第63話 俺達の子供たちは将来有望だな。

俺がゼロガーデンに入ると時間にして夕方の4時半くらいだった。

ゼロガーデンと日本では8月の22日。

セカンドガーデンでは12月の4日が終わる所で、ポイントアップのイベントは後2日で終わる。

まずはひと段落と言ったところだ。


「ただいまー」

「おおツネツギ!帰ったか!!」


ルルは上機嫌で俺を迎えてくれる。

ルルは俺に食事はどうする?と聞いてきた。


「あー、食べるー」

「何だ、食べるのか?」

ルルが意外そうに言う。


「何だって何だよ?」

「いや、東が「今日は子供達と3人でホテルのディナーを食べる事になっているよ」と言っていたから、てっきり私の食事なんか興味ないと思っておった」

ルルは口ではそう言うが嬉しそうに食事の用意を始める。


「ホテルの飯はなぁ、味は良いんだが、なんか違うんだよ。俺はルルの飯が好きなんだ」

そう言うと着席をする。


「飯は急がないでいいんだが、先に用事を済ませにセカンドに一瞬行きたいんだ。

そっちを頼めないか?」


「なんだ?どうした?」

俺は千歳にも人工アーティファクトを使わせてみたら無事に使えた事、本人が持ちたがっている事、俺やツネノリ自身が持たせたい事を話した。


「そんなことか、ほれ好きなだけ持っていけ」

そう言って一通りの指輪と腕輪が出てきた


「用意早くない?」

「ふっふっふ、そこは私だからな。ツネノリも全てのアーティファクトを使える見込みがあるとわかったので全部持たせたくなったのだ」


「全部はやめようぜ?」

「何故だ!!?」


「本人が使いこなせずにバトルスタイルに溺れ……」

「ツネツギ?」


俺は千歳の言った北海の姿勢を思い出していた。


「ルル、聞いてくれ」

そして北海のした事、千歳がどこか直感で感じている事、そんな事をルルに話す。


「ふむ、千歳はなかなか鋭いものを持っているな。間違っていないのかもしれない」

「ああ、俺達の子供たちは将来有望だな」


そう言って俺はルルのアーティファクトを受け取る。

「全部持っていくか?」

「ああ、子供たちに選ばせてみようと思う。それで内容を教えてくれ」


人工アーティファクトは火、水、氷、雷、時、風、回復、解毒で指輪がB級、腕輪がA級だった。


「なあ、もっと色を変えるとか分かり易くしてくれよ。特に風と回復と解毒がわからない」

「そうか?多分ツネノリはわかるぞ?回復が薄い緑色、風が濃い緑色、解毒が緑色の宝石が埋め込まれている」

…そう言われればわからなくもないが…


「どうせだったら腕輪なんか装飾の部分に「かいふく」と書こうぜ?」

「そんな事をする奴を見たことが無い。格好悪い。却下だな」

そう言ってルルが俺を見ると近づいてきてキスをしてくる。


「どうした?」

「ツネツギの顔が辛そうだったからだ。これで元気を出せ」

そう言ってルルは20年経っても赤くなる。


「ありがとう。元気が出た。ちょっと行ってくる」

「ああ、食事は作っておく。冷める前に帰ってこい」


俺はそう言ってセカンドに行って渡すと日付が変わった後だった。

無事にジョマからの運営アナウンスで殺人をしてもポイントが手に入らなくなったことが通達されていたと言う。


「それで運営からの謝罪で500ポイントが全プレイヤーに入るんだって」

「俺達、今さっきポイント見たらランクがとんでもない事になっていたよ…」


ああそうか、俺達は保守派としてプレイヤーを守ったから800人のプレイヤーを倒している。

全員の平均ランクを8としてもセカンドガーデンの限界値ランク30を大きく上回っている。


「ランクが頭打ちか…」

「うん」

「そうなんだよ」

後日運営から修正が入るかもしれないから気にするなと伝えて俺は本題の人工アーティファクトを2人の前に出す。


ツネノリは俺の持ってきたアーティファクトの量を見て「母さんならやると思った」と言って笑い、千歳には「得手不得手があるから使えそうだと思ったものを装備して」と指南を始めてくれていた。


