ツネノリの章⑤運命の出会い。

第64話 俺達の世界ではそんなの聞いた事がない。

朝、起きた俺の横には千歳がいて俺の左腕に抱き着いている。

…成り行きで一緒のベッドで寝る事になった。

父さんや母さん…千明さんがこれを見たら何と思うのだろう?

昨日の夜に千歳が言ってきた言葉を聞いてから、心のどこかでそう思うようになってしまった。


昨晩、やはり千歳はうなされた。


「うぅ…グロいよぅ…」


そう言って起きた千歳が「1人はやだ」と言って俺のベッドに入ってきた。

俺は千歳がうなされる事も考えていていつでも起きられるように気をつけていた。


そして昨日、父さんにあやして貰ったと聞いていたので何となく心構えは出来ていた。


俺が受け入れると、千歳は俺の胸に顔を埋める形で向かい合ってきた。

息苦しくないのか?


千歳が寝るまで話に付き合ったが、何でも…1人で敵を受け持った時、細かく散って当たると爆発する玉や爆発する矢を、腕を発射台にして放ったと言っていた。

何故どれも爆発するのかと聞いたら死体や苦しむ顔を見たくなかったらしい。

だが顔は見なくて良くなったが肉片やら血やらは見る事になって夢を見てしまったと言っていた。


なんとも難儀な話だ。

そして千歳はなかなか眠りにつかず話が長かった。


「ねぇ、ツネノリってゼロガーデンに彼女とか居るの?」

「なんだそれ?」


「居ないの!?なんで?」

「なんで居る前提の話になる…、俺の家は父さんと母さんの素性の事もあるから村から離れたところに住んでいるんだ。村に行けば同年代や年下の異性は居るが別にたいした交流はない」


俺はイーストとサウスの国境付近に住んでいる。

そもそもゼロガーデンは東さんが世界を作る時に箱形の世界を4等分してあって、北がノース、東がイースト、南がサウス、西がウエストとなっていて4つの国になっている。

母さんの出身はイーストガーデン。

父さんと母さんの仲間は世界中に居るが身近なのはサウスガーデンに居るので家を建てる時にイーストとサウスの国境付近にしていた。


「ふーん…、そっか。お父さん…ウチに帰ってくるとツネノリの所は金髪になっちゃうんだもんね。

それは困るよね。

あ、私も今度金髪のお父さんに会ってみたい。

金髪と目の色以外で何処か違うの?」

「いや、違わない。

違わないんだが、何故か…何処か空気みたいなものが違うんだ。

だから母さんや俺が無意識に寂しそうな顔をするのを父さんが気にして、ツネジロウ…金髪の父さんが傷つかないように東さんに頼んでた」


「私にも違いわかるかな?」

「わかるんじゃないか?」


「それはそうとツネノリに彼女とか居なくて良かった」

「何でだよ?」


千歳は俺の胸から顔を離すと俺を見て笑う。


「それは彼女にヤキモチ妬かれたくないから。

こうして一緒の布団で寝ていたのがバレて怒られたくないじゃない」

「別に俺達は兄妹だろ?そんな勘ぐりをされる筋合いはないだろう?」


「ふふふ、ツネノリは偉いね。若い女の子が同じ布団に居たら困らない?」

「わからない…、それが向こうの世界の普通なのか?」

俺は思ったままを千歳に言う。


「普通かはわかんない。

でも私達の世界では兄と妹が恋人になる話とか、恋人でもないのに兄が妹を襲ったりする話とか、逆に妹が兄をとかもあるし、父親が娘とか、娘が父親…母親と息子とか……うん。

