
2人でこの気持ちが何なのかを確かめようって約束していたのに、俺達これからだったのに…」
そう言ってツネノリは泣き出す。
「バカ!」
また私は頭を叩く。
「何で簡単に諦めるのよ!」
「え?今朝千歳が東さんに死者を蘇らせられないって聞いたから…」
「千歳は、私の娘…あなたの妹はまだ何も諦めていません。それなのに貴方は諦めるの?そんなに諦めきれるの?」
「そうだぞツネノリ」
突然ツネノリの胸から声がする。この声はルルさんの声だ。
「母さん!?」
ツネノリが慌ててポケットから球を出す。
球から声が聞こえてくる。
「ああ、久しぶりだなツネノリ。千明…神から聞いたぞ?なんていう無茶をするんだ…」
「ルルさん、久しぶり。私だって子供の為なら何でもするのよ」
「だからって生身でガーデンに来るなんて無茶もいい所だ」
「ふふ、驚いた?」
「ああ」
「でもルルさんだって千歳の為でも無理はしてくれるでしょ?」
「当たり前だ。私にとってはツネノリも千歳も大事な子供だ」
「私達は本当似た者同士よね」
「本当だな」
「え?母さんと千明さんが似ている?」
ツネノリが驚いて私の顔を見る。
「あら?似てない?」
「何だその言いぶりは」
「ううん…、何でもないよ」
「まあいい、この次元球での通信はそれなりに疲れるのでな。簡単に話す。
千歳も諦めていない通り、私達の誰もメリシアを諦めていない。
諦めているのはツネノリ、お前だけかもしれないぞ?」
「え?」
「千歳なんか、お前が泣いている間に魔女に会って談判をしておったわ」
「千歳が?」
「ああ、神の力を使わずに人が蘇生に導く事が出来れば邪魔をしないと言質を取っていたぞ」
「母さん、この世界にそんな方法があるの!?」
「一応理論は完成した。今は模索中だがお前は私を誰だと思っている?私はイーストの天才アーティファクト使いだぞ?」
その言葉で目が輝くツネノリ。
「だが、千明の言う通り、簡単に諦める気の奴に何かしてやっても無駄だろうがな…
ちょ…待て、誰だ…
うわっ!?」
「母さん!?どうしたの?」
「ツネノリぃぃぃっ、母ちゃんお前に会いたいよぉぉ、寂しいよぉぉぉ」
「ノレノレ母さん!?」
「そうだよぉ、母ちゃん達もこっちで頑張るから最後まで諦めるんじゃないよ!死のうなんて考えんじゃないよぉ!!」
「うん、ノレノレ母さんありがとう」
「ちょっと待ってて、ルルがうっさいけどー…エイ!」
「ツネノリ?」
「ノレル母さん?」
「今は辛いと思うけど頑張れ。
そこにはツネツギも居る、千歳や千明も居る。私達はずっとお前と居る」
「ノレル母さん、ありがとう!」
「ルルは本当にヤキモチ妬きで困るな、少し待て!
千明…はじめまして。私はノレル」
「はい、存じています」
私は通信先のノレル、ルルさんの別人格と初めて話をした。
「ツネノリの為に生身でのガーデン入り、本当にありがとう。今度会えたらゆっくり話がしたい、頼めるかな?」
「私こそずっと話したいと思っていました」
「では楽しみにしている。次だ…」
「ツネノリぃ!!」
「ルノレ母さん!」
「今、私じゃない私が頑張っているから、良い子で頑張るんだよー?」
「うん、頑張って待つから、メリシアの事お願いするよ」
「お願い!?ツネノリが私達に?嬉しい!!頑張るね!!…ああもう、私が怒っているから変わるね」
「ったく、ノレル達にも困ったものだ、まあとりあえず私達は全力を尽くす。お前も全力を尽くせ。死んでもいいなんて言うな。わかったな」
「わかったよ母さん」
「あー…千明?」
「はい?」
「私はヤキモチなんて妬いていないからな。決してツネノリを急にツネノリと呼んだこととか、抱きしめた事とかで妬いていないからな」
「ふふ、はい。わかっていますよ」
「それならいいんだ。じゃあなツネノリ。しっかりと戦ってしっかりと生きろ!残り約10日生き延びて帰ってこい」
「わかったよ母さん。ありがとう」
そう言うと次元球は静かになった。
「ツネノリにはお母さんが沢山ね。私まで入れると5人になっちゃうわね」
「うん、皆優しい母さんです」
「…
……
ヤキモチ、妬かれちゃったわね」
「うん、母さんはいつもノレル母さん達にもヤキモチ妬くから」
ルルさんがヤキモチ妬きだとは思わなかったが聞いているとルルさんらしいと思った。
「さあ、ツネノリ。頑張って生きてくれるわね」
「うん、ありがとう…千明さん」
「あ、お母さんでもいいのに」
「恥ずかしいから。
じゃあ…一回だけ。
慰めてくれてありがとう。俺なんかの為に無茶してくれてありがとう。千明母さん」
ツネノリは真っ直ぐな目で私を見てそう言う。
この子の為に無茶をして良かったと心からそう思えた。
「どういたしまして、大事な子供の為なら親は何でも出来るのよ」
「うん、それじゃあ俺、今からあっち行ってやっつけてくるよ!」
「はい、お母さんはここで3人が無事に帰ってくるのを待っていますからね」
「行ってきます!!」
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