「千歳、試すのは明日以降だ。間違ってもホテルを破壊するなよ」

俺は千歳の性格なら俺が消えた後に試すと思ったので釘を刺す。


「え?じゃあ持ってこなきゃいいのに。目の前にあったら使いたくなっちゃうよ」

「それこそ、北海…ジョマの話だろ?渡された千歳が自分で考えるんだ」


「うっ、ジョマの名前を出されると弱いな…仕方ない。ツネノリ!私が暴走しそうになったら止めてよね!!」と調子の良いことを言っていた。


「すまない、俺は多分このままログアウトしないといけなくなる。

2人とも身体に気を付けてくれ。

明日の予定は東に話しておく、比較的に敵の弱い土地に転送させるからアーティファクトのテストと光の武器を試すんだ」

「おっけー」

「わかったよ父さん」


「じゃあ、2人ともすまないな」

「ううん、母さんの所にツネジロウを置いて帰るでしょ?母さんによろしくね」


「ツネジロウ?ああ、お父さんがお父さんじゃない時のお父さんか…。

お父さん、その後うちに帰るでしょ?お母さんによろしくね」


俺は2人にわかったと言ってセカンドを後にする。


「お、戻ったな。もうすぐ出来るぞ」

そう言ってルルが俺を出迎える。


「子供たちはどうだった?」

「千歳がはしゃいでいた。ホテルを破壊しないか心配だがツネノリが居れば大丈夫だろう」


「ツネノリが居ればか…確かに千歳はツネノリを大切にしてくれているな」

「ああ、ちょっと心配なくらいにな」


「何を言う?あれは兄が欲しかった妹の美しい姿だ」

「ん?なんでルルが知っている?」


「まあ、良いではないか、食事にしよう」


そう言って出てきた食事はイノシシのシチューとパンだった。

「シチュー…」


「嬉しいかツネツギ?どうしてお前が食べたがっているのを知っていたかと言う顔だな」

…シチューとパンはセカンドのホテルで出てきたんだよ。


「東か?」

「ああ、さっき報告に来てくれてな。シチューでツネツギの機嫌をとりなしてくれと言っていた。後はこれを置いて行った」


東が置いて行った映像は2つあった。

1つはツネノリが二刀流で300人のプレイヤーを圧倒している所。

もう1つは東が俺に殴られたところから千歳に殴られて謝った所までの映像だった。


「これで千歳がツネノリを大切にしていると知ったのか」

「ああ、それにしても千歳は千明によく似ているな。見た目以外で言えば着眼点もそうだし、真っ直ぐな所なんかはよく似ている。まあ、怒ると神であろうが容赦なく殴る所はツネツギだがな。

私はコレを見て「与える者」の事を思い出した」


ああ、居たね与える者。

ゼロガーデンが危機に陥った時、北海の使い…魔女に篭絡されて20年間イチャイチャと酒を飲んでいた神の使い。

本来なら与える者と言う名が示す通り、人間に試練と祝福を与えるのが仕事だったのに、酒に溺れている間に疫病や魔物、凶作…そして子供が生まれないように北海の使いに世界を操作されていた大馬鹿野郎。

俺は気絶したそいつを叩き起こすときに思い切り殴り飛ばしていた。

俺が召喚された原因かも知れない事、そんな俺と結婚をしてくれたルルがこの先俺が日本に帰れた場合に孤独になってしまう事。

そう言った気持ちを全部乗せて思い切り殴り飛ばした。


そう言えば、ゼロガーデンの人口ってどうなったんだろ?