沢山あるんだよ。

私は物語の中でしか知らないけど物語になるくらいだからきっとあるんじゃないかな?」


「俺達の世界ではそんなの聞いた事がない」

まあ、俺が知らないだけかも知れないが…


「なんだろうね?」


「それなのに父さんみたいな結婚の仕方が認められないとか…もう訳がわからないな」


そうして俺達はそんな話を少しした。


「千歳?」

「なに?」


「明日も大変だから落ち着いたら寝た方がいい。

まだ、セカンドガーデンには居るんだから話はいくらでも出来る」


「うん…、全部片付いたら泊まりに行っていい?」

「ああ」


「ツネノリもウチに来れたら良いのにね」

「それは東さんに聞いてみないとな。

それに俺には危ない世界かも知れない」


「そっか…、確かに今考えると向こうよりセカンドの方が楽しいかも。

じゃあ東さんに頼んでウチと同じ家をセカンドの端、誰も来なそうな所に作って貰うの。

それで5人で集まれたら良いね」

「そうだな。さあ寝よう。おやすみ千歳」


「ありがとうツネノリ。おやすみなさい」

ああ、千歳に彼氏は居るのだろうか?聞いてみれば良かった。

父さんは知ったらなんて言うかな?

慌てふためきそうだな。


そんな事を考えていたら俺はすぐに眠れてしまった。



そして起きた俺は非常に困っていた。

千歳が俺の左腕に抱きついている事ではない。


全身が重くて筋肉痛になっていた。


「な…なにが起きた?」

ようやく寝てくれた千歳を起こすのは忍びない。

だがこのままではどうしようも無い。


「東さん、聞こえますか?」

俺は東さんを呼ぶ。


「聞こえているよ。辛そうだね」とすぐに返事があった。


東さんに身体の状況を聞くと、急に修行をした当時の動きをした反動だと言われた。

千歳を起こすように言われたので仕方なく千歳を起こす。


「ツネノリ!?大丈夫!!?」

起きた千歳は寝起きの悪さもなく俺の異常に気が付いて飛び起きて心配してくれる。


「千歳、おはよう。ツネノリなら平気だよ」

東さんが千歳を落ち着かせる。


「でも、酷い筋肉痛みたいな状態だから、軽くマッサージをしてあげてくれないかい?

そしてその後に回復のアーティファクトを5分間使ってあげて欲しい」


「わかりました!」

そう言って千歳は俺を念入りにマッサージしてくれる。



「何か、昔お父さんにも同じような事をした記憶がある。お父さんもゼロガーデンで無茶した後とかだったのかな?」

そう言いながら押す千歳の指は丁度いい力加減なのだがそれでも痛い。


何となくだが、兄が弱音を吐くのも苦しむ様を見せるのも良くないと思い俺は我慢をする。

我慢だ我慢。


「くぅ…」「ん…」「ぬ…」と言った言葉がどんどん口から出てしまう。


「大丈夫ツネノリ?無理しないで痛い時は痛いって言ってね」

「ああ…っぁあ!!?」

余りの痛みに声が出てしまう。


「ふふふ、痛いって言っていいのにー」

そう言って千歳が少し意地の悪い笑顔を浮かべて力を籠める。

俺の身体は千歳の指に反応する玩具のようになっていて千歳が笑いながら遊んでいる。


「ほら、ツネノリ痛いって言っていいよ」

「ん…」


「えー、我慢するの?ここは?」

「くっ…」


そんなやり取りがしばらくして終わった所で千歳が回復のアーティファクトを使ってくれてそれは本当に心地よくて痛みが大分引いた。



「大分マシになった。千歳ありがとう」

「ううん、お安い御用だよ。もっとやってあげても良かったのに」


そう言って千歳が笑っていると東さんが手配した朝食が届けられる。

俺達は朝食を食べ終わって支度を整える。


母さんから渡された腕輪を右腕と左腕に追加で装備をした。

千歳はウエストポーチに自分の分のアーティファクトをしまった。


「準備は良いか?」

「うん」


「東さん!」

俺は東さんを呼ぶ。


「準備は良いみたいだね?ツネツギが言っていた通り比較的低ランクの魔物を相手に戦い方を見極めて行こう」

東さんがそう言った時に別の声がした。


「おはよう。千歳様、お兄様。よく眠れたかしら?お兄様は反動で辛そうね」

「ジョマ?」


千歳は友達と言った感じで魔女に話しかける。


「北海さん…」

東さんが困った声で魔女に話しかける。


「別に東の邪魔はしないわよ。私は昨日頑張った2人にご褒美をあげたくて来たの。いいでしょ?」


褒美?何があるんだ?