「確か、あの与える者って人口が1万5千人になるまで神の使いに戻れないんだよな?」

「さあな、前に5年くらいカムカの二の村で仕事をして生活をしたところまでは知っているがな」


俺はその後1時間くらいルルとのんびり過ごした。

ルルがソワソワと研究を再開したそうなのを見たので「そろそろ向こうに行くよ」と声をかける。

ちょっと嬉しそうな顔に傷ついた。


「ルル、ツネジロウを寂しがらせるなよ?」

「う…、大丈夫だ。ツネジロウはそこら辺懐の広い男だからな」


「…俺と全く同じ考え方するんだろ?」

「今日くらい大目に見てくれ。ツネツギは銃弾を浴びてボロボロであったじゃないか?その分も含めてツネジロウも寝かしつけるから安心してくれ」


「ルルは寝ないのか?」

「もう後少しなのだ。完成させてくれ」


「…無理はするなよ」

「わかっておる。それに明日の朝が来ればツネツギに寝かしつけられるしな」


まあ、徹夜をしたらそうするつもりだった。


「わかった、くれぐれも無理をするな」と言って俺はルルにキスをしてからゼロガーデンを後にする。



開発室に居た東に「仕返しとは男らしくないぞ」と言うと笑いながら「もう少しフランクな付き合い方をしてみたくなったのさ」と言ってきた。

そう言えば、こう言う付き合い方は今までしていなかった気がする。


千歳の存在が良い方向に影響を及ぼした結果なのかもしれない。


「さ、今日も北海さんがお出迎えだ。これでも少しの残業は認めさせたんだけどね」

そう言われて俺は時計を確認する。

時刻はルルの所を出た時と同じ夜の6時半を過ぎた所で、残業と言ってもほとんどしていない。


「副部長、さあ今日も早くお帰りください。

今日は銃弾を全身に受け止めたんですからご自宅に帰ってゆっくり休んでくださいね」


「北海…」

「はい?なんでしょうか?」

北海は魔女の顔ではなく日本人・北海 道子の顔で俺を見る。


「文句も恨み言も沢山ある」

「そうでしょうね」

そう言う北海は目を瞑ってしみじみと頷く。


「だが、色々な事は素直に感謝している。ありがとう」


「え?」

北海が目を丸くして俺を見る。


「ありがとうと言った。

この話が無ければ、娘との問題、息子に何があったのか、娘と息子の仲…そう言うものがここまでうまく行く事も無かっただろう。

それは北海のおかげだ。

物の見方が違う人間の刺激と言うものを感じた」


「アハハハ、何を言っているのかしら?それは結果でしょ?

まだセカンドでのイベントは10日以上あるのよ?

明日には私が憎くて仕方なくなっているかも知れないわよ。アハハハ」

北海は魔女の顔になって笑う。


多分、この女の本質に俺達はたどり着いていない。

現状、一番近いのは千歳なんだ。


「お嬢様にも良く言っておいてくださいね。

それにしても奥様共々素敵で個人的にはお嬢様は大好きです」


「ありがとう。妻にも娘にも伝えておくよ。

じゃあ、東、また明日。あ、今回はイベント中だから休日出勤は認めてくれよな!」


「ああまた明日。社長には僕から言っておく。

北海さんもいいよね?」


「ええ、自分で行動する人って私大好きなの。許しちゃうわ」

そして俺は北海と一緒に外へ向かう。


「お嬢様、とても面白いですね」

話し方は北海になっている。


「ん?どこがだい?」

俺もいち上司として会話をする。


「東部長を怒鳴りつけてあんなに殴った所とか、「光の腕輪」の独創的な使い方とかです。後は敵視されている私への接し方ですね」


「ああ、自慢の娘だ。ただ人並み以上に殺人に傷つく。あまり過激な世界はまだ早いと心配してしまうよ」


「それは失礼いたしました。明日もご活躍を期待しております」

玄関に着いた俺をそう言って北海は見送る。


「お手柔らかに頼む」


そう言って俺は帰路につく。

帰宅したのは夜の7時半、家では千明がスマホで何かを熱心になって見ていた。


「ただいま。千明が熱心にスマホを見るなんて珍しいな。何を見ていたんだ?」

「おかえりなさあなた。子供たちのセカンドでの行動をダイジェストにして東さんが送ってくれたの」

東め…そう言う細かさはありがたいが…

何を見たのか千明に聞く。


大まかにプレイヤー同士の殺し合いの部分、千歳が正当防衛で人を殺してしまって傷ついている所。俺の胸で泣いて謝ってしっかりと眠った事。

保護対象のプレイヤーを守るために戦った事、千歳の独創的な戦い方。そしてツネノリが身体の記憶を元に圧倒していた事。

そして俺が東を殴った所、千歳が東を何回も殴った所があったと言う。


…東め。


「千歳ってばあんな顔もするのね?大きくなってくれて嬉しいわ」

「ああ、そうだな」


「でも東さんって神様なのにいいのかしら?」

「いいんだろ?ちゃんと千歳に感謝もしていたし、千歳も謝った」


「そうならいいわ。夕飯、出来ているからすぐに用意しますね」

そう言って千明がキッチンに行って何かに火をかける。


…ん?

この匂い。



「うふふ、なんでわかったかって顔してる」

「東か?」


「ええ、動画を送ってくれた時に「常継がシチューを食べたがっているから出して機嫌をとりなしてくれ」ってあったから大至急作ったの」


そうして千明は俺の前にパンとシチューを出してくる。

くそ…東め。


そのタイミングで俺のスマホが震える。

メールが入ってきた。


送り主は東?


「常継、これは僕からのお返しだ。これでチャラにしよう。美味しく食べてくれ」


あの野郎…懲りてないんじゃないのか?

俺は俺でツネノリの扱いに納得いってないし、千歳だって自分の気持ちに素直になって怒っていただけだろうに。


…くそ…



せめてもの救いは、セカンドのホテルはビーフシチュー。ルルはイノシシ、千明はシーフードのホワイトシチューだった事だ。

どれも美味しかったが、一日中…、それも体感にしてここ4時間で食べるものではないだろう?

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