「お兄様はそんなに身構えなくて平気よ。

本当にご褒美。次のvs巨大ボスキャンペーンで最初に巨大ボスが襲う街を教えてあげる。

それで今日からはそこで修行でもなんでもしなさいよ。」


「北海さん、何でそんな事を?」

「別に~、気になるなら副部長と一緒に悩めばぁ?千歳様なら案外すぐにわかってくれるかもー」


そう言った魔女は「アハハハ」といつもの笑いをする。


「うーん…、今の部分だけだと弱いけどアレかな?街に愛着をもって本気で守れるようにしようって事かな?」

「大体正解よ。流石は千歳様!!」

魔女は上機嫌でそう言う。


「で、その場所は何処だい?」

東さんが魔女に聞く。


「タツキアよ」

タツキア、確かそこは初心者が冒険を始めるのに使う村の名前だった。


「後はお兄様には面白いものを見せて貰ったご褒美って所かしらね。タツキアには温泉もあるからゆっくり身体を癒すといいわ」


魔女はそう言うと静かになった。もう帰ったのかもしれない。


「東さん?」

「ああ、彼女が嘘をついているとは思えない。今日から2日間はタツキアで修行にしよう」

そう言うと俺達の足元が召喚の光で光る。


次の瞬間には俺達はタツキアに居た。



「あ、一個忘れていたわ」そう言って目の前には魔女が姿を現して俺を見ていた。


「はい、これあげる」

そう言って父さんが持っているような端末を出してきた。

これ、見覚えあるでしょ?


「父さんの端末?」

「ちょっと違うのよ。初めて会った日の事を覚えている?

あの日にモニターって見たでしょ?あれを小型化して端末に似せたの」


「モニター…」

「そう、それでこの中にはある3人の映像を入れてあるわ。昨日東から貰った映像と一緒に見ると楽しいと思うわよ」


楽しい?

昨日東さんから貰った映像は俺が二刀流を使いこなしていた時の映像だ。


「ふふふ、気になる?聞きたい?まあ、教えてあげるから見るか見ないかは全部自分で決めなさい。

その中にはね…

ショートソードで流れるような、舞うような剣技を使いこなした女剣士、ノースの剣姫、アーイの戦い。

ロングソードで荒々しく敵を打ち倒してきた剣士、ウエストの王、ガクの戦い。

そしてあなたの師匠の1人であるザンネの若い時の戦い。ザンネは突剣からショートソードもロングソードも遜色なく使えたわ、この映像は突剣のザンネの戦いが入っている。

もし二刀流を練習すると言うなら見てみなさい。きっと為になるわ」


それが本当なら俺は嬉しい。


「多分、ザンネの事だからあなたに突剣もショートソードもロングソードでも全部仕込んだと思うから見様見真似で動いて見るといいわ。身体が覚えていれば反応出来るわよ」


「ジョマ、ありがとう」

千歳がまっすぐに魔女を見て感謝をしている。


「ふふ、どういたしまして。私は可能性を伸ばすことが好きなの。不利とか有利とかは後の話。お兄様に力が眠っていれば起こしてあげたくなるのよ」

…これだ、またこの魔女の行動がわからない。

父さんも東さんもわかりかねていると思う。


「じゃあ、帰るわ。

東、睨んでもダメ。

これでも私はアンタ達の想いも汲んで残りの師匠の話はしなかったんだからいいでしょ」

そう空に向かって魔女は言う。


「ああ、後もう一個。

温泉で一番おススメの宿は村に入ってすぐにある所だから。

ちゃんとそこに泊まりなさいよね」

そう言うと魔女は帰って行った。


「…仕方ない。ツネノリ…その映像を見ながら練習をすると良い。だが無理はしないでくれ。急にスタイルを変えると今まで勝てていた相手にも勝てなくなるからね」

東さんが心配そうに言ってくれる。


「わかりました」

「じゃあ、とりあえずスタッフカウンターに行って挨拶をして宿屋に予約を取ろう。その後はいよいよ修行だ」

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